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 報  告

 第25回ダイヤモンドシンポジウム 

 

第25回ダイヤモンドシンポジウムが平成23年12月7日,8日,9日の3日間の日程で,つくばの産業技術総合研究所で開催された.

オーラルセッション1:単結晶ダイヤモンド,およびナノ結晶ダイヤモンドの結晶成長を議論する3件の報告があった.一色(電通大)らは大面積成膜を目標とした円筒共振型マイクロ波プラズマによるナノ結晶ダイヤモンドの低温成長を報告した.炭素源ガスとしてトリメチルシランを用い,低温化による膜質の変化を主にラマン分光測定により議論した.菊池(青学大)らは,量子情報素子としての応用を目指し,ヘテロエピタキシャルダイヤモンドの選択成長法を用いたナノスケールダイヤモンドドットアレー形成について報告した.核発生時のメタン濃度を調整することにより1011cm−3程度の核を発生し,これを用いてドットアレーを作成し,それぞれのドットからバンドA,およびNV0中心の発光を確信した.山田(産総研ダイヤモンド研究ラボ)らは,大面積単結晶ダイヤモンド接合ウェーハの作製技術開発の現状とインチサイズに向けての課題などについて議論した.

オーラルセッション2:是常(東工大)らは第一原理計算によってダイヤモンドのバンドギャップを算出し,その温度依存性を評価した.格子振動の影響を取り込むことによって,計算の精度を向上させることに成功し,実験結果と比較および未知の物性の予言が可能であることを示した.竹内(産総研)らはダイヤモンドpip接合ダイオードからの電子放出特性を発表した.最上面にリンドープn+層を配したn+-p-i-p構造を用いることによって,理想的なビルトイン電圧近傍で高い電子放出効率が得られることを示した.宇都宮(早稲田大)らはアルミニウム(Al)と窒素(N)ラジカルの交互供給を行うことで,(111)ダイヤモンド基板表面にヘテロエピタキシャルAlNが成膜できることを報告した.結晶面の平坦性や結晶性についてRHEEDおよびXRD測定などの結果に基づいた議論がなされた.横山(早稲田大)らはイオンゲルを用いたダイヤモンドFETを作製し,イオンゲルはFET動作するには十分な電気容量をもつことを示した.FET型バイオセンサなどにつながる興味深い発表であった.

オーラル特別セッション「パワーデバイス」では,パワーデバイス,高周波素子,MEMSスイッチ応用を議論する4件の報告があった.梅沢(産総研)は日本のエネルギー事情とともに,Si,SiC,GaNの状況を説明し,ダイヤモンドのメリットが高温動作で得られることを議論した.Liao(物材機構)らは,ダイヤモンドMEMS/NEMS技術を使ったナノマシンスイッチを報告した.単結晶ダイヤモンドを加工したカンチレバー構造で,ゲート電圧制御によるメカニカルスイッチングを試作しており,4〜5桁程度のオンオフ比が得られている.井村(物材機構)らはAlN/酸素終端ダイヤモンド界面で形成される二次元正孔ガス(2DHG)をチャネルに用いたFET試作を報告した.酸素終端ダイヤモンド表面の2DHG/FETは良好なピンチオフ特性を示し,0.45mS/mmの相互コンダクタンスが得られている.平間(NTT)らは(111)ダイヤモンドを基板として窒化物半導体をエピタキシャル成長させAlGaN/GaN界面での二次元電子ガス(2DEG)を用いてHEMTを試作している.試作HEMTは680mA/mmの高い電流密度が得られており,1GHzでの高周波高出力電力動作が確認されている.温度上昇は4.1K・mm/WとSiCの半分程度であった.

