■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ Diamond Conference2006 ■■■
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2006 年度のEuropean Conference である17th EuropeanConference on Diamond, Diamond-like Materials, CarbonNanotube, and Nitride は,ポルトガルの代表的なマリンリゾートであるEstoril において,2006 年9 月3 日から8 日の6日間開催された.開催地のEstoril は,首都であるLisbon の西約6 km に位置し,数多くの海水浴場とヨーロッパでも有数のカジノである「CASINO ESTORIL」があることで有名である.会議は,カジノの真横にあるEstoril Congress Centerで行われた.今回は,講演申込みがあった570 件のうち,450 件あまりの講演が採択され,実際のプログラムに掲載された講演数は,招待講演18 件,一般口頭講演68 件,ポスター講演303 件の合計389 件であった.毎回風光明媚な開催地を選ぶ会議ではあるが,今回は大会期間中の天候に恵まれ,南欧の夏の終わりを満喫できる6 日間であった.大会の登録者数は373 名で,昨年と比較すると10 名の増加であった.European Conference なのだが,国別内訳を見ると,日本からの参加者が最も多いことは例年と同じで,今年度は登録者数は89 名で,昨年と比較すると1 名の増加である.ADD プロジェクトが終了したために企業からの参加者数が激減して参加者数1 位の座を明け渡すのではと考えていたが,参加者名簿を調べるとプロジェクト参加企業からの参加は激減している.ということは,新たな参加者が数多く登録したことによるものと考えられる.国別に参加者の多い順に並べると英国41 名,フランス37 名,ドイツ36 名,米国31 名,イタリア20 名,ロシア・ポルトガル・台湾が13 名,スペイン12 名であった.以上が参加者10 名以上の国で,これらの国の参加者の合計は全体の85% にもなる.Session のカテゴリーは,Plenary session, Heteroepitaxy,Applications, Biochemistry, Superconductivity, Defects, Devices,Growth, Detectors, Nanodiamond and Field Emission, Surfaces,Doping, Nanotubes, DLC, Nitride の15 で,やはりこれだけのカテゴリーを網羅する国際会議はEuropean Conference をおいてほかにはない.日本国内における研究分野の裾野の広がりが必要であることは,これらのセッション名を眺めただけで明らかである.前置きが長くなった.講演の内容紹介に移る. 初日の午前中は二つのPlenary session で構成され,合計5 件の招待講演があった.最初の2 件は米国からの発表で,まず基調講演の最初は,Case Western Reserve Univ. (USA)のJ. Angus らが,ダイヤモンド表面の電気化学反応のメカニズムについて講演を行った.pH 溶液へダイヤモンド粉末を投入するとpH の値が変化する実験結果を示し,トランスファドーピングの存在を主張した.また,溶存酸素によって表面近傍の電荷状態が変化し,表面エネルギーがpHに依存する一方,窒素置換によって溶存酸素を低減すると表面エネルギーがpH に依存しないことを見いだした.ダイヤモンド表面伝導層のように雰囲気のpH が表面近傍の電子状態を大きく変化させることを,ほかのワイドバンドギャップ半導体である,GaN などでも実験を行っており,HCl,大気,NH3 の各雰囲気にGaN を置いてそのミッドギャップからのPL の強度を比較したところ,HCl >大気>NH3 という関係があることを報告した.2 番目の基調講演として,Univ. Wisconsin-Madison(USA)のR. J. Hamers らは,表面修飾したダイヤモンドとa-C を応用したバイオマイクロ電子素子における界面機能特性について報告した.バンドギャップ光以下の照射光エネルギーでも水素終端表面を光化学反応で修飾できることをNEA の光電子放出特性の報告例とともに紹介した.また電気化学反応により,ジアゾニウム修飾可能であることを示した.アミノ基終端の場合,タンパク分子の負の電荷に対してアミノ基が正の電荷をもち,制御外の修飾を起こすことを示した.