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 報  告

 第21回ダイヤモンドシンポジウム 

 

昨年の11月21日,22日の両日,長岡技術科学大学の講義棟A講義室およびセコム記念ホールにて第21回ダイヤモンドシンポジウムが無事開催された.念願の長岡市(新潟県)での開催である.ご承知のとおり,3年前の第18回のこのシンポジウムをここ長岡市で開催する予定だったのであるが,2004年10月に発生した新潟県中越地震のため,急拠つくば市の産総研での開催に切り換えた経緯がある.また,2007年7月に新潟県中越沖地震が再び発生したときは「またか」の不安がよぎったが,ようやく無事に開催の運びとなったことは大きな喜びである.また第4回以来の約16年ぶりの開催で,その頃を懐かしむなど,懇親会でも話題が盛りだくさんであった.肝心の中身も口頭発表が35件,ポスター発表が80件,参加人数203名とここ数年続いている盛況ぶりである.以下にその発表内容を紹介する.

初日午前は成長・合成に関する発表が7件あった.産総研の徳田らは,一般に高品質ダイヤモンド成長には不向きとされる高温高圧合成Tb(111)基板上に,メサ構造を形成したうえで,マイクロ波プラズマCVDによりいくつかの成長条件においてダイヤモンド成長を試みたところ,メタン濃度0.5%では三次元島状成長となり表面は成長前よりもむしろ荒れるが,0.05%では二次元+島状成長,0.005〜0.025%ではステップフロー成長と思われる成長モードが実現でき,原子レベルで平坦な表面を形成することに成功した.産総研の渡邊らは,原料ガスとして高純度水素ガスおよびメタンガス(12 CH499.9%for12Cまたは13CH498.7%for13C)を使用することにより,炭素の同位体効果を有するダイヤモンド膜の作製を試みた.結果,カソードルミネセンス(CL)測定によるフリーエキシトン(FE)ピークにおいて,同位体の効果から期待されるピークシフトが観測された.この傾向は,チャンバ内の残留炭素をコントロールすることによってさらに改善されたとのこと.13CH4ガスが市場で流通しており,比較的安価に同位体効果の実験が実現できるという点でも興味深い.青学大の岡田らは,オフ角を有するMgO(100)を基板として用いたヘテロエピタキシャルダイヤモンド成長を試みたところ,双晶の発生が抑えられる結果が得られたとのこと.ミスフィットの大きい系であるため本来期待されるようなオフ角効果は見えにくいかもしれないが,バッファ層であるIr(100)表面のオフ角起因の段差に沿ってダイヤモンド核が発生している様子から,核発生制御という観点から見て興味深い結果なのかもしれない.早大の河野らは,超伝導転移を示すボロン(B)ドープダイヤモンドにおける転移温度の結晶面方位依存性について,結晶格子伸張という観点から議論した.(111)面上では成長初期段階からBが取り込まれるのに対し,(001)面上では成長が進むごとに徐々に取込み量が増加していくとのこと.NTT基礎研の植田らは,ダイヤモンド中に種々の不純物をイオン注入した後,高温高圧アニールを施す手法によって,ダイヤモンドに対する不純物ドーピングを試みた.CL観測から,イオン注入前に存在したFEピークが注入後に一度消失し,高温高圧アニールによって再び出現する結果を得,イオン注入による損傷が高温高圧アニールによって回復する効果が示された.愛媛大の八木らは,大気開放下でのマイクロ波プラズマCVDによるダイヤモンド成膜について報告した.成長速度約100mm/hで,ラマン分光で確認できる程度の多結晶ダイヤモンドが数ミリ径の範囲で生成された.膜中の不純物量などが未確認で,よりハイパワーにした場合の金属電極の影響など,いくつかの課題があげられたが,今後の発展に期待したい.MIRAI-Seleteの山崎らは,集積回路中のビア配線への応用を念頭に置き,パルス励起型リモートプラズマCVDを用いたカーボンナノチューブ(CNT)の成長について報告した.ビア配線への応用を考えた場合400°C以下での成長が必須であり,数十Wの低い平均出力を実現できるパルス励起型にしたとのこと.その結果,400°C以下の低温でCNT成長を実現したが,配線としてはまだ電気抵抗が大きい.CNT密度が1011cm-2以下であることや低温ではCNTの品質が落ちることなどが課題である.