オーラルセッション3:ダイヤモンドの半導体電気特性を議論する5件の講演があった.嘉数(NTT,佐賀大)らは水素終端による表面誘起正孔がNO2吸着によるものと特定した.意図的なNO2吸着によりキャリヤ濃度を上昇させ,寄生抵抗の低減でFETの高周波特性(fmax)を大きく改善することに成功している.寺地(物材機構)らは横型および縦型ダイヤモンドSBDで電流-電圧特性を評価し,界面やエピタキシャル欠陥が及ぼす特性への影響を評価した.高い逆方向もれ電流が発生する素子では順方向特性でマルチバリヤ形成が見られており,特徴的なバンドA発光像も得られている.山崎(産総研)らはベースにPドープダイヤモンドを用いたpnpバイポーラトランジスタを報告した.接合間にi層を挿入することでEB間,BC間で良好なダイオード特性が得られており,室温でβ>10の増幅特性が得られている.松本(産総研)らは高濃度B,Pドープダイヤモンドでの電荷輸送機構について,温度変化ホール効果測定を行って議論した.どちらの不純物においても高濃度ドープ薄膜では室温でホッピング伝導が支配的であり,高温ではキャリヤ活性によるバンド伝導が見られている.小泉(物材機構)はpn接合電極を用いた電子源素子について報告した.300°Cにおける電子放出特性は注入電流が一定のもとでは変動が極めて低い(<0.2%).長期安定性は電極や評価環境にあると考えられ,これらの改善で高い電子放出効率での長寿命素子が可能であるとしている.特別講演では(株)イーディーピーの藤森直治氏が住友電工,産総研,ベンチャー起業までのダイヤモンド関連材料の研究・開発の取組みを紹介した.講演からは材料開発を製品化に結び付ける藤森氏の強い意志を感じ,現在の大型ウェーハ供給技術と明るい将来展望が紹介され,集まった聴衆を魅了した.

オーラルセッション4:産総研の中村らは,過酸化水素水の光化学反応を用いたDLC膜の酸素官能基化表面化学修飾法について報告した.酸素終端DLC膜は高親水性を示し,水中における摩擦試験において試験開始直後より安定した低摩擦特性を示すことを明らかにした.東京電機大の大越らは水素化アモルファス炭素を被膜した人工血管用素材の細胞挙動について検討し,細胞が繊維により誘導移動することを報告した.ジェイテクトの鈴木らは,元素構成の異なるDLC膜における滑り摩擦および転がり摩擦試験を行い,耐荷重性に関する詳細な評価を行った.特に高荷重環境下においては摩擦形態によって異なる結果を示し,膜の元素構成が接触面および界面へ作用する応力に影響を与えることを報告した.弘前大の中澤らはSiおよびN同時添加DLC膜の機械特性について,成膜条件および各種測定を用いて詳細を検討した.SiおよびN原料としてヘキサメチルジシラザンを用いた場合,表面上に粒子状物質が確認されるものの,Si-N-DLC膜はSi-DLC膜と比較して内部応力が小さく,密着性が向上することを明らかにした.東大の野瀬らはDLC膜形成の困難なAl合金上へ基材再堆積法を用いた手法によりDLC/Al合金試料を作製し,ナノインデンテーション法を用いた破壊試験によりその耐久性について検討した.基材の再堆積量の増大により界面強度が増大し,連続破壊が抑制されたことが説明できる.

オーラルセッション5:NVセンタのスピン関連セッションとして件数は2件であったが,いずれも世界をリードするグループからのレベルの高い報告であった.阪大の水落らは,産総研で作製したダイヤモンドpinダイオードを用いた電流注入によるNVセンタのシングルフォトン発光に世界で初めて成功したことを報告した.量子情報デバイスの固体化が現実味を帯びる大変重要な結果である.これまでのPLによる報告からは,NVセンタの基底・励起準位間のみの緩和過程でアンチバンチング測定などの実験結果が良好に説明されていたが,今回のELによるアンチバンチング測定カーブの幅の広がりは,もう一つの準位を仮定することでのみ説明できることが報告された.同じNVセンタにおいて,このようなPLとELとの差が初めて明らかになった.現時点ではNV0が光っており,今後どのようにNV発光が得られていくのかが楽しみである.日本原研の小野田らは,NVセンタの配列制御による多量子ビット化や磁気センサへの応用を目指しており,1μmの精度でシングル窒素イオンを高純度高品質ダイヤモンド基板に10MeVの高エネルギーで注入し1000°Cでアニールする実験結果から,イオン照射位置において,NVセンタ形成収率100%が得られたことを報告した.高エネルギーであるため,表面ポテンシャルの揺らぎや欠陥の影響が回避できると考えられる結晶奥深くにおいて,窒素の周囲に欠陥を形成でき,それらがアニールによってNVセンタとして活性化すると説明した.一方,同位体15Nイオンを用いた実験から,50%は注入したNイオンによるNVセンタが形成され,残り50%は,基板に混入しているわずかなNイオンによるNVセンタが形成され,結果として100%となっていることを実験的に示した.注入イオンが50%関与してくる点が興味深い.また,従来コヒーレンス時間が0.1ms程度と短いことがイオン注入によるNVセンタの課題であったが,今回1〜2msと非常に長い値が得られたことは重要な結果である.今後,双極子間の相互作用が観測されるかが期待される.

