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 報  告

 第27回ダイヤモンドシンポジウム 

2013年11月20〜22日 於:日本工業大学

 

第27回ダイヤモンドシンポジウムが,平成25年11月20〜22日の3日間の日程で,埼玉県の日本工業大学にて開催された.講演件数は109件であり,内訳としてはオーラル発表38件(基調講演含む),ポスター発表70件,特別講演1件であった.209名の参加者があり,懇親会にも102名もの多数の参加があった.特別講演として,東京理科大学学長の藤嶋昭氏より,「ダイヤモンド電極の特性と炭酸ガス還元への試み」と題する講演が行われた.オーラル特別セッションとして「トライボロジー」がテーマとして選ばれ,日本工業大学の三宅正二郎氏より,「DLC,ダイヤモンド膜のナノトライボロジー」と題する基調講演が行われた.全日を通して秋晴れの心地良い日に恵まれ,オーラル発表およびポスター発表ともに活発な討論があり,盛況裏に終えることができた.

以下に,各セッションにおける研究発表について詳細に述べる.

 

【第1日目】 第1日目のオーラルセッションでは,午前に6件の研究発表が行われた.最初の2件は室温大気環境下で動作可能な固体量子ビットである窒素空孔欠陥(NV)に関する質の高い発表で,山本(物材機構)らから,NV量子ビットの2量子ビット化を初めて実証したとする報告,土井(阪大)らから,単一NV−中心の電荷状態を電気的にNV0に初めて変化させたとする報告があった.引き続いて,ダイヤモンド半導体を用いた低損失パワーデバイスとして,トラジンスタに関する発表が行われた.岩崎(東工大)らは,ダイヤモンド接合電界効果トランジスタが高温・高電圧下においても動作することを実証し,極限下で使用可能なデバイスとして応用が期待できると報告した.許(早大)らは,原子層積層(ALD)法によるAl2O3パッシベーションを施したMOS型電界効果トランジスタを作製し,400℃の高温でも良好なFET特性が得られることを示した.山口(材料機構)らから,ダイヤモンド結晶構造に乱れを伴わずにキャリヤを導入する方法としてイオン液体を用いた電界効果を用い,水素終端ダイヤモンド表面の金属化およびShubnikov─de Hass振動の観測に成功したとの報告があった.アレクサンドレ(物材機構)らから,従来の金ではなく炭素ベース導体である炭化タングステンを用いp形ダイヤモンドとのショットキー界面を作製し,500Vまでの広い電圧領域におけるその温度特性が詳細に調べられた結果が報告された.

第1日目のオーラルセッションの午後には,6件の研究発表が行われた.最初の2件は,水素終端ダイヤモンドの電子放出特性を利用したスイッチングデバイスに関する発表であった.小泉(物材機構,ALCA)らは,高品質のリンドープn形ダイヤモンドおよびホウ素ドープp形ダイヤモンドによるpn接合を作製し,高効率となる12.7%の電子放出効率が得られたことを報告し,水素終端ダイヤモンド電子源による高効率な真空スイッチの作製可能性を示した.竹内ら(産総研,ALCA,CREST)は,ダイヤモンドpin形ダイオードNEA電子源を利用した真空スイッチに関する研究の第2報として,前報で明らかにされなかった動作速度の律速原因について調査し,高電圧スイッチング実験における応答速度が回路の時定数で律速されていることを明らかにした.後半の4件の研究発表は,グラフェンの合成および各種特性評価に関する報告であった.加藤(TASC)らから,プラズマCVD法により合成するグラフェンの結晶性や電気伝導性を向上させるために,結晶核発生密度を低減させる試みとして,基材である銅箔に含まれるごく微量の炭素を原料とし,従来より高品質なグラフェンの合成に成功したとの発表があった.川田(TASC)らは,グラフェンの透明導電フィルムへの適用に関し,化学ドーピング法によるグラフェンの低抵抗化として,塩化金ドーピングの効果と持続性について評価をした結果を報告した.この方法により,高い光透過率を維持したままシート抵抗を約80%程度低減できること,単分子膜吸着によりシート抵抗の経時的な増加を抑制できることが示された.増渕(東大)らは,六方晶窒化ホウ素(hBN)上にグラフェンを転写し作製した素子を用い,磁界印加下での赤外光照射にてサイクロトロン共鳴に起因する光起電力効果を観測することで,このグラフェン─hBN量子ホール系により高感度・波長選択性を有する赤外光検出素子が実現可能であることを示した.森川(東大)らは,グラフェンの高いキャリヤ移動度を利用した新規機能デバイス実現に向けた研究として,ゲート絶縁膜にグラフェンとの相互作用が少ないhBNを用いたグラフェンnpn接合を作製し,その電子物性を評価した.その結果,移動度や電子波のファブリペロー干渉の観測から,高い平均自由行程を維持したnpn接合であることが明らかにされた.

