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 報  告

 第31回ダイヤモンドシンポジウム 

 

本フォーラム最大の恒例企画であるダイヤモンドシンポジウムの第31回目が,平成29年11月20〜22日の3日にわたり,関西学院大学西宮上ヶ原キャンパスで開催された.昨年第30回となる記念の会を終え,4順目に入ったわけである.2007年の長岡技術科学大学での開催から,実に10年ぶりの地方開催となった.新大阪駅から少し時間のかかる遠隔地であるため参加者減が心配されたが,平年より10%ほど少ない程度で,188名の参加を得ることができ,例年に変わらず3日間にわたり活発な議論が行われた.シンポジウムの講演件数は91件で,内訳としては口頭37件,ポスター54件であった.

まずダイヤモンド半導体に関連するセッションについてまとめる.セッションとしては薄膜成長,ドーピング,デバイス基礎評価,量子センシングがあった.枡谷聡士(佐賀大学)らは,CVD(111)ダイヤモンド単結晶の転位をX線トポグラフィーで評価した.HPHT結晶に対するこれまでの評価では結晶の中央付近に刃状転位が,また周辺部には複合転位が見られる傾向があった.これに対して,CVD(111)結晶では両方の転位の分布に特徴がなかったとのことであった.また,転位はプラズマエッチングによりエッチピットとして可視化されたが,その形状が刃状転位と複合転位で異なることを示した.嶋岡毅紘(物質・材料研究機構,以下NIMS)らは作製したpin接合にバイアス電圧を印加し,α線でダイヤモンド中にキャリヤ励起することでCVDダイヤモンド結晶中でのキャリヤの走行を評価した.電荷収集効率(移動度とキャリヤ寿命,電界の積)は,(100)縦型pinダイオードのほうが(111)ダイオードよりも高い値となった.梅沢 仁(産業技術総合研究所)らは,SBDの漏れ電流の発生箇所を,EBIC像観察から同定することを試みた.漏れが大きなSBDでは,電極端部に電界集中を示唆する明るい輝点が見られた.「エッジターミネーションの効果は?」の質問に対して梅沢氏は,「現時点ではエッジターミネーションを作製しても,明確な電界集中緩和が電極端部で見られていない.エッジターミネーションが不完全と考えられ,適切な作製プロセスの確立が必要」と述べた.

谷口 尚(NIMS)は,ホウ素を同位体濃縮したc-BN結晶を高圧合成した.c-BN結晶の10B(天然存在比20%)96%をSIMS分析で同定し,ラマンシフトの同位体効果も確認した.ホウ素同位体の濃度を任意に変更したときに,ラマンシフトピークがどのように変化するのかは興味深い課題である.海老澤芽依(青山学院大学)らは,核発生パターンの形状に工夫を凝らすことでヘテロエピタキシャルダイヤモンドの成長後の“反り”の低減を目指した.青山学院大学のグループではこれまで,核発生領域を結晶全面ではなく線状やグリッドパターンに限定して核発生させた後に横方向成長させることで良質な膜を形成し,ヘテロエピタキシャルダイヤモンド薄膜の高品質化を図ってきた.今回は,グリッドのクロス状の部分を削除した破線グリッドのようなパターンでの成長を実施した.この試みは有効であったが,さらなる高品質化にはパターンサイズの再検討が必要とのことであった.小泉 聡(NIMS)らは,最近精力的に取り組んでいる,リンの高濃度域でのドーピングの現状について述べた.Tb(111)基板上にノンドープ膜を厚く積むと,取込み率の向上に適した(111)ジャストに近い面が自発的に形成されることに着目し,このノンドープ厚膜上への高濃度リンドープ膜形成を実施した.9×1019cm−3と高いリン濃度でも550Kで明確なn形特性が観測され,室温比抵抗47Ω・cmと低い値を得た.低オフ角に研磨した基板上では,さらに高いリン濃度を達成し,室温比抵抗24Ω・cmを得たとのことであった.n形ダイヤモンド作製の発表から20年経ち,リン高濃度化がn形ダイヤモンドの新たな壁となっている印象をもった.

岩瀧雅幸(早稲田大学)らはH終端縦型MOSFETの作製プロセスに工夫を凝らした.水素終端伝導層とボロンドープ基板間のノンドープ層を通じて流れる漏れ電流を遮断するために窒素ドープ層を挿入した.漏れ電流は低減したが,ICPエッチングと追成長でチャネルを形成した縦型FETのデバイス特性評価はこれからのようであり,耐圧特性を含めて,今後の報告に期待したい.室岡拓也(東京工業大学)らはJFETの電流増加を目的に,チャネルの実効面積を広げた素子を作製した.ドレーン電流は設計面積値どおり増加し,mAレベルが取れるようになった.現時点ではゲートリークが大きく,オフ状態にできないとのことで,チャネルのドーピング濃度も含めて素子設計を見直したいということであった.