初日午後は表面の修飾・終端や分析に関する発表が7件あった.産総研の中村らは,単体硫黄の光分解反応を用いることにより,水素終端ダイヤモンド膜表面への硫黄官能基化学修飾を試みたところ,水素終端部分がチオール基に置換されたことを確認した.さらに得られた硫黄官能基化ダイヤモンド膜に金ナノ粒子溶液を作用させることにより,金ナノ粒子が自己組織化により担持されることを明らかにした.東洋炭素の東城らは,フッ素ガス電解合成用の電極として,熱フィラメントCVD法によるBドープダイヤモンド被覆カーボンの使用を試みた.その結果,現在電極として一般に使用されている非被覆カーボン電極が,電流密度約100mA/cm2以上の使用において陽極効果(フッ化物層が電極表面を被覆して電解液がぬれなくなる現象)により電解が停止してしまうのに対して,ダイヤモンド被覆カーボン電極では陽極効果が起こらないことが確認された.さらに,大きな電流密度での寿命評価においても,電位変動が+3mV/月と極めて安定であることが確認された.産総研のKumaragurubaranらは,水素終端リン添加ダイヤモンド(100)表面に対する真空熱処理効果をXPSにより評価した結果について報告した.真空下での温度上昇に対して,(100)面においては約850°Cまで水素終端表面が維持され,850°Cを超えたあたりから水素が脱離し約900〜1000°Cで炭素再構成表面が形成される様子が,C1sピークのシフトから論じられた.NTT基礎研の影島らは,水素(H)終端表面を利用したダイヤモンドFETのゲート・ダイヤモンド界面におけるHの役割を明らかにするため,第一原理計算を用いてAl・ダイヤモンド(100)界面に対するショットキー障壁高さに対するHの効果を検討した.結果,ショットキー障壁の高さに対してはHの存在があまり関係ないことが示唆された.兵庫県立大の村松らは,強力な光を用いた放射光軟X線分光法によるダイヤモンド中の不純物や欠陥の評価を行っている.今回高圧単結晶および気相エピタキシャルダイヤモンドのバンドギャップ中に価電子帯の上4.0eVのところに欠陥と思われる準位を見いだした.兵庫県立大の神田らは,DLCの標準化プロジェクトの成果の中から,軟X線を用いた炭素K端の吸収端近傍微細構造(NEXAFS)により決定したDLC膜中のsp2/sp3比と,水素含有率・密度との関連などについて報告した.今後要望があれば,電気的・光学的性質などについても調査をするとのこと.

午後の特別講演は産業技術総合研究所,ナノカーボン研究センターの古賀義紀副センター長より「私の歩んだ炭素研究の道」というタイトルで行われた.まず「先進機能創出加工技術」(1990〜96年)プロジェクトの頃について,星間分子探しと炭素系のクラスタについての当時の研究を,分子式を懐かしそうに振り返りながら紹介した.クロトーらの研究に触発されながら,フラーレンにHeを衝突解離で初めて内包することに成功し,そのときの炭素の欠落の規則性についても見いだした.次に「炭素系高機能材料技術」(1998〜2003)(FCT)プロジェクトの頃については,その記事がNatureに取り上げられ,研究も進めやすかったとの感想を述べた.その中でレーザアブレーションにより形成した炭素膜中のsp2とsp3の比率をXPSのピーク分離によって決めることに成功し,sp3が84%も含む膜の合成に至った.炭素膜は機械応用だけでなく,フッ素添加によりバイオ応用も可能であることを示した.さらに,グラファイトの多面体開発にも触れ,この材料が圧力で,ナノホーンからグラフェンへとさらにグラファイトボール(多面体)に変化する興味深い特性を示していることを紹介した.また,現在はナノテク先端部材実用化プロジェクトでナノダイヤモンドの製品化を進めている.この技術は先のFCTプロジェクトの成果を引き継ぎ,発展させている.ダイヤモンドの合成には通常高い基板温度を必要とするが,プラスチック上にも形成できるほどの低温で,大面積に合成できる技術を開発した.粒径3.1nm,透過率90%,屈折率2.1,複屈折率10-4の光学的にも非常に良好なものである.最後に,星間分子探しの壮大さには感動するわけであるが,宇宙でどうしてそのような分子が見つかるのか?極低温で,衝突機会が年に1回程度という真空装置(宇宙)ならではのようである.