 

【第2日目】 第2日目のオーラルセッションでは,午前に7件の研究発表が行われた.野瀬ら(東大)はダイヤモンド表面の終端元素による特性の変化について調べた.水素終端化プロセスには水素プラズマの暴露,酸素終端化プロセスは大気中での熱酸化を行った.酸素終端によるラマン散乱シフトは格子拡大によるものと考え,ダイヤモンドの(1 1 1)面内に5×10−5の等方ひずみが生じていると見積もった.ダイヤモンドのパワーデバイス応用を目指す加藤ら(産総研)は,電気的特性と転位密度の関係を調べた.XRT像によって測定した平均転位密度は1.7×104cm−2程度であり,転位とリーク電流密度との相関は見られないが,各転位を抵抗と見立てたところ相関が見られることを見いだした.今後は欠陥の種類の同定とリーク電流特性の関係を詳細に調べる.市川(青学大)らは,ヘテロエピタキシャルダイヤモンドの転位の同定を行った.TEM観察により水素プラズマによるエッチピットの起因となる転位種は,45°混合転位であることを明らかにした.900℃で形成されたエッチピットと転位の本数は1対1対応するが,500℃以上では対応しないことにも触れた.嶋岡(北大)らは,現在SPring8の電子線加速部に使用されている多結晶ダイヤモンドビームハローモニタの特性を向上させるため,単結晶ダイヤモンドの適用を試みた.改善した点が多いが,電荷収集率が予想以上に低いなどの問題点もあり,今後の課題とされた.ナノダイヤモンド(ND)の生体応用を目指すLi(滋賀医科大)らは,NDにポリグリセロールをグラフトさせ,さらにアジド,アミノ基などをグラフトさせることで,体内での近赤外蛍光イメージングやドラッグデリバリなど応用範囲拡大の可能性を示した.小松(滋賀医科大)らは平坦構造をもつグラフェンが薬剤を担持する可能性が高いことに着目して生体応用を目指す.ポリグリセロール修飾を行うことにより,グラフェンの構造を維持したまま水中で安定な構造を得ることに成功した.STEM像から今回のグラフェンのサイズは1mm角程度とのことであった.講演の前半に同材料のCMP砥粒への応用例も紹介された.伴(日工大)らは,表面波励起プラズマCVD法により合成したグラフェンをポリジメチルシロキサン(PDMS)に転写した基板と比較のためPDMS基板を用いた場合について,マウスの筋芽細胞の増殖形態の違いを調べた.グラフェン上では細胞1個当たりの面積が大きく,また表面粗さも大きいことから,グラフェンの微細な凹凸により細胞の仮足が進展し,これに引き続いて細胞増殖が起こっていると報告した.