化学・バイオ分野で,高保健太(京都大学)らはポリグリセロール修飾蛍光ナノダイヤモンドを作製して腫瘍のイメージングへの応用を検討した.マウスを用いた実験により,修飾ナノダイヤモンドのがん組織への集積が示唆された.また,がん治療への応用を目的として,白金製剤であるシスプラチンを結合させた修飾ナノダイヤモンドの作製についても報告された.宮下健丈(東京理科大学)らは,ナノダイヤモンドを基材としてボロンドープナノダイヤモンド粒子(BDND)を作製し,水系電気二重層キャパシタへの応用を検討した.BDNDを用いたセルでは水系電解質で1.8Vのセル電圧を示し,活性炭を用いる場合よりも高エネルギー密度かつ高出力密度のデバイスを作製できることが示された.Prastika Krisma Jiwanti(慶應義塾大学)らは,銅ナノ粒子を電解析出させたダイヤモンド電極を用いた二酸化炭素の電解還元について報告した.最適条件では,電解液中の二酸化炭素をエタノールやアセトアルデヒドをはじめとするC2/C3化合物へと効率良く変換できることが示された.夏井敬介(慶應義塾大学)らは,ダイヤモンド電極を用いた電解還元による二酸化炭素からギ酸への高効率変換について報告した.電解質のカチオン種,電解液の流速,電流密度などを最適化し,高い電流効率でギ酸を生成できたことが示された.

機械・工具の分野では,梅本好日古(秋田大学)らが単結晶ダイヤモンドの集束イオンビーム加工で生成される変質層について深紫外ラマン分光法で調べ,Ar雰囲気中ではダイヤモンドピークが減少する一方,グラファイトピークが増加することを報告した.また,平田 敦(東京工業大学)らはカーボンオニオンをナノサイズの砥粒として適用した超精密研磨において,硬質パッドを用いることでサブナノメートルの到達面粗さと研磨速度向上の両立が図れたことを示した.

ナノカーボン関連では,増渕 覚(東京大学)らはグラフェン,h-BN,MoS2などの層状材料を積層する工程を自動化したシステムを構築した.基板上にCVD成長させた層状物質の位置情報の特定・記録を行い,選定した位置への別材料の積層を高速で行うことができるようになり,さまざまな種類の層状材料のヘテロ構造が大量に作成できるようになった.中島秀朗(産業技術総合研究所)らは,フレーク状のグラフェンシートにおいて,局所的な電気抵抗を交流電流によるジュール熱発生をイメージングすることにより測定できることを示した.一つながりの伝導パスにおいて電流密度の違いを反映したジュール熱発生の違いを見た.また,粒界においてその接合性の違いによって接触抵抗に差があることなどの知見が得られた.小内裕貴(日本工業大学)らは,従来よりも低温条件下でのカーボンナノチューブCVD成長の試みを発表した.シリコン基板上にコバルトシリサイドを作成し,さらにその上にコバルトをスパッタで積層して触媒とする.成長したカーボンナノチューブ構造はSEM像で見ることができる一方で,ラマン測定を行うとradial breading modeが特定できないものなどがあり,試料の品質は精査中である.

スピントロニクス関連では,春山盛善(群馬大学)らは,Osイオンを490MeVで注入して発生したダイヤモンド中欠陥が熱処理でN近傍に拡散することを利用したNVセンタの形成を行い,共焦点レーザ蛍光顕微鏡によりイオン注入軌道近傍にできたNVセンタの位置測定を行い,スピンエコーでT2を測定した.T2は1000℃までの熱処理では長くなるが1200℃の熱処理で逆に短くなり,その原因としてNVセンタ近傍に新たな欠陥が発生するとしてDEER測定によるESRでNVセンタ近傍の欠陥の発生を検証した.薗田隆弘(早稲田大学)らは,表面から数nm〜数十nmの深さに形成されたNVセンタのT2への表面終端の違いの影響を調べ,酸素終端と窒素終端の表面での比較を行った.NVセンタは15N低速イオン注入にて作成し,熱混酸処理による酸素終端構造と窒素ラジカル暴露処理による窒素終端構造を,XPSとNEXAFSにより評価した.スピンエコーでT2を測定し,表面窒素終端においても酸素終端同様の長いT2が実現でき,かつ安定に−1の荷電状態が実現できているとした.森下弘樹(京都大学)らは,集積化された量子情報デバイスの実現をにらみ,NVセンタのスピン状態検出を電気的に行うことを試み,EDENDOR法による14Nの核スピンコヒーレンスを発表した.2μm間隔の櫛型電極における532nmのレーザ照射下の光電流量がスピン共鳴による変化を起こすことで,電子・スピンエコー強度変化を介した核スピンコヒーレンスのEDENDOR測定を行った.この測定では核スピンのラビ振動の観察と,ラビ振動の周期がラジオ波のパワーの平方根に比例していることで,電気的に核スピンコヒーレンスの検出ができたことを結論付けている.

