カレンダーに戻る

 研究会だより

 平成20年度第1回研究会報告 

 

平成20年9月30日(火),東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「硬質材料の最新動向」と題した平成20年度第1回研究会が開催された.この研究会は,前年度第2回研究会「ダイヤモンド・cBN工具の発展への取組み」(平成19年10月30日開催)に多くの参加を得たことを受け,工具材料を念頭におき,硬質材料の研究・開発状況が話題の中心とされた.

硬質物質はまず工具へ適用するのに有望な材料となるが,年々過酷になる工具使用条件のもと,既存工具材料の特性向上や新硬質材料の開発に多くの努力がなされている.また,超硬合金中に含まれるタングステンのように将来の供給不安定性から使用量削減や代替材料探索が重要課題となっているとともに,環境保全の観点からコバルト,クロムなど従来硬質材料に含まれる元素の使用制限への対応が急務となっており,硬質材料開発の研究は絶え間なく行われている.硬質物質にはダイヤモンド,cBNをはじめ各種セラミックスなどがあり,気相法や高温高圧法などによって合成され,コーティングや焼結体として用いられている.このように材質,材料生成,材料形態など多岐にわたるなか,主に企業での研究・開発動向が話題の中心となった.5名の講師を含め,計約50名の参加者を得たこの研究会での講演内容を以下に簡単に述べる.

前半の部はじめは,三菱マテリアル(株)の長田 晃氏より「切削工具用硬質材料の最近の開発動向」と題し,切削工具用硬質材料の概要とともに,サーメットとコーティング超硬合金の事例を中心にした講演がなされた.切削工具の世界市場は年間1兆円を超え,年率5%以上の成長率が見込まれているが,その約70%はコーティング超硬合金である.耐摩耗性向上の目的で年々厚膜化しており,研究レベルでは数十〜数百μmの成膜も可能になっているが,安定使用にはさらなる付着力の向上が必要であり,さらに厚膜化に伴って顕著となる粒成長などに対処するための皮膜表面平滑化技術が重要な課題になっているとのことである.一方,サーメットはコーティング超硬合金と比較して良好な仕上げ面を得ることができ,特性改良が進んで耐熱き裂性や耐欠損性が大幅に向上しており,超硬合金工具の加工領域の一部を代替可能であることが示唆された.

次に,住友電気工業(株)の角谷 均氏が「高硬度ナノ多結晶ダイヤモンドの開発」と題し,単結晶ダイヤモンドを凌駕する強さを有するダイヤモンド多結晶体に関する講演を行った.高純度グラファイトを原料として,超高温高圧下の直接変換により得られたダイヤモンド単相の多結晶ダイヤモンドは,粒径数十nm以下の微粒子からなる均質構造と微細なラメラ構造の混在する組織を有しており,高硬度なものではヌープ硬度120〜145の高い値を示すことが明らかにされた.また原料物質にグラファイトもしくは非グラファイトを用いる場合には,ダイヤモンド変換条件や微細構造,機械的特性が大きく変化することが示された.優れた機械的特性を利用して,次世代の切削工具や耐摩工具材料として有望視されている.

前半の部最後は「環境融合型超硬合金WC-FeAlの開発」について,産業技術総合研究所の松本章宏氏が講演した.超硬合金の代表であるWC-Co合金はレアメタルおよび環境排出規制物質を含むため,金属間化合物FeAlを結合相とする新たな超硬合金が代替材料として提案され,その開発研究についての紹介がなされた.結合相を形成するFeとAlの原料粉粒径を変化させ,組織の異なる焼結体を作製し,ビッカース硬さ800,抗折力1.6GPa以上の超硬合金を得ている.Fe粉の粒径が組織の均質化と機械的特性に影響を与えることを示すとともに,WC-FeAlへDLCコーティングを施した事例について解説された.

休憩をはさんだ後の後半部は,(株)タンガロイの香川直宏氏による講演「高硬度cBN焼結体の最近の開発動向」で始まった.部品の軽量化を目的として被削材の高硬度化・高強度化が進むとともに,工具の付加価値として加工効率や仕上げ面精度の向上が求められているなか,cBN焼結体が注目されているとのことである.cBN焼結体開発のキーワードとして耐摩耗性向上のための高含有率,仕上げ面粗さ向上のための微粒化,長寿命化および高加工効率化のためのコーティング,そして環境調和をあげ,タンガロイ社のcBN製品の開発コンセプトや特徴,切削性能について概説された.

最後に,日立ツール(株)の久保田和幸氏が「PVDコーティング材料の開発動向」と題し,最近の市場で求められている高硬度鋼高速切削加工や高速高送り加工の実現のため,PVD法による高機能皮膜開発にアプローチした事例について解説した.20世紀末に開発されたTiAlN膜は硬度および耐熱性に優れることから高能率加工の要求に必要なコーティング材となったが,ますます過酷化する高能率加工条件に対応するため,最近新たにTiSiN系膜およびTiAlNbN系膜が開発された.TiSiN膜は超微細結晶粒が介在した組織を有し,TiAlN系コーティングの2〜3倍の切削性能を示している.また,耐酸化性に優れるTiAlNbN膜に硫黄を添加することで潤滑性能を高めることができ,高速高送り加工における工具寿命の向上に寄与することが紹介された.

講演の後,懇親会が開かれ,講演会出席者の約半数が残られて意見交換や議論が続けられた.工具に対する関心は依然高く,材料特性の点から性能向上にはさまざまな取組みがなされており,今後も発展の望まれる分野であることを再認識させられた.講師の任を快諾いただいた諸兄に厚くお礼申し上げるとともに,長らくNDF事務局に勤められ,本研究会開催を最後に退職された東條雅子さんに深く感謝致します.

平田 敦(東京工業大学)

 

▲ Top ▲