第2日目のオーラルセッションでは,午後に6件の研究発表が行われた.CNTは広帯域にわたって強い吸収特性をもつことが知られているが,そのメカニズムは明らかにされていない.そこで岡崎(産総研)らは光学特性におけるCNTの長さの影響を調べた.各種CNTを準備し,超音波処理により短尺化を行い,FIR─THzスペクトルから共鳴周波数がCNT長さに関連することがわかり,この方法はCNTの長さの測定法として有効であることを示した.講演では実際のCNTの見掛けの長さが影響するのではなく,途中に存在する欠陥までの長さに起因している可能性を示唆した.SiC基板上に垂直配向させたCNTの高密度電流用電極への応用を試みる鈴木(早大)らは,SiC基板とCNTの間の接触抵抗とショットキー障壁高さ(SBH)を電気特性から調べた.CNT/SiC界面の接触抵抗はSiC基板のドナー濃度と関係があり.ドナー濃度5×1017cm−3,1×1018cm−3の場合の接触抵抗はSBH0.50〜0.55eVに相当する.オーラル特別セッションでは,三宅(日工大)が基調講演を行った.各種機械・装置の小型化に伴い,摩擦・摩耗特性のメカニズムはナノスケールでの表面現象を取り扱う段階にきており,ナノトライボロジーとして議論する必要があることをわかりやすく解説された.磁気ディスク,水素フリーDLCが自動車のエンジンのしゅう動部にコーティングされることで摩擦抵抗が大幅に低減できるなど,実用化されている事例についても紹介があった.横堀ら(日工大)はDLCへのボロン(B)の添加による機械特性の変化について調べた.Bの添加量が増加するにつれて,硬さは低下する傾向にあり,DLCのみの場合は約3 500Hvあった硬さが,4.1atm%のB─DLCでは2 500Hv程度になる.内部応力もそれに伴って減少していることがわかった.摩擦係数は今回調べた合成条件の範囲ではあまり変化がなく0.13程度であった.中澤ら(弘前大)は,耐熱性の良好なSi─DLCよりもさらに高い可能性があるSi─N─DLCの機械的特性を高温下で調べた.450〜600℃でのステンレスボールを相手材とした往復摩擦摩耗試験では,Si─DLCよりも優れた比摩耗量の低減が見られた.Saleeら(東工大)は,摩耗のセンシングを行うことを目的として,蛍光特性を有するZnS上にアモルファスカーボン(a─C)フィルムを堆積させることを試みた.Siを中間層としてsilica/QDに堆積させたa─Cでは,トライボロジー特性や密着性に改善が見られたことが報告された.夕刻には,東京理科大の藤嶋より特別講演が行われた.化石燃料の使用により放出された二酸化炭素を産業活動の流れに引き戻す物質変換技術として,ボロンドープダイヤモンドを二酸化炭素の還元反応に利用する試みについて,学究的にも実用的にも極めて示唆に富むお話をいただくことができた.酸化チタン光触媒にて世界的に著名な藤嶋先生の講演は,我々にとって非常に有意義な時間となった.

 

【第3日目】 第3日目のオーラルセッションでは,午前に7件の研究発表が行われた.鹿田ら(産総研)によるパワーデバイス応用を目指したウェーハデバイスの開発課題について,ダイヤモンドの応用に関する大口径化をはじめとする具体的な項目など詳細に解説が行われた.今後は,効率良く実用化へつなげるために組織立って研究開発を行うことが必要という提言であった.講演では欠陥密度の目標値や125℃で5 000hというのが信頼性の一つの指標であるなどということが示された.杢野ら(産総研)は,従来よりも合成時の窒素濃度を減らすことで,表面モルフォロジーの改善により25mmという厚い結晶を目標にしたダイヤモンドの大型バルク単結晶の合成を試みた.基板配置の変更を行い,窒素濃度が10〜120ppmで変化させると20μm/hの合成速度を達成した.厚さ3.8mmのバルク結晶を合成したところ,クラックや成長縞が確認されたため今後も継続して成長条件の最適化が必要である.寺地ら(物材研)は,12Cおよび13C濃縮メタンガスを使用してマイクロ波プラズマCVD法により多結晶ダイヤモンドを合成した.12Cを用いた場合の成長速度は1.8μm/hであり,336時間の合成により直径30mm,膜厚560μmの自立膜の合成に成功した.SIMSによる12Cの同位体比は99.997%と見積もられ,ラマンシフト量から13Cの自立体膜の同位体比は97%程度であることが示された.最後に今回合成した膜の熱伝導率は2 500W/(m・K)であったと報告した.村上(佐賀大)らは,高温高圧成長Uaタイプの単結晶ダイヤモンドの結晶欠陥の導入メカニズムを明らかにする目的で,シンクロトロン光を用いたX線トポグラフィー観察を行い,転位は刃状転位であることを同定したとの報告があった.磯谷(筑波大)らは,ホモエピダイヤモンド膜中の成長時導入欠陥としての単一光子源SiV−を濃度制御して作製することができ,さらに,そのSiV−の光学特性を詳細に測定することができたとの報告があった.河野ら(青学大)から,ダイヤモンドショットキー電極作製の前処理として一般的に用いられる熱混酸処理について,XPSとXPDにて酸素被覆量と酸素終端構造の評価を行ったことが報告された.嘉数(佐賀大)らは,NO2吸着した水素終端ダイヤモンドに生成した二次元正孔を低温成膜したAl2O3膜で保護することにより達成されたFETの特性向上に関し,この機構を解明するために,シンクロトロン放射光を用いた分光測定を行い界面電子状態が調べられたことを報告した.