特別講演の後は講義棟を後にして,ポスター会場であるセコム記念ホールに向かって,大学の端から端へと移動した.ポスター会場は熱気で暑いぐらいに盛り上がった.ポスター発表は研究開発の最近の流れを反映して,実用化を目指した発表も目立った.また,自然界を模擬した発表も目を引き,バイオ応用を目指す場合は生命の中に研究の方向性を見いだすことも一つの方法と思われた.ポスター発表の後は,そのまますぐ横の広い会場で懇親会が開かれた.ここで発表されたポスター賞の受賞者を以下に紹介する.最優秀賞は慶應義塾大学理工学部の柏木洋介君で,“蓮の葉を模擬したナノパターニング―DLC複合化超撥水性表面の医用応用”でした.優秀賞は早稲田大学理工学術院の加藤良吾君で,“長寿命触媒微粒子による長尺カーボンナノチューブ成長”でした.そして優秀賞のもう一人は産業技術総合研究所ダイヤモンド研究センターの池田和寛君で,“ダイヤモンドショットキーダイオードにおける耐圧構造の試作”でした.

2日目の午前前半はディテクタおよびダイオードなど電子デバイスの発表が5件あった.物質・材料研究機構の廖(Liao)らは単結晶ダイヤモンド薄膜を用いた深紫外線フォトディテクタを発表した.従来のドット型電極からくし形電極を用いた金属-半導体-金属型にすることで光応答速度と量子効率が大幅に改善した.神戸製鋼の橘らは励起光型のX線ビーム位置モニタを発表した.ブレード方式やピクセルモニタ方式などがある中で,より簡便なスクリーンモニタ方式を採用し,450W/mm2の高密度ビームに対して到達温度や発生する応力が安全圏であることを見通して実験を進めた.入射X線強度が高い領域まで励起光強度の直線性が得られ,ビーム位置も確認できた.X線の位相の乱れはダイヤモンド表面の平坦化により抑制した.物質・材料研究機構の寺地らは低濃度p形ダイヤモンドで横型ショットキーダイオードを作製した.表面に絶縁性のフロリナートを塗布することで逆方向動作時のリーク電流を抑制し,表面での絶縁破壊電界がバルクに比べて小さく,表面保護が不可欠とした.また,表面でのリークは表面付近の欠陥の可能性があると説明した.産総研の梅沢らはp形ダイヤモンドの縦型ショットキーダイオードで温度変化測定を行った.逆方向特性は高温でもSiCのショットキーダイオードと比べて1〜2桁低いリーク電流となった.しかし,順方向から求められる障壁高さを想定したTE,TFEモデルの解析よりリーク電流が高くなり,1.3eVと低く設定してTFEモデルで説明できるとした.電極のエッジ部の電界集中など電界緩和構造などでの解析と実験の必要性を示した.神戸製鋼の川上らはヘテロエピタキシャルダイヤモンド上にMISFETを作製し,ゲート絶縁膜薄膜化とゲート電極長縮小により,水素終端型以外のダイヤモンドFETで初めて10GHzを超える高速動作を示した.また,300°C前後での特性の変化を比べ,特性劣化のないことより高温耐性の実証をした.

2日目午前後半の発表はダイヤモンドの電子源およびCNTやBN膜の配線応用について6件あった.物材機構の小泉はpn接合形電子放出素子を報告した.高品質のn形リンドープ層から負性電子親和力をもつp形ホウ素ドープの水素終端表面に少数キャリヤ注入することにより1.25%という高い電子放出効率を示した.0.1〜0.2%からの今回の効率改善にはメサ加工後や電極形成後の表面汚染を除去する水素プラズマ処理が重要であると説明した.東北大の河野らは小泉の作製したpn接合形電子放出素子の放出電子位置分布やエネルギー分布を放出電子顕微分光装置で測定した.放出位置は電極の周りのp形が露出している位置から放出されていることが確認された.放出電子エネルギーは伝導体下端より低く,n形の伝導体から注入された電子は水素終端したp形ダイヤモンドの表面準位を介して電子放出している可能性を示した.産総研の山田らはリンドープダイヤモンドの電子放出特性と表面構造を詳細に観察した.表面の初期状態が水素化か酸化かでしきい値電圧が最も小さくなる最適な熱処理温度が変わることを示した.これは,ともに最も低い正の電子親和力をもつ再構成表面が現れたときに電子放出のしきい値が最低になるものであるとXPSのデータで説明した.東芝の鈴木らは1×1021cm-3までの高濃度窒素ドープ膜を作製し,300°C台の低温から熱電子放出することを示した.電子を放出する障壁高さ(仕事関数)をリチャードソン・ダッシュマンの式より2〜3eVと見積もった.666°Cを超えると放出電流が低下し,水素終端が電子放出機構に影響を与えている可能性を示唆した.早大の石丸らはLSI配線のビアコンタクトのために低温CNT成長を行った.CMPによりビア内のみにCNTを残すだけではなく,CNT先端のキャップが開端されることにより低抵抗なビアコンタクトが得られることを示した.しかしながら,抵抗値は計算される理想値の半分程度であった.これは接触抵抗が影響していると説明した.阪大の徳山らはメチル基を含んだBCN膜を成膜し,誘電率が低いだけでなく,高ヤング率の膜を形成した.CMPプロセスに十分耐え得る高強度と見られ,次世代LSIプロセスに有望なLow-K膜と期待される.

