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 報  告

 平成22年度第16回技術調査講演会 

 

平成23年2月10日(木),早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて,「ダイヤモンド関連ベンチャー企業の現状と今後の展開」と題して第16回の技術調査講演会が開催された.通常の技術調査講演会では,ニューダイヤモンドフォーラムで受託した調査結果などの報告を行っているが,今年度の講演会ではここ数年の間にダイヤモンド膜関連のベンチャー企業を立ち上げ,ダイヤモンド膜の産業応用を精力的に進めている3名の方を講師に招き,講演いただくこととした.約40名という多くの参加者の中,活発な質疑応答もなされ,ダイヤモンド膜の産業応用に対する期待の大きさと講演内容に対する関心の高さを感じさせるものであった.この技術調査講演会での講演内容を以下に簡単に紹介する.

最初に,AGDマテリアル株式会社を立ち上げた,青山学院大学の澤邊厚仁氏により,「ヘテロエピタキシャルダイヤモンド基板の高品質化と応用展開」と題した講演がなされた.ヘテロエピタキシャル技術でダイヤモンド基板を作製することの意味は,基板の大型化が可能であることである.講演ではいかに結晶性の優れた高品質な単結晶基板を作製するか,という課題に対してどのような取組みを行っているのか,また,実際に得られた膜のデータについて紹介された.澤邊氏がこれまでの研究で取り組んできたヘテロエピタキシャル技術は,MgO(001)単結晶基板上に,イリジウム(Ir)膜をエピタキシャル成長させ,そのIrの表面に前処理を施し,その上にダイヤモンド膜を成膜する,というものである.Ir膜を線状に残す前処理を行うことで,ダイヤモンドの成長領域を制限した選択成長が可能となり,さらに線の間隔や方向を変えることで結晶性などの制御が可能となっている.講演では,ダイヤモンドプローブの開発やエッチピット法などの高品質化の取組みにも触れた.質疑応答では,コストの観点や大型化への課題,さらなる高品質化のポイントに関する質問が寄せられた.

次に,高知FEL株式会社の西村一仁氏により,「電界電子放出光源(FEL)の事業化」と題した講演がなされた.講演では,企業立上げに至る紆余曲折と現状のFEL事業に関する技術レベルや事業としての応用分野についての説明がなされた.この事業に関しては,もともと,高知県の県内産業育成という課題もあり,その中で実施してきたものである.こうした中で,ダイヤモンド膜を利用したエミッタの開発に着手し,FELとして,実用化の段階にまでこぎ着けた.ダイヤモンドを利用したFELの可能性については,省エネルギーのみならず,有害物質使用に関するRoHS指令の点からほかの照明器具との差別化ができること,発光の波長域の観点から植物育成用光源や防虫用光源として有望であることが示された.また,安定した電子放出素子の開発において,1V/μm以下の電界強度で電子放出密度1mA/cm2という高いレベルのものを達成できたことが大きな要因である.そのためには,成膜時の温度が重要であり,非常に高いレベルの均一性の制御により実現しているようである.FELの事業としては,導入するための費用が大きいことや,高電圧の電源を必要とすることもあり,市場に出すにはいろいろな課題があるが,FELならではの特性を生かして市場への導入を進めようとしている.質疑応答では,FEL用の蛍光体の開発に関する点,光源の寿命の点,高電圧に対する対応に関する質問が寄せられた.

最後に,株式会社EDPの藤森直治氏により,「ダイヤモンド大型単結晶の応用とビジネス展開」と題した講演がなされた.上述の澤邊氏とは異なり,こちらはホモエピタキシャルの技術を使って高品位なダイヤモンド単結晶基板を作製しようとするものである.このベンチャー企業は産業技術総合研究所にて開発された単結晶製造技術を実用化するために設立されたものである.結晶の品位は比較的高く,X線ロッキングカーブの半価幅は(400)面で10arcsec程度のものも得られており,天然品あるいは超高圧品のTa結晶並となっている.現在は10×10mmのものは製造が可能で,モザイク結晶では10×20mmのものもできているとのことである.現在,基板の大型化に取り組んでおり,目標は2014年に2インチの達成である.その他,表面粗さはRa=1nm以下を当面の目標にしている,とのことである.質疑応答では,3°傾いている理由や光学透過特性についての疑問,薄い自立膜が可能な理由などについて議論が交わされた.

今回講演された企業はいずれもベンチャーとして立ち上がったばかりであり,実際の事業はこれから,といったところである.また,ベンチャービジネスを立ち上げることに対し,日本はまだその基盤ができておらず,特に材料の基盤技術に対しては支援が得られにくい,とのことであった.将来有望な材料の基盤ビジネスを育てるためにも,その仕組みづくりが期待されるところである.また,FELといったダイヤモンドの可能性を広げる分野においても早く市場投入を行ってその存在をアピールしてもらいたいものである.今回の講演はいずれも今後のダイヤモンド発展の可能性を大いに感じさせるものであった.講師の先生方には深く感謝するとともに,それぞれの事業のご成功を祈念する次第である.

 

高岡 秀充(三菱マテリアル)

 

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