特別セッション「グラフェン」:テーマをグラフェンとした特別セッションが設けられ,基調講演1件を含む4件の発表があった.まず,基調講演で東北大学の尾辻教授が,「グラフェンの光電子デバイス応用:研究動向と技術展望」と題して,超高速トランジスタやテラヘルツレーザ,フォトダイオードなどへの応用に向けた課題と,その取組みの現状を,実験結果と数値計算の両面から議論した.その中で,グラフェン電界効果トランジスタのゲート絶縁膜にDLCを用いることによる特性改善や,dualゲート構造で電流注入によるポンピングの予測など興味深い成果を示した.合成に関しては,産総研の山田らはマイクロ波プラズマCVDを用いた巻取り成膜装置を世界で初めて開発し,約30センチ幅で均一なグラフェンの連続成膜に関して報告した.低基板温度と低圧プラズマにより,巻取り成膜が実現できると説明していた.マックスプランク固体物理学研究所の岩崎らは,MgO(111)面上にNiをヘテロエピタキシャル成長させた基板上に,熱CVD法により,これまで困難であったためNi上への単層グラフェンの成膜に成功していた.デバイス応用として,中部大のカリタらは,プラズマCVD法でSi上にグラフェンを成膜し,グラフェン/Siショットキーダイオード構造での整流性を確認し,光起電力を評価していた.グラフェンの高透過性を利用したデバイスの応用の一つである.

オーラルセッション6:特別セッションに引き続きグラフェン関連のセッションであった.東工大の齋藤らは,周期的に穴を形成したグラフェンの電子物性を計算し,評価していた.東大の増淵らは,グラフェンのバンドギャップを広げるために,AFMを用いた局所酸化法により酸化グラフェンを形成し,電流-電圧特性の非線形性を確認し,局所酸化領域が半導体的特性であることを示した.同様の手法による水素終端ダイヤモンド表面伝導層の局所酸化が可能であることから,ニューダイヤモンド系材料のナノ領域の導電性制御技術の一つとして期待できそうである.三重大の小海らは,Nメチル2ピロリドン溶液中での超音波照射よるグラフェンフレークを作製し,リチウムイオン二次電池のカソードとして用いて,充放電特性を評価した結果,グラファイトの理論値よりも大きな値が得られることを報告した.

オーラルセッション7:滋賀医大の小松らは30nmナノダイヤモンド粒子にグリシドールの開環重合処理を行うことにより,ポリマー被覆ND粒子作製に成功した.修飾ND粒子はリン酸緩衝液に対して高溶解性を示すことから,医療応用への適用が期待できる.日工大の伴らはインクジェット法によりマイクロウェル中に形成したフラーレン結晶微粒子を用いた細胞毒性評価について報告した.フラーレン微結晶は光照射により活性酸素を生成し,がん細胞が高率で死亡することを明らかとした.産総研の山本らは単層カーボンナノチューブの気管内注入および吸入曝露試験による安全性試験におけるTEM観察結果について報告した.特に吸入曝露試験においてはマウス肺に一過性の炎症が観察されたものの,ナノチューブは肺胞マクロファージに貪食されることが確認された.東工大の平田らは各種原料から作製したカーボンオニオンについて砥粒性能を検討した.粒径18nmのカーボンブラックを原料としたオニオンが最小表面粗さでの研磨が可能であり,スクラッチ発生も確認されないことを明らかにした.産総研の岡アらはピーポッド型のコロネン内包単層カーボンナノチューブを作製し,カラム状に自己集合した分子配列構造の観察に成功した.この一次元分子配列からはコロネン単体とは異なる蛍光スペクトルが観測され,ナノチューブに内包された特有の電子構造を有していることを明らかとした.

オーラルセッション8:高周波加熱炉を用いた金属触媒法によりhBNの合成を,北大の佐竹らが報告した.高温高圧法で得られる高純度のhBNと同様の結晶性を示すhBNが合成できていた.アモルファス窒化炭素の電気特性に関して,防衛大の田村らが報告した.窒素含有率や電気特性が成膜温度に依存することを示した.窒化炭素膜時のスパッタガスの影響を,千葉工大の城谷らが報告した.ArとN2ガス比を変化させることで,膜中への窒素含有率が変わることを示した.長岡技大の伊藤らは,CH3CNを原料としてアモルファス窒化炭素を成膜する際に,プラズア中のCNラジカルをレーザ励起スペクトルで評価し,XPSで評価して合成した膜中のCNとの相関を調べ,膜中の窒素源はCNラジカルであることを特定した.