光電子放出による反応を利用して,アモルファスカーボン膜表面にバンドギャップ以上の光を当てて,光修飾することを示し,表面修飾技術を用いての炭素系薄膜の当該分野への利用を提案した.3 番目の基調講演では,産総研の末永が,開発した高分解能TEM によるカーボンナノチューブの観察を通じて,ナノチューブ生成機構に迫った.触媒のナノ結晶面がカイラル指数を決定する可能性を示唆した.今後のカイラル指数制御技術に迫る興味深い結果である.4 番目の基調講演としてCNRS-LPQM(フランス)のJ. -F. Roch らは,ダイヤモンドのNV センターのシングルフォトン源への応用技術を紹介した.ナノ粒子膜と背面ブラッグミラーを組み合わせて使用することで,臨界角による光の結晶内への閉込め効果を低減,かつナノ粒子中で励起に関与するNV センターが確率的に一つとなることを積極的に利用したことが成功の鍵であると解説した.発光場の誘電率の問題が指摘されたが,今のところNV センターの寿命は20 〜50 ns とバルクの場合と大差ないと説明があった.また,より発光スペクトルが鋭いNi センター(NE8)の利用を進めていることが示された.基調講演最後にNTT の嘉数らは,Element Six の多結晶ダイヤモンド自立膜の表面伝導層を用いて高周波トランジスタを作製,その性能が単結晶の場合に匹敵することを示した.また,その等価回路分析により,Al/ 表面伝導層界面はMES ではなくMIS 的とし,その絶縁層の実効的誘電率は膜厚20 nm と見積もると9 であるとした.ゲートバイアスによる特異な相互コンダクタンスの変化(三領域)を示し,正孔チャネルが通常から二次元ガスへ,そしてそれが絶縁層に染み出すことにそれぞれ対応すると説明した. Heteroepitaxy のセッションでは,まずUniv. Augsburg(ドイツ)のS. Gsell らが,Ir 上のダイヤモンド核形成機構についてAFM とSEM とを組み合わせた観察手法で迫った.臨界膜厚にて,密度から膜厚はダイヤモンド< a-C 相と予測できるが,実際にそのとおりであることを実験的に示し,その膜厚差が1nm であることを示した.Mishigan State Univ.(USA)のB. Golding らはIr 上の形成核が15 nm 間隔で均一に配置することを示した.ほかの合成条件と核形成の様子から,Ir 上へテロエピの機構について迫った.青山学院大学の安藤らは,パターン形成方式でヘテロエピした島結晶の断面からプロセスごとの成長様式を示し,構造欠陥制御の可能性について検討した.CEA(フランス)のJ. C.Arnault らはSiC 上のダイヤモンドへテロエピタキシャル成長の可能性として,3C-SiC(1 0 0)面のマイクロ波プラズマ環境下での再構成の様子について詳細なSTM実験を行った結果について報告した. 初日の最後のセッションはApplication で,まずUniversityof Wisconsin-Madison のCarpick による招待講演は,単結晶およびナノダイヤモンドのNanotribology に関する講演であった.最近のAFM によるナノスケールでの摩擦現象の解明に関する内容が中心であり,水素終端面の摩擦低減に関する有用性,面方位の違いがナノスケールで摩擦に与える影響などを評価した.続いて,Element Six のPretorius による単結晶CVD(ホモエピタキシャル)ダイヤモンド工具に関する講演があった.高圧合成ダイヤモンドや天然ダイヤモンドと比較して,単結晶CVD ダイヤモンドがいかに工具として優れているかについて紹介した.単結晶CVD ダイヤモンドを用いた工具への応用は,今後注目すべき分野であると思われる.このほかは,Fraunhofer 研究所のWildらによるレーザ核融合用重水素閉込め用ダイヤモンド球殻(直径2 mm,厚さ70 mm)の作製に関する報告などがあった. 2 日目は,二つのBiochemistry,超伝導,欠陥という四つのセッションで構成された.Boi 関連は10 件の講演があり,そのうち3 件が日本からの講演であった.まず,産総研ダイヤモンド研究センターのShin による招待講演があり,今までに同研究センターで行われてきたCVD ダイヤモンドの表面修飾によるDNA-FET や高感度バイオセンサなどさまざまなバイオ関連デバイス試作に関する研究紹介と,ほかのダイヤモンド(ナノダイヤモンドなど)バイオセンサとの特性比較などを紹介した.また,Ulm Univ. や,VanderbiltUniv. とMichigan State Univ. の共同研究グループからは,ダイヤモンド化学センサの高感度化を実現するためのナノサイズダイヤモンドアレー(超微細電極)形成技術および高感度化の実証に関する報告があった.今後,はやりそうな仕事であると感じた. Superconductivity に関するセッションでは5 件の報告があり,2 件が日本,3 件がフランスによるものであった.