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 報  告

 第23回ダイヤモンドシンポジウム 

 

平成21年11月18日〜20日の3日間,千葉工業大学の津田沼キャンパスにおいて第23回ダイヤモンドシンポジウムが開催された.今回より開催期間が3日間となり,口頭発表39件,ポスター発表76件と多数の発表に,招待者などを含めて228名の参加者を得ることができ,大盛況となった.3日目には講演会場が変わるなどの点もあったが,大きな会場にそれなりの参加者がおり,議論が活発に行われた.また,3日目にはDLCの国際シンポジウムも併催され,オーラル4件,ポスター12件とパネルディスカッションが行われ,活気のあるシンポジウムとなった.

初日の午前のセッションは,複合硬化処理やさまざまなアモルファスカーボン膜の発表が6件あった.

千葉工大・坂本らは,高速度工具鋼へのDLCおよびCNx膜形成と密着性に及ぼすラジカル窒化の影響について検討した結果,窒化処理後に薄膜形成を行う複合硬化処理により硬度の上昇と密着性の向上が認められることを報告した.

東工大・Taghaviらは,アモルファスカーボンの作製について,EB励起プラズマを用いてC60より作製することにより,比較的高速度で硬質膜を得ることが可能であることを報告した.

千葉工大・早川らは,RFプラズマCVDによりトルエンから作製したDLCの昇温脱離ガス分析による膜構造の解析について検討した結果,終端構造の推察が可能であり,特にメチル基の関与が示唆された.

ジェイテクト・鈴木らは,プラズマCVDで作製したDLCのトライボロジー特性に及ぼす前処理の影響について検討した結果,表面粗さおよび表面状態が摩擦摩耗特性に影響することを報告した.

名大・高島らは,Cr中間層を挿入したDLC被覆ステンレスの耐摩耗・耐食性について検討した結果,Cr中間層の挿入により耐食性が向上し,DLCの膜厚を厚くすることによりピンホールが減り耐食性が向上することを報告した.

中部大・野田らはパルスプラズマCVDでNi被覆Cu基板上へ作製した多孔質カーボン膜のキャパシタンスについて検討した結果,基板温度の高温化によりナノチューブが混在しキャパシタンスが大きくなることを報告した.

初日の午後のセッションは,ダイヤモンドの特性に関する講演が7件あった.

東工大・齋藤らは,同位体ダイヤモンドの構造と電子状態について第一原理電子構造に基づき計算した結果と,実測値の比較について報告した.

産総研・渡邊らは13C/12Cダイヤモンド積層体の作製と電子・正孔の再結合と閉込めについて検討し,超高速デバイスや量子機能デバイスへの可能性を示唆した.

筑波大・水落らはダイヤモンド中の13Cによる多量子ビット化に関する日独間の共同研究結果について,核スピンに注目した二量子および三量子ビットに関する報告をした.

筑波大・磯谷らは,ダイヤモンドのNVセンターの応用について電荷の制御と格子間原子との再結合や複空孔の生成との競合であることと,高温・高線量照射が必要であることを報告した.

産総研・石原らは,ナノダイヤモンドの熱伝導についてMo膜との界面熱抵抗を考慮することにより熱伝導率の測定手法について報告した.また,この手法により金属膜とダイヤモンドの界面熱抵抗の評価も可能であることについても報告した.

九工大・坪田らは,導電性ダイヤモンドの電気接触子への応用について,押付け回数の増加に伴い,抵抗値が上昇することを明らかにした.

東北大・河野らは,CVDダイヤモンド(001)表面導電層の光電子スペクトルについて,純粋な表面不純物・欠陥に由来するC1sピーク位置はバルクと比較して高結合側に存在することを明らかにした.

会期が3日間となった関係で,ポスターセッションは二日間に分けられた.

1日目のポスターセッションは,15:40〜17:30で,37件のポスター発表が行われた.

各種基板へのダイヤモンド合成,ダイヤモンド合成および生成メカニズムに関する発表,DLC,ナノチューブなどの炭素系材料の合成,窒化炭素・窒化ホウ素・BCNの作製に関する発表があり,活発な質疑応答が繰り広げられた.

2日目の午前前半のセッションは,3件の発表があった.

栃木産技センター・竹澤らは,多結晶CVDダイヤモンドのマイクロレンズアレー用モールドの作製について検討し,高い離型性を示し,インプリント用素材としての可能性を報告した.

舞鶴高専・柏木らは,リフトオフ法ではないポリシロキサンを用いたダイヤモンドのナノパターン形成技術について報告した.

東大・野瀬らは,マイクロ波プラズマCVDでダイヤモンド合成時のBEN(バイアス支援核形成)におけるプラズマ状態とイオンエネルギー分布について検討した結果,炭化水素の解離促進が本質的であると報告した.

2日目の午前後半のセッションは,4件の発表があった.

産総研・津川らはPSS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂へのナノダイヤモンド合成について検討した結果,核形成機構が通常のCVDダイヤモンド形成機構を異なることを明らかとした.

