■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ 第29回ダイヤモンドシンポジウム ■■■平成27年11月17日〜19 日 於:東京理科大学葛飾キャンパス |
第29回ダイヤモンドシンポジウムが,平成27年11月17~19日に,東京理科大学葛飾キャンパスにて開催された.講演件数106件(オーラル発表44件,ポスター発表62件),参加者214名,懇親会参加者76名,企業展示7社(他に広告掲載のみ1社)を得て盛会となった.今回の特別講演では,神鋼リサーチ株式会社の小橋宏司氏により「研究と出逢った方々」と題してご講演いただいた.また,オーラル特別セッション「ナノダイヤモンド」では7件の発表があり,その中で基調講演として京都大学大学院人間・環境学研究科の小松直樹氏より「ナノダイヤモンドの機能化と有機化学」と題した講演が行われた.以下に,各オーラルセッションにおける発表内容について紹介する.
【第1日目】 第1日目は,オーラル発表17件,ポスター発表31件が行われた.午前の前半はダイヤモンドの合成に関するセッションがあった.桝谷聡士(佐賀大学)らは,高温高圧合成ダイヤモンド単結晶のシンクロトロンX線トポグラフィー観察を行い,積層欠陥の同定について報告した.黒根健吾(青山学院大学)らは,格子状核発生領域を用いて10mm角基板へのダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長を報告した.古橋匡幸(イーディーピー)らは,親結晶基板へのイオン注入を利用して,無色透明な単結晶ダイヤモンドウェーハを作製できることを報告した.菱沼良太(東京理科大学)らは,マイクロ波液中プラズマ装置を用いることにより,多結晶ボロンドープダイヤモンド薄膜を120μm/hの速度で製膜できることを報告した.須藤建瑠(東京工業大学)らは,3C-SiC/Si(111)基板上へのダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長をショートパルスバイアス核発生により実現できることを報告した.午前中の後半は,NVセンタに関するセッションがあった.小林悟士(大阪大学)らは,ダイヤモンド中のNVセンタにおける電子スピンのコヒーレンス時間を外部電界によって増大させることができることを報告した.小澤勇斗(東京工業大学)らは,高配向かつ高密度なNVセンタの形成を目的として,N2濃度の異なるCVD条件での(111)基板上へのダイヤモンド薄膜作製結果について報告した.加藤かなみ(早稲田大学)らは,ダイヤモンド表面付近に浅いNVセンタを形成させ,表面終端によるその電子状態の制御に関して報告した. 午後の前半は,引き続きNVセンタに関するセッションが行われた.小野田忍(日本原子力研究開発機構)らは,ダイヤモンドへのkeV級からサブGeV級のイオン照射によるNVセンタの導入と,その特性の比較について報告した.小池悟大(早稲田大学)らは,電子線リソグラフィーを用いてPMMAレジストに直径10nmのナノホールを4μm間隔の格子状に形成し,これをマスクとしてNVセンタの配列を作製できることを報告した.清水麻希(東京理科大学)らは,ダイヤモンドp-i-n接合におけるNVセンタの電荷状態が印加する電圧の方向や大きさにより変化することが示唆されたことを報告した.山野颯(早稲田大学)らは,ダイヤモンド表面近傍に作製したNVセンタについて,水素アニールによる水素終端化および酸処理を施すことにより,電荷状態を安定化できることが示唆されたことを報告した.午後の後半は,高濃度ドープダイヤモンドに関連したセッションがあった.大曲新矢(産業技術総合研究所)らは,熱フィラメントCVD法で作製した高濃度ホウ素ドープダイヤモンド(100)薄膜について,X線回折法を用いた逆格子空間マッピングの解析により,成長膜は基板面内方向で格子整合し,面直方向で格子伸長した擬似格子整合成長が起きていることを報告した.大谷亮太(物質・材料研究機構)らは,マイクロ波プラズマCVD法により作製した高濃度リンドープn形ホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜について,ホール効果測定およびカソードルミネセンス測定により,電気伝導および不純物準位について検討した結果を報告した.日出幸昌邦(早稲田大学)らは,超伝導ボロンドープダイヤモンドを用いた超伝導量子干渉計の作製を目指して,weaklink型ステップエッジ構造ジョセフソン接合を形成し,そのI-V特性などについて報告した.夏井敬介(慶應義塾大学)らは,超伝導ダイヤモンドにおける臨界電流密度の光制御を目指し,高濃度ボロンドープダイヤモンドのアゾベンゼン化合物よる表面修飾を行った.アゾベンゼンの光異性化に伴う臨界電流密度の増加を観察したことが報告された.河野省三(早稲田大学)らから,水素終端ダイヤモンド(001)表面における金オーミック電極の障壁高さについて,X線光電子分光法によるC1sスペクトルを用いた詳細な検討によるバンドダイヤグラムが報告された.