オーラルセッション9:オーラルセッション9は,実用化を見据えた,あるいは実用化に近い基板やその研磨,高エネルギー粒子検出器などのテーマに関連する発表5件が報告された.熊本大院の峠らは,紫外光支援加工によるダイヤモンド研磨技術に関して報告した.10mm角の大口径(100)面ダイヤモンドの研磨でも全体に良好な研磨が可能である結果が示された.研磨機構に理解については,紫外光の直接の効果なのか,紫外光による活性酸素などによる効果なのかという質問がなされ,今後の展開が待たれる.住友電工の植田らは,張合せによるモザイク状CVDダイヤモンド単結晶自立板の独自の手法について報告した.産総研が展開している基板のコピーを用いるのではなく,オフ方向や基板厚みの加工精度の向上により,それらを並べてCVD合成することでも,良質なモザイク自立板が得られた結果を示した.一方,結晶性などについて,この簡便化された方法が有効な展開につながるか,さらなる展開を期待したい.青学大の永井らは,ヘテロエピタキシャル膜を用いた放射線検出器の特性について,α線に応答する信号が検出できる特性が得られたことを報告した.イリジウム上の成長初期部分の結晶性が十分高品質化していない部分のエッチングと,選択成長による横方向への成長促進による高品質化によって,より良い特性が得られていた.キャリヤの応答は,まだ欠陥に支配されている点が指摘されたが,今後のさらなる開発が期待される.北大の金子らは,中性子エネルギー計測応用を目指し,Ua基板上への高品質ダイヤモンド合成と,キャリヤ収集に関する評価を行った.Tb基板上では応力ひずみなどにより,成長中や成長後に試料が破損するこれまでの経緯から,Ua基板上での合成に至った内容が紹介された.実際Ua(001)上で,メタン濃度を4%の合成にて,電子収率92%,正孔収率98%が得られた.メタン濃度をより低くすることによって,CLスペクトルでの可視域の欠陥発光が低減しており,キャリヤ収集効率の改善が期待される.住友電工の角谷らは,最近の高品質大型Ua基板の高圧合成の研究結果について報告した.5.5GPaにて,温度範囲が1340〜1350°Cと,わずか10°C程度という極めて狭い範囲でのみ高品質な結晶成長が実現できる困難な制御技術を克服し,かつ高圧合成結晶中から,さらに欠陥の少ない部位を種結晶とする追求によって,(100)成長結晶のみならず,(111)成長結晶においても10mm径を超す大型で高品質なUa基板の合成に成功した結果を示した.従来のTb基板よりも合成速度が向上している点も驚きであった.従来よりもさらに高品質な結晶が,研究開発に今後寄与していくことが大いに期待される.

今回から設けられた優秀講演賞には13名がエントリーし,水落憲和氏(大阪大学大学院基礎工学研究科,「ダイヤモンド半導体を用いた量子情報素子」)が受賞した.また恒例のポスターセッション賞は,最優秀賞を飯泉陽子氏(筑波大学大学院数理物質科学研究科,「SWCNTsをキャリアとしたがん細胞イメージングプローブの開発」),優秀賞を竹野貴法氏(東北大学国際高等融合領域研究所,「ナノクラスタ金属を含む非晶質炭素膜を利用した歪みセンサ」),福井真氏(金沢大学大学院自然科学研究科,「原子的平坦ダイヤモンド(111)表面のグラファイト化によるグラフェン・オン・ダイヤモンド形成」)が受賞した.

今回はダイヤモンドシンポジウム初の試みとして,企業5社(アリオス(株),(合)シンクロトロンアナリシスLLC,(株)シンテック,セキテクノトロン(株),レスカ(株))による展示が行われた.
発表件数は,オーラル44件(基調講演2件含む),ポスター73件,特別講演1件,参加者233名,懇親会参加者91名であり,盛況のうちに閉幕した.

竹内 大輔(産業技術総合研究所)

山田 貴壽(産業技術総合研究所)

梅澤  仁(産業技術総合研究所)

中村 挙子(産業技術総合研究所)

岡崎 俊也(産業技術総合研究所)

長谷川 雅考(産業技術総合研究所)

 

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