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 報  告

 平成28年度第1回研究会 

 

平成28年度第1回研究会は,「カーボンナノチューブの実用化研究」と題して,平成28年6月17日(金)東京大学生産技術研究所にて参加者25名を得て開催された.カーボンナノチューブを用いた電気二重層キャパシタ,アクチュエータ,印刷トランジスタ,in vivoイメージングに関する4件の講演を企画した.

はじめに,日本ケミコン株式会社研究開発本部基礎研究センターの末松俊造氏に「CNTを用いた高性能電気二重層キャパシタ開発」と題してご講演いただいた.まず,キャパシタに対する社会ニーズ,そして,各種あるキャパシタの中でも,電気二重層キャパシタ(EDLC)は出力密度が高く,急速充放電が可能であることや,寿命が長く,安全性が高いことなどの利点が紹介された.さらに,EDLCの電極にCNTを用いる理由について,従来の活性炭と比較し,バインダが不要であること,イオンおよび電子伝導性が高いことなどがあげられた.特に,スーパーグロース(SG)法で合成されたCNTは比表面積が約1100m2/gと大きいことから,静電容量を大きくすることができ,キャパシタ応用に向いていることが紹介された.実用化研究にはアカデミックな研究とは異なる地道な技術開発が求められる.筆者が特に印象に残ったのは,CNTと金属電極であるアルミニウムとの接合を良くするために,直流エッチング法でアルミ膜に柱状に穴を開け,CNTを挿入した後にプレスし抑え込むことで,接触抵抗の減少を達成した部分である.さらにCNTの高密度化や,充放電中の体積変化などの諸問題について,CNT分散方法の最適化や,CNTと他の物質を混合することなどで解決していった経緯をお話しいただいた.現時点では技術的課題はほぼ解消され,実用化が目前に迫っているとのことであった.

続いて,産業技術総合研究所無機機能材料研究部門安積欣志氏より「カーボンナノチューブ電極による高分子アクチュエータ」と題してご講演いただいた.安積氏は1990年代より,イオン導電性高分子アクチュエータの研究を行ってきており,近年ではCNTを電極に用いたアクチュエータへと研究を展開されている.CNTを用いる利点として,導電率が高いこと,キャパシタンスが大きいこと,機械的特性が良いことなどがあげられ,これにより従来の性能を大幅に向上することが期待されている.ここにおいてもCNT活用の大きなポイントはその分散法であり,CNTを使いこなすには,その二次構造の制御が重要であることが紹介された.もう一つのポイントはイオン液体を用いることにより,空気中で長時間使用可能なアクチュエータを作製できたことである.さらにCNTにカーボンブラック(CB)あるいはポリアニリン被覆CBを加えることで,電極構造をさらに制御し,導電率や電気二重層キャパシタンスを増加できることが紹介された.それにより,アクチュエータの変形量および変形速度を大きくすることができる.このように優れた特性をもつCNTアクチュエータであるが,実用化に至るためにはさらに大きな力を発生させる必要があるとのことであった.

休憩をはさんで,単層CNT融合新材料研究開発機構の沼田秀昭氏に「高純度半導体型CNTを用いた印刷トランジスタとセンサ応用」と題してご講演いただいた.よく知られているように合成直後のCNTは半導体性のものと金属性のものが混在している.よって,CNTをエレクトロニクスに応用するためには,半導体CNTのみを抽出する必要がある.沼田氏らは分散剤にイオンを含まない無担体電気泳動法を開発し,98%純度の半導体CNTを得ることに成功した.通常用いられる分散剤に含まれるイオンを除去したことでCNTデバイスの特性や安定性が向上した.さらに良好なCNTランダムネットワークを形成するにはCNTの凝集を防ぐ必要がある.印刷トランジスタでは溶媒の乾燥過程が必ず存在し,通常のCNTインクでは周辺部に濃いシミが残るコーヒーステイン現象が発生する.そこで,氏らは基板表面にアミノ基を導入することで,CNTと基板との密着性を高め,均一なCNT膜の生成に成功した.これらCNT印刷トランジスタの応用例として,圧力センサシートが紹介された.選択トランジスタを設けたことで,多点の圧力測定が可能になった.今回開発したCNTトランジスタは無版印刷できるので,大面積化やネットワーク経由でのオンラインデバイス作製も可能であり,新しい軽量かつ柔軟な電子デバイスとして期待される.

最後に,株式会社島津製作所分析計測事業部の竹内 司氏に,「NIR-U波長域を用いたin vivoイメージングの創薬研究への展開」と題してご講演いただいた.生物科学分野において,蛍光を利用したイメージングは簡便性や測定時間が短いなどの多くの利点を有した重要な可視化技術である.近年,生体透過性が良好であることや,タンパク質の自家蛍光が小さいことなどから,近赤外光,特に1000〜1600nmのNIR-U領域を用いた蛍光イメージングが注目されている.竹内氏はこのNIR-U領域を用いた小動物観測用イメージングシステムを中心的に開発され,その経緯についてお話しいただいた.開発のポイントの一つは近赤外蛍光プローブである.希土類含有セラミックスナノ粒子や量子ドットなどが蛍光プローブとして用いられるが,なかでもCNTは高輝度であることや安全性が高いことなどから非常に有力なプローブであることが紹介された.特に高い空間分解能で血管が造影される様子や,消化管の動きを直接観測できることなどが,筆者の印象に残った.このCNTプローブは同社より近日中に販売予定と紹介された.今後は,腫瘍などへのアクティブターゲティング可能な蛍光プローブの開発を行う予定とのことであった.以上のように,本研究会ではカーボンナノチューブを使った実用化目前の研究開発に関して話題をご講演いただいた.講演会後の懇親会も和やかな雰囲気のもとで,講師に質問が続き,充実した研究会となった.最後に,講演をご快諾いただいた講師の先生方に厚く御礼申し上げます.

岡崎 俊也(産業技術総合研究所)

 

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