磯谷順一(筑波大学)らは,NVセンタを用いたNMR測定において,15N核スピンの長いスピン格子緩和時間を利用することで水素核スピンのケミカルシフトの検出に成功したと述べた.3Tという強い磁界を用いることと,深さが35nm程度と比較的深い位置にあるNVセンタ(T2が0.3msと比較的長い)を用いることがカギであった.深い位置のNVセンタでは,浅いものと比べて立体角が同じでも,広い表面領域でターゲット分子を検出することができる.低磁界でもケミカルシフトが見えるようになれば,実用化も見えてくるかもしれないと感じた.水野皓介(東京工業大学)らは,NVセンタNMR顕微鏡作製に向けた基礎特性を評価した.測定には64パルスのXY8シーケンスを組み込むことでT2を10μsまで長くした.ms程度で画像1フレームを取得でき,得られた磁気感度は66nT(/√−Hz・μm)と良好な値であった.産業技術総合研究所の石川豊史らは,デスクトップ型のNVセンタNMR装置のプロトタイプを作製した.外乱ノイズ除去など地道な装置改良を施すことにより,NVセンタのODMR測定ができるところまで来たとのことであった.プロトン検出までには,もう少し時間がかかるような印象をもった.

今回の特別企画として,特別セッションでは「製品化への最前線および課題」と題してダイヤモンド,DLC,ナノダイヤモンドなどのニューカーボン系材料の特性を利用して実用化を目指す研究開発および製品化に至った事例についての講演を集め,製品化への最新動向や課題を探った.DLC成膜に関して平塚傑工(ナノテック)より,パルスを用いる効果の詳細解説があった.角谷 均(住友電工)によるナノ多結晶による高硬度化は,ダイヤモンドのみならずc-BNにも展開され,今後,硬度計測にも貢献できそうな展開を見せている.さらに,藤森直治(イーディーピー)からCVD材料専業ベンチャーの歩みと製品紹介があった.梅本浩一(ダイセル)からは,ナノダイヤモンドの表面をポリグリセリン修飾することにより水分散を可能にし,種々の応用展開の可能性が示された.いずれも大変に明るい未来像が推定され,期待を抱かせるセッションとなった.また特別講演では,長年にわたりダイヤモンド半導体の高品質成長,電子線放出源および粒子線・放射線センサでリードされた大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻の伊藤利道教授により,レビュートークがなされた.20余年に及ぶ集大成で,懐かしい話,進行中の開発,そして残る課題などについてうかがうことができた.講演時間が短く残念であった.

企業展示に6社,広告掲載に2社のご協力をいただいた.企業展示は,実際の装置の持込みなど多彩であった.

シンポジウムの言葉の起源ともいえる懇親会は,2日目に,隣接の関学会館で開催された.関西学院大学の水木統一郎理工学部長のウェルカム挨拶を始めに,93名の参加者を得て,大盛況で開始された.特別に用意された旨酒(ワイン)10本が30分で品切れになり,会館で用意されたものをさらにどんどん開栓するという想定外の事態で,さらに盛り上がった.懇親会の途中にポスター賞の受賞が紹介された.最優秀賞は,濱木健成氏(住友電工)に贈られた.テーマは「ダイヤモンド関連材料の新強度評価技術による工具特性評価」である.優秀賞は今西祥一朗氏(早稲田大学),城 大輔氏((株)ダイセル),中野浩輔氏(慶應義塾大学),芦田貴紀氏(京都大学)の4氏に贈られた.最後は,次年度開催地である電気通信大学の一色秀夫教授のメッセージで閉幕した.

鹿田 真一(関西学院大学)

寺地 徳之(物質・材料研究機構)

近藤 剛史(東京理科大学)

宮本 良之(産業技術総合研究所)

平田  敦(東京工業大学)

 

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