招待講演としては,物材機構の高野によるダイヤモンドの超伝導研究に関する現状における総合報告的な解説が行われた.また,物材機構と早稲田大学との共同研究グループからは,高濃度ボロンドープダイヤモンドにおける格子定数変化の面方位依存性と超伝導転移温度との相関に関する研究報告がなされた.ダイヤモンドの超伝導は現在物理系の学会で非常に注目されている話題で,理論計算などによれば室温超伝導の可能性なども議論されているようであり,しばらくは話題の提供が多いと思われる.いずれにせよ,普通では行われないような高濃度不純物添加時のさまざまな物性データが明らかになることは,ダイヤモンドの研究分野にとっては好ましいことである. Defects に関するセッションは4 件の報告があり,そのうち2 件はWarwick Univ.,DTC Research Centre,ElementSix の共同研究,およびDTC Research Centre によるもので,DeBeers 関連研究機関からの報告であった.内容はSi 添加単結晶CVD ダイヤモンドの作製と,Si 関連欠陥に関する報告であった.ほかの2 件は,Melbourne Univ. とHP との共同研究,Stuttgart Univ.,HP,Texas A&M による共同研究によるもので,手法は異なるがいずれもN センターに関する研究であった.こちらの研究は,HP が中心にいるようだ.あまり多くは書かないが,今回の欠陥のセッションはある意味非常におもしろいかった. 3 日目は,午前中のセッションのみで,午後は自由時間となった.Devices とGrowth に関するセッションがあった. デバイス関連のセッションでは,ホウ素添加ダイヤモンドを用いたユニポーラデバイス作製に関する報告が多かった.Element Six のSchwitter らは,ショットキーダイオードやFET 作製に関して,CVD 膜の結晶性や導電性,オーミックおよびショットキー電極,デバイス化プロセスなどの技術課題をあげ,一つ一つ克服することの重要性を議論し試作したデバイスの特性を紹介した.また,CambridgeUniv. のBrezeanu はショットキー電極端に傾斜構造をもつ絶縁膜を形成することで,ショットキーダイオードの逆方向絶縁耐圧を改善する構造を提案し,数種類の絶縁膜を用いてデバイス試作を行い,シミュレーション結果と合わせて議論した.物材機構の小出は,WC ショットキー電極とした紫外線受光デバイスの感度やゲインを,表面や電極界面との準位や電流輸送機構の観点から議論した.表面伝導層を用いたデバイスでは,早稲田大学の平間はAl2O3 やCaFをゲート絶縁層に用いたMISFET の高周波動作の解析を行っていた.一方,産総研ダイヤモンド研究センターの牧野はpn 接合構造をpin 接合構造にすることで,電気的特性や光学的特性が改善することを発表した.アモルファスカーボンデバイスに関しては,Surry Univ. のSilva の招待講演があった.レーザアブレーションによりバンドギャップの異なるアモルファスカーボンを積層して作製した量子井戸構造で,量子効果が観測されたことを紹介した.さらにメモリ構造を形成し,デバイス評価を行っていた. 成長のセッションでは,透明で大面積なナノダイヤモンドの成膜と評価に関して産総研ナノカーボン研究センターの長谷川による招待講演があった.100 °C 程度での低温合成により基板の選択の幅が広がり,さまざまな応用への展開が期待できる.Bristol Univ. のMay は,Ar/CH4/H2 系でのナノダイヤモンドの成膜過程をシミュレーションを用いて議論した.ホモエピタキシャル成長に関しては,HasseltUniv. のBogdan がCH4/H2 が6 〜 15%の高メタン濃度領域で比較的平坦な膜の合成様式がメタン濃度が低い場合とは異なることを報告した.産総研ダイヤモンド研究センターの水落は,合成時における水素と重水素の効果を調べていた.SP3 Diamond Technol. のZimmer は,SOD(silicon ondiamond)基板作製技術や応用分野について報告し,残留ストレスに問題があることを議論した. 4 日目はA,B2 会場に分かれてのパラレルセッションであった. Detectors のセッションは,CEA/Saclay のBergonzo の粒子線検出器に関する招待講演があった.CVD ダイヤモンド薄膜の高品質化により,エネルギー分解能が向上されていた.また,デバイス劣化では欠陥準位へのトラップが寄与するモデルを提案し,窒素添加膜での正孔トラップの飽和などを調べ,モデルを実験的に検証していた.同グループのTromson は,放射線照射により生じる熱ルミネセンスを評価し,照射量に対して熱ルミネセンス強度が増加することを報告した.