住電・角谷らは,高純度グラファイトを出発材料として作製したナノ多結晶ダイヤモンドは,室温では単結晶ダイヤモンドと同等以上の硬度を示し,高温下での硬度変化も少なく,焼結体より耐摩耗性に優れることを報告した.

早大・加藤らは,リモートプラズマによる低圧下でのカーボンナノチューブの高速成長について,4mm/hの高速での合成が可能であり,ラジカル供給量の増加によりさらなる速度の向上の可能性を示唆した.

三重大・小海らはレーザ蒸発法により形成したカーボンナノチューブは,蒸発雰囲気ガスにより総数が変化し,外径と層数は強い相関性を有することを報告した.

2日目の午後のセッションは,3件の一般講演と特別講演が行われた.

NTT・平間らは,ダイヤモンド基板上への単結晶AlN薄膜の作製において,ダイヤモンド(111)面を用いることにより単結晶AlN(0001)薄膜が得られることを報告した.

物材機構・津田らは,低圧CVD法による六方晶窒化ホウ素合成について,低圧高流量化により均一性が向上し,CLを示すhBN膜の作製が可能であることを報告した.

物材機構・谷口らはNi基金属系溶液を用いた六方晶窒化ホウ素の液相成長について,改善によりアルミナ基板への結晶成長が可能であり,成長条件の最適化および基板材料の探索により,さらなる展開の可能性があることを報告した.

この後,学術委員長である東京大学教授・光田学術委員長の司会のもと,日本工業大学・村川正夫教授による“ダイヤモンド,c-BN,DLCの研究を振り返ってというタイトルで特別講演が行われた.村川先生のニューダイヤモンド系材料の研究の遷移についての報告があり,今後の研究についてのヒントをいただいた.

2日目のポスターセッションは,15:40〜17:30で,39件のポスター発表が行われた.

CVDダイヤモンドおよびDLCの評価に関する報告,センサへの応用,生体材料としての応用,電気的応用に関する発表があり,活発な質疑応答が繰り広げられた.

懇親会は場所を移して,5号館6Fの大会議室で行われた.89名の多数の参加者が集まり,藤森会長の挨拶に始まり,来賓の千葉工業大学副学長・佐野利男氏と経済産業省製造産業局ファインセラミックス・ナノテクノロジー・材料戦略室・日下保裕氏のご挨拶後に,物質・材料研究機構・加茂睦和先生の乾杯で宴はスタートした.後に,学術委員長・光田好孝先生の司会でポスター賞の表彰が行われた.受賞者は3名であり,最優秀賞に高知FEL株式会社・大岡昌洋氏/「有限要素法による電界放出型光源の構造開発」および優秀賞は,東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻・佐々木勇斗氏/「摺動部材への応用を目指したAl合金上への高付着力DLC膜の形成」と早稲田大学理工学部電気情報生命工学科・野村亮氏/「ダイヤモンド超伝導薄膜を用いたステップ構造ジョセフソン接合の特性評価」の2名が選ばれ,藤森直治会長より賞状および副賞の贈呈が行われた.中締めとして次回開催地である東京工業大学・大竹尚登先生より挨拶があった.

3日目の午前前半のセッションは,4件の発表があった.

早大・新井らは,フェニルボロン酸修飾ダイヤモンド表面でのアデノシン三リン酸(ATP)の検出について検討した結果,蛍光観察法とSGFETでの測定により検出が可能であり,リン酸基のもつ負電荷による周辺イオンの変動の検出によるものであると報告した.

早大・田島らは,ダイヤモンド表面上をアプタマーを固定して機能化することにより,特異性の高いPDGFセンサの作製が可能であることを報告した.

産総研・山本らは,カーボンナノチューブを気管注入したラット肺の電子顕微鏡による観察について検討した.その結果,CNTはマクロファージに貪食され沈着し炎症を起こしているが,良好な結晶性を維持し続けることが明らかとなった.

東京理科大・近藤らは,ダイヤモンド/カーボンペーパ電極によるHBrガスのセンシングについて検討した結果,高感度検知が可能であり,耐食性に優れ長期的にも安定していることを報告した.

3日目の午前後半のセッションは,3件の発表があった.

滋賀医科大・小松らは,有機合成を用いた蛍光ナノダイヤモンドの作製について検討した結果,共有結合を介して有機基を導入することにより,機能性を付与することが可能であることを報告した.

産総研・中村らは,ダイヤモンド粉末の化学活性官能基修飾について検討した結果,二重結合および光学活性基を有する化合物に光照射することで作製が可能であり,ラセミ体の化学異性体分離が観測されたことを報告した.

産総研・上塚らは,多結晶ボロンドープダイヤモンド基板へ水素および酸素終端表面を形成し,ジアゾニウム塩を固定した.この表面へのDNAの固定が可能であり,さらにリリースも可能であることを報告した.

3日目の午後前半のセッションは,5件の発表があった.

NTT・ミハエルらは,高圧合成ダイヤモンド上へCVDダイヤモンドを形成し水素終端して,その後に電極形成したダイヤモンドFETの特性について検討した結果,NOxに暴露することにより特性が向上することを報告した.

