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 研究会だより

 平成20年度第2回研究会報告 

 

平成20年12月2日(火),東京理科大学神楽坂キャンパス森戸記念館第1フォーラムにて,平成20年度第2回研究会が開催された.今回のテーマは「機能性電極材料としてのダイヤモンド」であった.4名の講師を迎えたこの研究会では,導電性ダイヤモンド薄膜の電気化学応用に関して,前半では電解合成・電解水処理への応用,後半では導電性ダイヤモンドの新規表面構造作製法と機能性電極としての応用について講演をしていただいた.

はじめに,ペルメレック電極株式会社の錦善則氏に「ダイヤモンド電極の電解プロセスへの応用例」と題してご講演いただいた.導電性ダイヤモンド電極は,DSA(Dimensionally StableAnode)など工業電解で広く利用されている電極材料よりも水電解に対する活性が低いため,広い電位領域で電解電位を設定することができる(つまり電位窓が広い).この点に着目したダイヤモンド電極を用いた電解合成の例として,過塩素酸(ClO4-)・過硫酸(S2O82-)・過炭酸(C2O62-)の合成について,白金陽極に対する電流効率の優位性とそのメカニズムが解説された.後半では,開発中の電解式オゾン水発生器についてご紹介いただき,特に参加者の興味を引いた.このオゾン水発生器はハンドスプレーのような外観であり,トリガーを引くことにより,タンク内の水からオゾン水が生成され,スプレーから噴霧される.電極部は棒状のダイヤモンド電極にイオン交換膜であるナフィオンと陰極線とを巻き付けた構造になっている.この装置により生成したオゾン水がさまざまな細菌に対して殺菌効果をもつことも示され,かなり商品化に近いものができている印象を受けた.また,ダイヤモンド電極の水処理への応用についても,ダイヤモンド電極での水分解で生成する,強力な酸化力をもつ活性酸素種を利用した電気化学的促進酸化法(Electrolytic AdvancedOxidation Process:EAOP)の概念と,その電解水処理技術への展開についても説明された.

引き続き,「ダイヤモンド電極を用いた電気化学的手法による窒素処理」と題して,住友電工ハードメタル株式会社の吉田克仁氏にご講演いただいた.講演の導入では,排水処理・水質汚染の一般的な現状・課題や,現在行われている微生物を用いた処理の原理やその特徴について詳しくわかりやすい解説がなされた.電解法による排水処理の対象となる窒素化合物としては,アンモニア性窒素と硝酸性窒素があり,前者は酸化処理,後者は還元処理により,それぞれ無害な窒素分子とするのが目的である.アンモニア性窒素の陽極酸化では,窒素分子への変換と同時にさらに酸化の進んだ硝酸性窒素を生成してしまう可能性があるため,電極材料を含めた適切な条件設定が必要である.講演の中では,アンモニア性窒素を効果的に窒素分子に変換する条件について,特に塩素イオン存在下での検討が報告された.ダイヤモンド電極は,アンモニア性窒素だけでなく,さまざまな有機物分解にも優れていることから,排水処理用の電極材料への応用が期待できることが示された.従来の微生物処理では大規模な施設が必要であるが,電解法は小規模でローカルな処理に適していることから,将来普及するであろう分散型排水処理システムにおいて,ダイヤモンド電極が活躍する余地があるのではないかと思われた.

休憩をはさんで,東海旅客鉄道株式会社の寺島千晶氏に「針状突起配列構造を持つダイヤモンドの創製とその電極応用」と題してご講演いただいた.ダイヤモンドのナノ構造体作製技術の開発は,電子放出素子やマイクロエレクトロニクスをはじめとする応用が見込まれるだけでなく,物理的・化学的に不活性なダイヤモンドをいかにナノスケールで任意の形状に成形するか,といった材料科学的観点からも興味深い課題である.本講演では,酸素ガスを用いた平行平板型の反応性イオンエッチング装置(RIE)によりBDD薄膜を処理することにより,高密度・高配向ダイヤモンドウィスカ(直径20nm,長さ200nm)が容易に得られることが報告された.マスクやテンプレートを用いることなくこのような構造が得られるので,これはある種の自己組織化現象ともいえるであろう.作製の容易さと比較して,ウィスカ形成メカニズムの理解は単純ではない.慎重に多くの実験的検証を重ねた結果,BDD薄膜内のホウ素がマスクの役割を果たしているのではないかとの結論であった.後半では,ダイヤモンドウィスカの電気化学電極としての応用について,基礎特性評価,電解オゾン生成,酵素担持によるグルコースセンサの作製,金ナノ粒子担持によるヒ素の高感度検出などが紹介された.

最後に,信州大学繊維学部の高須芳雄氏に,「ダイヤモンドおよびBDD電極表面層の多孔化と応用」と題してご講演いただいた.導電性ダイヤモンドの多孔化による比表面積の増大は,電解合成用電極やエネルギー変換デバイスへの応用展開にあたって不可避となる技術的課題である.本講演では,金属ナノ粒子によるダイヤモンド表面の掘削挙動と電極応用について報告された.含浸法あるいは蒸着法により金属ナノ粒子あるいはその前駆体をダイヤモンド表面に担持させたあと,水素雰囲気中で加熱すると,金属ナノ粒子が触媒となりダイヤモンド表面が掘削され,多孔化ダイヤモンドが得られた.掘削は異方的であり,結晶面方位によって掘削後のモルフォロジーが異なる.このことは,この現象がダイヤモンド表面の化学反応の結果であり,また結晶面方位によって表面反応性が異なることを明確に表した珍しい例であり,興味深く感じた.電気化学電極としての応用では,例えば白金ナノ粒子を用いた掘削により,触媒担持と比表面積の増大を同時に実現できるといった利点がある.さらにナノ粒子が細孔に潜り込んでいることから,表面拡散による粒子同士の接触・合一が抑制されるという効果もある.また,DSAにおいて基板(チタンなど)と酸化物層(IrO2-Ta2O5)との間に接着性に優れた耐食性中間層として多孔化BDDを応用できれば,DSAの長寿命化が期待できる.講演内容もさることながら,ユーモアに富む話術に,4時間近くにわたる講演会の疲れも忘れて,大変楽しく拝聴させていただいた.

講演会では質疑応答も活発になされて大いに盛会となったが,その余熱の冷めぬまま,その後の懇親会も20名の参加者を得て,意見交換や議論が続けられた.最後に,講演をご快諾いただいた講師の先生方に厚く御礼申し上げます.

近藤 剛史(東京理科大学)

 

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