2日目の午後前半の発表は機械特性や機械応用が4件であった.東大の宮井らは原料ガスを換えながらさまざまなクラスタサイズのDLC膜を合成し,クラスタサイズが最小のとき最大の熱伝導率が得られることを示した.弘前大の中澤らはSi-DLC膜のトライボロジー特性を評価し,Si添加量が多いほど内部応力と摩擦係数が減少することがわかった.またパルスバイアスによりSi微粒子の発生を抑制し,内部応力と摩擦係数が低減するだけでなく,比摩耗量も抑制できることがわかった.ジェイテクトの鈴木らはSi-DLC膜がTiNなどの従来膜に比べ耐摩耗性・相手材攻撃性に優れていることを発表した.4DW車の電磁クラッチのコーティングと耐摩耗性試験など,実際の仕様環境での摩耗試験も示した.埼玉大の高崎らは表面弾性波アクチュエータの摩耗改善のため,セグメント構造を有したDLCを導入した.摩耗はまだ見られるものの十分な推力を示しており,今後の合成方法の最適化により高い耐摩耗特性をもつアクチュエータが期待できる.

2日目午後後半は化学電極など,バイオ関係の発表が6件あった.産総研のYangらはナノダイヤモンドをマスクに利用したダイヤモンド基板のエッチングにより,10nmサイズの凹凸をもつダイヤモンド電気化学電極を形成した.DNAの吸着を確認し,バイオセンサへの応用が期待される.慶應大の栄長らはダイヤモンドマイクロ電極を用いたドーパミンの測定を発表した.妨害物質のアスコルビン酸が存在する環境下ではドーパミンを良好に検知しがたいが,電位依存性プロットによって区別できることを示し,マウス脳内のin-vivo測定でドーパミンの検出に成功した.ダイヤモンド電極を用いた生体内測定に大きな可能性を示した.東京理科大の近藤らは慶應大とは異なる手法で生体関連物質を検出している.光化学修飾法を使うもので,末端四級アンモニウム基およびカルボキシル基でダイヤモンド電極の表面修飾に成功し,シュウ酸やカテコールアミンの電気化学検出特性を実用レベルにまで向上させた.早大の田島らはダイヤモンド電解質溶液ゲートFETを用いたRNA/DNA二本鎖のハイブリダイゼーションとその解離や,一塩基ミスマッチなどが再現性良く観察されることを示した.高次の生命現象を担う可能性のあるRNAの機能解析に期待できる.滋賀医科大の瀧本らは,表面をアルキルアミノ化することにより,蛍光色素を粉末状のナノダイヤモンド表面に固定することに成功した.実際にマウスに注入した実験を行い,ナノダイヤモンドがリンカーとして期待できることを示した.慶應大の永島らはSi基板に「蓮の葉構造」と呼ばれる複数のスケールの凹凸を形成し,フッ素添加DLCを成膜して超撥水性表面を形成した.静的環境下の実験では血小板の付着抑制という当初目的には効果が見られなかったが,発想がユニークであり,動的環境下での撥水性や,医療以外の分野での超撥水性の発揮にも大きく期待できる.

初日,雨が降る中(しかし西の空は晴れていた)で始まったシンポジウムであったが,翌日少し持ち直し,最後に雪(あられ?)がちらつくという天からの演出となった.最後になりましたが,口頭発表,ポスター発表会場の設営・準備の労のほか,懇親会での特上のおにぎりと稀代のお酒など,長岡ならではの「地の利」の演出をしていただいた実行委員長の斎藤秀俊先生,学生さんおよびスタッフ,NDF事務局の皆様方のご尽力に頭が下がる思いです.また,少ない人員の中でプログラム編集やポスター賞採点など,学術委員長の光田好孝先生はじめ委員の先生方も,大変だったろうとお察し致します.この場で皆様方には心より感謝申し上げます.2008年の本シンポジウムの開催場所は早稲田大学です.皆さん,またそこでお会いしましょう.

安藤 豊(青山学院大学)

辰巳夏生,西林良樹(住友電気工業)

 

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