【第2日目】 第2日目は,オーラル発表13件,ポスター発表31件が行われた.午前の前半はダイヤモンドおよびカーボンオニオンの機械特性に関するセッションがあった.辰巳夏生(住友電工)らは,合成石英盤を用いてダイヤモンドを熱化学研磨する際に発光する現象およびそのメカニズムについて報告した.トライボプラズマの発光スペクトルでは,N2由来の紫外光が見られ,これを励起光とする可視光の発光がダイヤモンド中に見られることが説明された.伊藤慧竜(東京理科大学)らは,熱フィラメントCVD法により作製した多結晶ボロンドープダイヤモンド薄膜の摩擦・摩耗特性について報告した.ホウ素濃度に従って表面形状が変化し,それに伴い摩擦挙動が変化することが説明された.室伏梨穂(東京工業大学)らは,走査型プローブ顕微鏡のプローブをナノインデンテーション用圧子とすることで,単一のカーボンオニオンナノ粒子の圧縮試験を行った結果について報告した.午前の後半はグラフェンに関するセッションがあった.山田貴壽(産業技術総合研究所)らは,ポリメタクリル酸メチルを炭素源とし,これを塗布した銅箔を表面波励起マイクロ波プラズマで処理することにより,ドメインサイズが大きくシート抵抗の低いグラフェンが300℃程度の低温で作製できることを報告した.大田祐太朗(東京大学)らから,α-Al2O3(0001)基板にIr薄膜および非晶質炭素膜を堆積させた後,真空アニールによりIr/Al2O3界面にグラフェンを作製できることが報告された.転写プロセスを介さずに絶縁基板へグラフェンを直接析出させる技術として期待される.増渕覚(東京大学)らは,Twisted二層グラフェンにおける整数量子ホール効果の観測について報告した.ツイスト角を変化させたとき,ランダウ準位の分裂が生じる磁界が系統的に変化することが説明された. 午後は,特別セッション「ナノダイヤモンド」が行われた.まず基調講演として,小松直樹氏(京都大学)による「ナノダイヤモンドの機能化と有機化学」と題する講演が行われた.合成法や構造に関するナノダイヤモンドの基礎から,表面化学修飾による機能化とその評価,さらにドラッグキャリヤなどの生体関連応用に至るまで丁寧に説明していただいた.ナノダイヤモンドの表面をポリグリセロールで修飾することにより,水への分散性が飛躍的に向上した結果が示された.また,それによって,従来の有機化学で用いられるNMRなどの分析手法による構造確認が可能になったことが説明された.分散性をはじめ,ナノダイヤモンドの特性は表面の化学構造により大きく左右されるため,これを有機化学的視点から捉えることの重要性を改めて認識した.一色秀夫(電気通信大学)らは,マイクロ波プラズマトーチを用いるナノダイヤモンドの化学気相合成について報告した.水素希釈したトリメチルシランを原料とすることで,シリコン原子が核となり,30~50nmの粒径のナノ結晶ダイヤモンドが生成することが説明された.久米篤史(ダイセル)らは,さまざまな樹脂材料中に爆轟法により作製したナノダイヤモンドを添加したときの特性変化について報告した.伊藤彩香(東京理科大学)らは,有機溶媒への分散性向上を目的としたオクタデシル基修飾ナノダイヤモンドの作製について報告した.サブモノレイヤ程度のオクタデシル基を有するナノダイヤモンドは,極性の低いクロロホルム中で良好に分散する結果が説明された.尾関峻輔(名城大学)らは,爆発法ナノダイヤモンドを硬質ビーズ存在下で超音波処理した後,真空中で840℃の熱処理を施すことにより,ナノダイヤモンド表面を均一に黒鉛化できることを報告した.甲斐恵理子(東京理科大学)らは,ナノダイヤモンドとパラジウムナノ粒子から作製したパラジウムナノ粒子内包多孔質ダイヤモンド球状粒子の鈴木カップリング反応触媒への応用について報告した.パラジウム炭素触媒に比べて,同等あるいはより良好な触媒活性を示すことが説明された.菊池美穂子(東京理科大学)らは,ボロンドープダイヤモンドパウダへの白金担持とそのPEFCカソード触媒への応用について報告した.従来材料である白金担持カーボンブラックに比べて,電位サイクルに対する耐久性が高いことが示唆された. 夕刻には,神鋼リサーチ株式会社の小橋宏司氏による「研究と出逢った方々」と題する特別講演が行われた.小橋氏が研究者として取り組んできたテーマの変遷や多くの研究成果を豊富な写真やエピソードを交えてご講演いただいた.演題にもあるとおり,かつて取り組まれた研究について,そのときに一緒に取り組んだ共同研究者やテーマのきっかけをつくった研究者との出逢いなど,必ず人とのつながりの中で紹介されているところが印象的であった.講演の中で紹介された出逢いの中には,ダイヤモンド薄膜研究における主要な研究者も多く登場し,楽しく拝聴させていただいた.研究の推進には個人の努力はもちろん重要であるが,時には人との出逢いが研究の大きな発展につながるということを改めて教えていただいた.
