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 報  告

 第28回ダイヤモンドシンポジウム 

2014年11月19〜21日 於:東京電機大学東京千住キャンパス

 

第28回ダイヤモンドシンポジウムが,平成26年11月19~21日に,東京電機大学東京千住キャンパスにて開催された.今回のシンポジウム2日目はあいにくの雨となったが,初日と最終日は天候に恵まれ,講演件数が117件(オーラル発表:39件,ポスター発表:77件)で,参加者は237名,懇親会参加者も103名と盛況であった.今回,特別講演として,物質・材料研究機構の吉田豊信氏より,「PlasmaとDiamondとcBN」と題する講演が行われた.また,オーラル特別セッションでは「バイオ応用」がテーマとして設定され,東海大学医学部の長谷部光泉氏より,「炭素系材料が開く新世代医療器具の開発」と題し,基調講演が行われた.以下に,各オーラルセッションにおける発表内容について述べる.

 

【第1日目】

第1日目の演題は,オーラル発表が13件,ポスター発表が39件あった.午前中の前半は,ダイヤモンド成長に関するセッションがあった.黒根(青山学院大学)らは,ヘテロエピタキシャル成長において,格子状パターンからの選択成長が非常に有効であることを報告した.大曲(産業技術総合研究所)らは,HFCVD法によるホモエピタキシャル成長に取り組み,基板温度1100℃,オフ角を3°以上に制御することで,異常成長粒子が抑制されることを報告した.嘉数(佐賀大学)らは,高温高圧合成により成長した低欠陥密度の単結晶ダイヤモンドを透過ラウエ配置でX線トポグラフィー観察を行い,(001)セクタでは刃状転位と混合転位が観察され,{111}セクタでは刃状転位が観察されたことを報告した.矢板(東京工業大学)らは,先端放電型プラズマCVDを用いた長時間(50時間)成長により,結晶粒界のない平坦なダイヤモンド膜の作製が期待できることを報告した.午前中後半は,ダイヤモンド中のNVセンタに関するセッションがあった.寺地(物質・材料研究機構)らは,高マイクロ波パワー密度条件で(111)面基板上にホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜を合成したところ,薄膜中のNVセンタが選択的に配向して形成されることを報告した.NVセンタの形成機構によって,結晶成長機構について有用な情報が得られることが期待される.磯谷(筑波大学)らは,固体素子(ダイヤモンド)中では特異的に優れた光特性をもつSiV-センタにおいて,光を用いる電子スピンの初期化および読出しに成功した.本成果は,各スピンをメモリに用いる量子通信や量子コンピューティングへの展開が期待される.福井(大阪大学)らは,CVD法を用いて(111)面基板上にホモエピタキシャル成長させた高品質ダイヤモンドでは,99%以上のNV中心を[111]軸方向に制御可能であることを実証した.

午後の前半は,ダイヤモンドMOSFETに関するセッションがあった.嘉数(佐賀大学)らは,ダイヤモンドMOSFETの容量電圧特性を測定し,理論解析からMOS構造のエネルギーバンドダイヤグラムを明らかにした.北林(早稲田大学)らは,デバイス寸法のダイヤモンドMOSFETとして耐圧1kV程度の値が得られたことを報告した.ゲート・ドレーン間距離に対して,絶縁破壊電圧は上昇傾向にあるものの,平均電界強度は飽和傾向にあることから,今後はフィールドプレートなどの電界緩和構造に取り組み,さらなる高耐圧化が望まれる.さらに,同じく早稲田大学の松村らは,ダイヤモンドMOSFETの安定した高温動作を目的として,ALD法で作製したAl2O3をゲート絶縁膜として用い,電気的絶縁性について検討した.Al2O3膜の帯電状態は加熱によって変化し,これによって,高温ではAl2O3膜のリーク電流が増加することを示した.ゲート電極の材質および形状法がAl2O3膜の電気的絶縁性に及ぼす影響の検討とともに,ダイヤモンド基板上においても同様な傾向が得られるか否かの確認が,今後の課題とされた.午後の後半では,アレクサンドレ(物質・材料研究機構)らによるWC/p形ダイヤモンドショットキーダイオードの理想係数についての検討が報告された.坪田(北海道大学)らは,300℃までの高温環境下において,電荷吸収効率の観点からダイヤモンド検出器の使用可能の検討を行った.その結果,250℃でも正孔・電子ともに安定動作することを確認するとともに,ガードリングによる漏れ電流の低減や,結晶内不純物,空孔準位の低減や補償により,さらなる高温動作の可能性を示した.柴田(早稲田大学)らは,ダイヤモンドへのボロンのドーピング効率を上げることで,10K以上の超伝導転移温度を示すボロンドープダイヤモンド薄膜を作製したことを報告した.