第3日目のオーラルセッションの午後には,6件の研究発表が行われた.小松(産総研,CREST)らは,ダイヤモンドへの高濃度ドーピングによるホッピング伝導を利用したデバイスについて,そのキャリヤ伝導に洞察を加えることを目的に実施した実験にて,バンド伝導層とホッピング伝導の接合(p/p)界面で起こる現象を発表した.大谷(物材機構)らは,第1報として報告したリンドープn形ダイヤモンド{ 1 1 1 }の薄膜成長におけるドーピング効果の装置依存性に引き続き,この第2報では炉内構造とガス流束の薄膜特性への影響について報告を行った.金子(東工大)らから,水分散性に優れ高い力学・熱・光学特性を有するナノダイヤモンド(ND)をフィラーとしたND/ポリビニルアルコールコンポジット薄膜を作製し,NDの粒子径を100nm程度にすることで透明で散乱特性をもつ薄膜の形成に成功したとの報告があった.寺島(東京理科大,ACT─C)らは,高濃度ホウ素ドープダイヤモンドに酸素プラズマによる反応性イオンエッチング処理を施すことにより形成される針状突起構造について,その形成方法と形成機構を報告するとともに,これを用いて作製した電極の電気化学特性を評価することでそれが優れた電極材料であることを示した.谷島(東京理科大)らは,ボロンドープダイヤモンドの電気二重層キャパシタへの応用を念頭に,基板の微細加工と加熱処理による多孔質化にて高比表面積をもつ電極を作製し,電気二重層容量を25倍に増加することができること,広い電位窓をもつことを明らかにした.近藤(東京理科大・ACT─C)らは,白金の高温環境化での凝集による触媒活性の低下を抑制し耐久性を向上させるために,マイクロメートルサイズの多孔質ダイヤモンド球状粒子(PDSP)に白金ナノ粒子(PtNP)を分散状態で埋め込んだPtNP内包PDSPを作製し,それが触媒活性を有することを報告した.

 

【優秀講演賞・ポスター賞】 優秀講演賞は,物質・材料研究機構の山本卓氏「ダイヤモンドスピン量子ビットの磁気的結合」,および東京工業大学大学院理工学研究科の岩崎孝之氏「ダイヤモンド接合型電界効果トランジスタの高温・高電圧特性」の両氏が受賞した.

また,ポスター賞として,最優秀賞は,慶應義塾大学理工学部の前川駿人氏「細胞接着性制御可能なマイクロパターニングDLC─MPCポリマー複合部材薬剤徐放性血管内留置デバイスへの応用可能性」に,優秀賞は,東京理科大学理工学部の増田秀剛氏「導電性ダイヤモンドパウダーのPEFCカソード触媒担体への応用」,および慶應義塾大学理工学部の大塚純氏「太陽電池デバイス用DLC半導体へのフッ素添加効果」の両氏に贈られた.

 

 

 

伴 雅人,安原 鋭幸(日本工業大学)

 

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