【第3日目】 第3日目は,オーラル発表14件が行われた.午前の前半はカーボンオニオンおよびアモルファス炭素膜に関するセッションがあった.早稲田大輝(東京工業大学)らは,活性炭にカーボンオニオンを添加した電極を用いた電気二重層キャパシタでは,導電性および容量が増加することが報告した.荒川 悟(長岡技術科学大学)らは,アモルファス水素化炭素膜の構造評価に関して,光学モデルを用いた有効媒質近似による解析について報告した.田村尚之(防衛大学校)らは,アモルファス窒化炭素薄膜の電気抵抗率が測定時の圧力によって変化する現象に関し,ガス分子の薄膜への物理吸着が原因となっていることを報告した.原田人萌(防衛大学校)らは,アモルファス窒化炭素薄膜が可視光照射により可逆的に変形する現象に関し,成膜圧力の制御により初期内部応力を抑えて光曲がり量を増加できることを報告した.午前の後半はSiCおよびダイヤモンド薄膜成長に関するセッションがあった.成田舜基(弘前大学)らは,AlN/Si(110)基板上に作製したSiC薄膜では3C-SiC(111)3×3構造が確認され,さらに超高真空中で加熱することによりグラフェンの生成が示唆されたことを報告した.日比谷篤(青山学院大学)らは,選択成長法によるIr/α-Al2O3基板へのダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長に関して,パターンの間隔を広げることにより,ダイヤモンド膜の配向性の向上および反りの軽減が可能であることを報告した.小宮一輝(電気通信大学)らは,Si基板上に配向したダイヤモンド核のパターンを形成し,ダイヤモンド薄膜を成長させることにより高配向ダイヤモンド薄膜が得られることを報告した.小泉 聡(物質・材料研究機構)らは,{111}リンドープダイヤモンドのホモエピタキシャル成長に関して,基板のオフ角が1°以下の比較的低角度の場合において,高いリンドープ効率が得られることを報告した. 午後の前半は電子デバイス関連のセッションがあった.胡谷大志(国際基督教大学)らは,シリコン鋳型基板へ製膜した窒素添加ダイヤモンドをもとに作製した平板型電子源の電子放出特性に関して報告した.竹内大輔(産業技術総合研究所)らは,真空スイッチへの応用を目指したダイヤモンドpinダイオード型NEA電子源に関して,ホウ素濃度の低い基板を用いることにより,より高い電子放出効率が得られることを報告した.岩崎孝之(東京工業大学)らは,NVセンタを利用したダイヤモンド縦型pinダイオードにおける内部電界計測に関して報告した.午後の後半も引き続き電子デバイス関連のセッションが行われた.花田賢志(佐賀大学)らは,水素終端ダイヤモンド表面をNO2ガスにばく露することによるホールドーピングと,それを用いた電界効果トランジスタの電気特性に関して報告した.劉 江偉(物質・材料研究機構)らは,水素終端ダイヤモンドMISFETに関して,デバイス作製時の180℃でのアニールによりノーマリーオンオフの制御が可能であることを報告した.工藤拓也(早稲田大学)らは,水素終端ダイヤモンドMOSFETに関して,ゲート直下のチャネル部分を酸素終端化することにより,高耐圧・高電流密度を示すノーマリーオフダイヤモンドMOSFETを作製できることを報告した.
【優秀講演賞・ポスター賞】 優秀講演賞には16件のエントリーがあった.前回までのシンポジウムでは,エントリー講演は2日目までに終了し,審査を経て,その日の夕刻に開催される懇親会にて表彰式が行われてきた. 今回から,3日間にわたってエントリー講演を設け,シンポジウム終了後に,審査結果をもとに受賞者を決定することになった. 優秀講演賞の表彰式は,次回総会にて行われ,その講演は本誌にて掲載される予定である. ポスター賞としては,最優秀賞に,慶應義塾大学大学院の柴野修平氏「ホウ素ドープダイヤモンド電極を用いた電気化学測定用マイクロ流体デバイスの作製」,優秀賞に東京理科大学大学院の岡田成美氏「Co3O4/ナノダイヤモンド光触媒の作製とCO2還元反応の高活性化の検討」,東京理科大学大学院の日下大樹氏「ボロンドープダイヤモンドパウダーを用いたマイクロ電極の作製と電気化学特性評価」,金沢大学大学院の中西一浩氏「Niへの炭素の固溶反応を用いたダイヤモンドエッチングプロセスの提案」,北海道大学大学院の嶋岡毅紘氏「単結晶CVDダイヤモンドにおける電子電荷キャリア輸送特性改善と電子正孔対生成平均エネルギー・ファノ因子の評価」が選出され,懇親会にて表彰式が行われた. 次回の第30回ダイヤモンドシンポジウムは,東京大学生産技術研究所にて2016年11月16~18日に開催予定である. 最後に,本シンポジウムの開催にあたり,発表・参加された方々およびご尽力いただきました関係者の方々に深く感謝申し上げます.
近藤 剛史(東京理科大学) |