多結晶膜に比べてホモエピタキシャル膜のほうが特性が優れていた.European Synchrotron Radiation のMorse はX 線検出器を試作しマッピングを行い,検出が膜内で一様ではなくCVD 膜の欠陥制御が重要であることを指摘した.大阪大学の松原は,ホウ素添加ホモエピタキシャルダイヤモンドにより軟X 線検出器を作製し,ダイオード電圧が高電圧領域では比較的感度が高いことを報告した.さらにデバイスのエネルギーや光子数依存性を評価していた.紫外線検出に関して,Roma Tre Univ. のSalvatori は,電極/ ダイヤモンド/ 電極のサンドイッチ構造に比べ,ダイヤモンドの一方の面にのみにマトリックス状に電極を形成した構造のほうが検出効率が高いことを報告した. Nitride のセッションは,AlN 単結晶合成に関してErlngen-Nuernberg Univ. のWinnack の招待講演があった.SiC とAlNのバルク結晶成長の比較しながら紹介した.NC State Univ.のSitar は,種結晶からのAlN の合成についてAl 面とN 面で成長様式が異なること,a 面およびc 面での結晶の広がりに違いがあること報告した.Ulm Univ. のKhon は,p 形ダイヤモンド,n 形GaN,n 形InN,n 形AlN の酸素終端表面の電位窓特性から表面バンド構造を議論した.ViennaUniv. Tchnil. のPongatz は,MBE によりSiC やサファイア上にAlN やGaN エピタキシャルを成膜し,TEM により転位を評価してサファイアを基板に用いた場合に転位が減少することを報告した.City Univ. Hong Kong のChong は,cBN/ナノダイヤモンド積層構造を形成し機械的特性を評価していた. Nanodiamond and Field Emission のセッションでは,電気伝導に関しての発表が2 件あった.Argonne National Lab.のGruen は,合成時のプラズマ状態や膜の構造や粒界および粒内伝導と多くの観点から窒素添加ナノダイヤモンドの伝導性を議論した.Univ. College London のJackman は,インピーダンススペクトロスコピーを用いてナノダイヤモンドの電気的特性を評価し,粒界伝導と粒内伝導の二つの伝導機構と考えられるアンドープ膜の電気伝導が,アニールを行うことで粒内伝導のみに変化することを提案した.一方,ホウ素添加膜の場合は,ホウ素に起因する伝導であると報告した.窒素添加ナノダイヤを用いた横型電子放出デバイスの作製と電子放出特性に関して,Vanderbilt Univ. のDavidson が発表した.Jozef Stefan Institute のNemanic は,イオウ添加ナノダイヤモンドからの電子放出の膜面内分布を測定し,FE 像を得ていた. 最終日は,Surfaces とDoping に関するセッションであった.表面のセッションでは,まず招待講演としてWarwickUniv. のMacpherson は,CL とC-AFM またはSECM とを組み合わせることで,ホウ素添加多結晶ダイヤモンドの粒界近傍におけるホウ素の取込みについて詳細な評価を行った結果に関する報告があった.産総研ダイヤモンド研究センターの竹内は,Ua ダイヤモンド(1 0 0)を用いた真空中熱処理が表面の電子状態に与える影響をTPYS による評価をもとに議論した.やはりダイヤモンド研究センターのRi らは,さまざまな酸素処理を行ったホウ素添加(1 1 1)CVDホモエピダイヤモンドの表面電子状態に関する研究結果をまとめた.ドーピングのセッションでは,LEPES-CNRS のDeneuville が招待講演としてホウ素添加濃度が1019 cm−3 以上の領域におけるCL およびRaman 分光による評価結果を理論的なモデルと対比して議論を行った.また,産総研ダイヤモンド研究センターの加藤は,ダイヤモンド(0 0 1)表面に作製したn 形半導体ダイヤモンドのキャリヤ補償について検討を加えた結果について報告した.今回の国際会議最後の講演は,東北大学の河野らによるリンを高濃度添加したCVD ダイヤモンドの表面近傍のエネルギーバンドについて,二次電子分光,XPD などを用いて構造を予測した結果について報告があった. 以上が,DIAMONDO 2006 の内容報告である.全体として議論は非常に活発に行われた.紙面の関係上すべての口頭報告を紹介することは不可能であるが,読者の研究関連のセッションが省略されている場合はご容赦願いたい. 大会期間中に行われたプログラム委員会において,次年度(2007 年度)はドイツのベルリンにおいて9 月上旬に開催されることが紹介された. 竹内 大輔,山田 貴壽(産業技術総合研究所) 澤邊 厚仁(青山学院大学) |