 

【第2日目】

第2日目の演題は,オーラル発表が13件,ポスター発表が38件あった.午前中前半のセッションは,ダイヤモンドおよびDLCの機械的特性および構造に関するセッションであった.辰巳(住友電工)らは,機械研磨および熱化学研磨した低欠陥Ⅱa型ダイヤモンド単結晶表面に水素終端処理を行いSEMで観察した結果,熱化学研磨では機械的ダメージが非常に少ないことを報告した.中澤(弘前大学)らは,DLC膜の内部応力の低減かつ耐摩耗性の向上を目的に,CH4,SiH2(CH32およびN2の混合ガスを原料に用い,高周波プラズマCVD法により,SiおよびNを含有したDLCを作製した.DLC作製時のN2の流量比を変化させることで,無添加DLCと比べて,臨界荷重がはるかに大きく,なおかつ同等の比摩耗量を示すことを報告した.尾関(茨城大学)らは,重水素化DLC膜において膜中の欠陥評価を行った結果,膜の重水素量の増加に伴い,膜の空孔欠陥が増大し,空孔サイズと硬さの関係に相関があることを報告した.午前中後半は,グラフェンに関するセッションがあった.山田(産業技術総合研究所)らは,Roll-to-Roll・マイクロ波プラズマCVD法により,フレキシブルフィルム(Cu/ポリイミド)をウェブとして,搬送皺を形成することなく,グラフェンのRoll-to-Roll成膜に成功した.このグラフェンは,銅ウェブを用いて成膜したグラフェンと同等の結晶性を有し,グラフェンの膜内応力や欠陥の低減が可能となることを明らかにした.田原(東京工業大学)らは,フッ素原子を吸着させたグラフェンのFETデバイスを用いて,磁気抵抗効果によるスピン緩和時間の見積もりおよび,非局所抵抗測定によるスピンホール効果の検証を行った.その結果,磁気抵抗効果測定では,低温での位相コヒーレンス時間がスピン緩和によって制限される可能性や,この上限値やキャリヤ密度に依存することを示した.また,非局所抵抗が,オーミック抵抗として見積もられる値の5倍以上となる場合があることが報告された.この原因としては,スピンホール効果によるものとされているが,今後,詳細な検討が期待される.増渕(東京大学)らは,結晶方位を整合させたグラフェン/hBNヘテロ接合を作製し,BN基板からのモアレ周期ポテンシャルの導入によるグラフェンのバンド構造変調に成功したことを報告した.本成果は,グラフェン量子ドットや細線など,グラフェンを用いたさまざまなナノ構造素子の実現に向けた一歩として期待される.