早大・佐藤らは,水素終端した高圧合成単結晶ダイヤモンドへMOSFET構造を作製し,特性を検討した結果,PTFEの塗布により特性は向上し,次世代トランジスタデバイスに匹敵する特性を示すことを報告した.

物材研・寺地らは,ダイヤモンド上にBドープ層を形成して横型ショットキーダイオードの形成について,真空紫外光/オゾン処理により熱処理なしでダイオードの作製が可能であり,特性に優れることを報告した.

早大・渡辺らは,CVDダイヤモンドの成長中にボロン濃度を制御して超伝導層を挟むことにより作製したジョセフソン接合で,初めて同一物質での接合に成功したことを報告した.

産総研・竹内らは,高圧合成単結晶ダイヤモンド上にリンドープ,アンドープ,ボロンドープ層を形成してダイオードを作製して特性を評価した結果,室温で約10μAの放出電流が得られることを報告した.

そして最終セッションでは4件の報告があった.

物材機構・小出らは,ダイヤモンド紫外線センサの光伝導利得および永続的光伝導のメカニズムについて検討した結果について報告した.

同じく物材研・Liaoらは,高圧合成ダイヤモンド基板にマイクロ波プラズマCVDを用いてダイヤモンドを形成して作製した非オーミック電極型ダイヤモンド検出器で見られる光電流利得について報告した.

北大・藤田らは,CVDで合成された大面積ダイヤモンド自立膜の電荷輸送特性について検討した結果,電気的応用に耐え得るレベル以上の特性を示すことを報告した.

早大・北郷らは,高圧合成ダイヤモンド基板上へマイクロ波プラズマCVDでBドープダイヤモンドを形成して作製した超伝導ダイヤモンドは,ミスフィット転移の少ない膜厚で,最も高いTcが得られることを報告した.

また,3日目はDLC国際特別セッションも開催された.午前は,12件のポスターセッションが行われた.

東工大・Taghaviらは,EBEPを用いてC60から合成したアモルファスカーボンフィルムの機械的特性について報告した.

AIST・大花らは,水中および大気中でのDLC膜のトライボロジー特性に及ぼす表面あらさの影響について報告した.

兵庫大・神田らはGa-FIBCVDで作製したDLC膜の熱処理効果について,NEXAFSで測定した結果を報告した.

東京電機大・大越らは,人工血管(synthetic vascular graft)内壁へのRFプラズマCVDによるa-C:Hの被覆について検討した結果,被覆が可能であり,かつ細胞結合の改善が可能であったことを報告した.

龍谷大・比嘉らは,RFマグネトロンスパッタで作製したa-C:Hの特性について検討し,含有水素量により光学バンドギャップが異なり,水素含有が構造および特性の制御に重要な要因であることを報告した.

石川工試・安井らは,フィルタードアークで作製した水素フリー高密度DLCの機械的特性について検討し,硬度は90GPaで,摩擦係数は0.1と通常のDLCより低いことを報告した.

東京高専・中野らは,XPSのよりアモルファスカーボンの深さ方向分析を行った結果,CとHのみで構成されており,289eVに同定できないピークが確認されたことを報告した.

ナノテック・今井らは,標準化のために異なる雰囲気でのDLC薄膜のトライボロジー特性を評価した結果,異なる湿度では成膜手法およびドーピングの有無により異なる特性を示し,標準化には,湿度を考慮すべきであることを報告した.

H.E.F R D・Phillipらは,プラズマCVDでのa-C:Hコーティングとトライボロジー分野での応用について,バルブリフタを取り上げて報告した.

ハウザー・Tietemaらは,自動車部品のトライボロジー応用としてのハイブリッドコーティングシステムによるDLCコーティングについて報告した.

KIST・Kimらは,ta-C膜の作製へのフィルタドアークによるカーボンプラズマの特性について,アーク電流やイオン電流密度分布と均一性について報告した.

午後のセッションでは,4件の依頼講演と,パネルディスカッションが行われた.

フラウンホッハー・Gablerらは,ドイツでのカーボン膜の企画化の進捗についてダイヤモンド膜を含めて検討していることを報告した.

KIST・Leeは,韓国で行われたDLCコーティングの国際規格に向けてのワークショップについて報告した.

KIST・Kimらは,韓国でのDLC市場の創成,DLC研究の動向と標準化の関係について,90年代からの研究動向を踏まえて報告した.

東工大・大竹らは,DLCの工業的応用に関する最近のトピックスについて,DLCの特性と応用分野と関係に基づき分類することを報告した.
  そして,長岡技大・斎藤の司会により,国際協力によるDLC評価のためのラウンドロビンテストと分類に関するパネルディスカッションでは,活発な討論が繰り広げられ,各国のDLCの企画化に向ける勢いが感じられた.

以上,会期が3日間となり講演数が増えたために,十分な学会だよりは困難であり,詳細は講演概要集をご参照いただければ幸いです.

次回は,今年と同じく3日間の開催期間で,11月17日〜19日に東京工業大学での開催が予定されています.

最後になりましたが,開催に当たりご協力いただいた学術委員および事務局のご尽力に感謝申し上げます.

坂本 幸弘(千葉工業大学)

 

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