午後の前半は,オーラル特別セッション「バイオ応用」として長谷部氏(東海大学)による基調講演があった.医師としての立場から,優れたしゅう動性および高い抗血栓性を有するDLCに着目し,生体適合性の高い“第3世代ステント”としての実用化に向けた開発の歴史と,現在の最新の研究進捗や炭素系素材のさまざまな分野への応用について概説した.これまで数多くの研究グループがDLCの医療応用に関する研究開発に取り組んできたが,製品化に最も近い医療応用として今後の開発が期待される.大越(東京電機大学)らは,DLCの血液適合性評価として,細胞接着抑制型DLCによる溶血低減効果および,細胞接着促進型DLCによる内膜化促進効果について検討し,それぞれの使用用途に適した血液適合性DLCの表面設計の重要性を示した.伴(日本工業大学)らは,局所的にDLCを成膜することで基板表面にパターニング(凹凸)を形成し,マウス筋芽細胞(C2C12)が,選択的にDLC領域に付着し,その領域で凝集し立体的な形状となる傾向があることを報告した.細胞の三次元培養において,今後のDLCの展開が期待される.午後の後半では,ダイヤモンド粒子およびナノダイヤモンドに関連したセッションがあった.宇田川(東京理科大学)らは,粒径500nm以下の導電性ダイヤモンドパウダをインク化することで,量産性に優れ,任意な電極形状が得られるスクリーン印刷ダイヤモンド電極を作製し,微小電極アレー効果による高感度化を示唆した.これらの成果は,高感度電気化学センサへの応用として期待される.中村(産業技術総合研究所)らは,低細胞毒性および高生体適合性を有するナノダイヤモンドに注目し,表面化学修飾法を用いたガドリニウム錯体担持ナノダイヤモンド粒子の作製法を開発した.本成果は,経時診断への適用が困難な従来のMIR造影剤に対し,今後,新規MIR造影剤として期待される.Li(滋賀医科大学)らは,ポリグリセロールで被膜したナノダイヤモンドをキャリヤとして,プラチナ製剤のがん細胞選択的送達について報告し,今後の化学療法への応用として,ナノダイヤモンドの有効性を大きく示した.児玉(東京理科大学)らは,ダイヤモンドのバンドギャップよりも高いエネルギーをもつ紫外線をダイヤモンドに照射することで,高い触媒活性が得られ,溶存二酸化炭素を一酸化炭素に還元することを報告した.これらの成果から,ダイヤモンドが二酸化炭素還元触媒として機能することが示唆された.
夕刻には,物質・材料研究機構フェローの吉田氏より,「PlasmaとDiamondとcBN」と五七五調のタイトルにて特別講演が行われた.CVDダイヤモンド合成では,プラズマ状態の観察,基板温度の制御,基板処理の再現性を整え,低圧合成の限界を明確にしたほか,cBN合成では,毒性や危険性の高いジボランを取り扱う苦労や質量分析の工夫によって再現性のある実験を確立するなど,これまでの吉田氏の研究の変遷を,助手として採用された1977年当時から現在までを振り返りながらご紹介いただいた.1981年当時,研究費不足で新たな電源購入が困難なため,電子レンジを分解して自作したマイクロ波プラズマ装置の設計図を入手し,これを元にマイクロ波電源を作製して,Diamond研究の事始めとなる水素プラズマ─炭素系のCVT(Chemical Vapor Transport)を開始するなど,一つ一つ実験に必要な装置や測定方法を確立しながら,研究室で学生と一緒に実験に取り組まれ,“できることはやった”と話されたエピソードは,大変印象深い内容であった.さらに,科研費申請書類の作成において,審査の立場から,採択される申請の重要な点をわかりやすくご講演いただいた.ぜひ,聴衆の皆様には,次回の申請には実践して科研費獲得に努めていただきたい.

 

【第3日目】

最終日の演題は,オーラル発表が13件あった.午前中のセッションは,半導体デバイスとしてのダイヤモンドに関するセッションであった.大谷(物質・材料研究機構)らは,pin構造型のダイヤモンド放射線検出器の試作およびγ線照射に対する応答について評価した.その結果,104Sv/hまでダイナミックレンジ5桁にわたり良好な線形性が得られ,原子炉システムの高温・高線量環境に耐え得る半導体デバイスとして期待される.鈴木(東芝研究開発センター)らは,11.5kVの耐圧を有するダイヤモンド縦型pinダイオードの試作に成功した.最大降伏電界強度は2.3MV/cmであるが,i層の品質の改善によって,さらなる高耐圧化および順方向低抵抗化が可能であることが示唆された.佐藤(東京工業大学)らは,(111)基板に横型pn接合ダイオードを作製し,電気特性評価および接合界面の解析を行った.接合面に対するオフ方向および接合面の面方位によっては整流比4桁のダイオード動作を示し,今後は,接合構造やリーク電流の原因解明に向けて,接合断面のTEM観察などの解析が必要とされる.竹内(産業技術総合研究所)らは,結晶欠陥が少ないと考えられるボロンドープⅠb{111}基板を用い,結晶性の高いダイヤモンドpinダイオード型負性電子親和力電子源を作製した.これを用いた真空スイッチでは,10ms/100msで6.9kVのスイッチ動作に成功した.梅沢(産業技術総合研究所)らは,ダイヤモンドMESFETを試作し,ゲート・ドレーン間隔を10~30μmとして絶縁破壊電圧特性について評価した.その結果,ドレーン領域での絶縁破壊電界は,1.5~2.1MV/cmであることが示され,今後,パワーデバイス素子としての開発が期待される.河野(青山学院大学)らは,p形ダイヤモンド(001)表面上のTiオーミック電極の障壁高さを,光電子分光法を用いて直接的に測定した結果について報告した.鈴木(大阪府立大学)らは,p形Bドープダイヤモンド上にTiNおよびTiCN薄膜をEB蒸着法で形成し,オーミック特性が得られることを報告した.特に,TiCNでは熱安定性に優れ,Ar雰囲気下での420~600℃のアニール前後において,体積抵抗が102μΩ・cmのオーダでほぼ一定であったことが報告された.低抵抗化と膜組成の最適化が,今後の課題とされる.田村(防衛大学)らは,反応性高周波マグネトロンスパッタリング法を用いて作製したa-CNx薄膜について,抵抗率と測定時の雰囲気圧力との相関性について検討した.真空時とN2ガス導入時において,a-CNxの微細構造が変化し,薄膜表面の吸着サイトの一部が消滅したために抵抗率が変化した.これは,He,Ar,CO2ガスでも同様の傾向が示されたことが報告された.

午後のセッションでは,目黒(弘前大学)らは,4°オフ角Si(100)基板上に中間層としてAlN層を形成し,さらにその上にSiC低温バッファ層を形成してSiC薄膜を成長させることで,結晶性および平坦性の優れたSiC薄膜が得られたことを報告した.島田(北海道大学)らは,B焼結体およびカーボンロッド中に圧入したBiをドープ原料として用い,マイクロ波プラズマCVDにてダイヤモンド合成を行った.CVDプラズマ中にドープ原料となる固体を挿入することにより,不均一性はあるものの,有毒原料を用いずに簡便にドープ可能な手法となることを示唆した.多種元素同時ドープやデルタドーピングへの展開が期待される.古橋(イーディーピー)らは,CVD法によって厚く成長した(100)面ダイヤモンド単結晶をレーザ切断することにより(111)面基板の作製を行った.研磨した(111)面のオフ角は概ね3°以内の精度が得られ,精密な研磨によってさらなるオフ角の改善のほか,結晶性についても成長条件の検討によって,ダイヤモンドデバイスに適用し得る品質が得られると示唆された.加藤(産業技術総合研究所)らは,低欠陥の種基板を用いたダイレクトウェーハ化により,部分的ではあるが低転位密度(400個/cm2)のウェーハを作製した.転位の増加や面内均一性などの課題はあるものの,ダイレクトウェーハ化技術が低欠陥ウェーハの作製技術として期待される.加藤(産業技術総合研究所)らは,位相差像を用いた簡便な転位解析を行った.その結果,既存の転位評価技術であるX線トポグラフィー像との比較から,位相差像でも転位評価が可能であることが確認された.本成果は,実験準備段階でダイヤモンド基板を選定するなどの用途に適した手法として期待される.

 

【優秀講演賞・ポスター賞】

優秀講演賞は,産業技術総合研究所の大曲新矢氏「フィラメントCVD法によるダイヤモンド大面積ホモエピ成長」が受賞した.また,ポスター賞として,最優秀賞は,慶應義塾大学大学院の西山祐太氏「部分安定化ジルコニアから脱離する酸素を利用したダイヤモンド薄膜の低温合成と密着性への影響」,優秀賞は東京理科大学大学院の菱沼良太氏「ダイヤモンド基板を用いた酸化チタン光触媒反応の活性化メカニズム」と東京大学生産技術研究所の森川 生氏「高移動度グラフェンnpn接合における量子干渉」の両氏に贈られた.


次回のダイヤモンドシンポジウムは東京理科大学葛飾キャンパスにて開催予定である.今回受賞された方々をはじめ,発表された多くの方々の,今後のますますの発展を期待したい.

 

大越 康晴(東京電機大学)

 

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