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 第34回ダイヤモンドシンポジウム 

 

 2021年1月12日(火)〜14日(木)の3日間にわたり,第34回ダイヤモンドシンポジウムがMicrosoft Teamsを利用してオンライン開催された.当初は慶應義塾大学矢上キャンパスで昨年11月に開催される予定であったが,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,6月の学術委員会にて検討の結果,オンライン開催に変更することになった.初めての試みのため,準備期間をとる必要があったことから会期は1月に延期され,口頭発表のみのシンポジウムとした.講演件数は35件で,参加者は94名であった.なお,講演賞には21件の応募があった.
 初日午前のセッションではCVDを中心とした成長技術に関する講演が集められた.片宗優貴(九州工業大学)らからは,熱フィラメントを用いたCVD成長によるダイヤモンド中リン(P)ドーパントの高濃度化について,フィラメントからのタングステン原子濃度を上回るPドーピングが報告された.萩原大智ら(電気通信大学)は,マイクロ波プラズマCVD法を用いたSi基板上のダイヤモンド薄膜成長に関して,αパラメータやメタン濃度を変化させて成長させたダイヤモンドの結晶品質向上を報告した.内田晃弘(東京理科大学)らは,揮発性をもたないソースガスに含まれる元素を大量ドープする目的で,それら元素を含む溶液中のマイクロ波プラズマ法による高濃度Ni含有ダイヤモンドを,富永悠介(東京理科大学)らは,プラズマ下で基板を走査することによりドープされたダイヤモンドを大面積化する方法を報告した.牧野有都(ダイセル)らは,Siを含む高分子とともに爆轟法によるナノダイヤモンド合成をすることでナノダイヤモンドへのSiVセンタの含有を報告した.一方,関 裕平ら(神奈川大学)は,イオン注入によるボロンドーピングにより低補償率のダイヤモンド合成を報告した.
 初日午後の量子関連のセッションでは,早坂京祐(早稲田大学)らが表面偏在NVアンサンブル作製のために,透過型電子顕微鏡からの電子ビームにより高窒素ドープしたダイヤモンドへ空孔形成させることによるNV中心生成について報告した.さらに,真栄力(物質・材料研究機構)らから電子線照射のみで電位印加を用いないNVセンタの荷電状態制御について,E.D.Herbschleb(京都大学)らからNVセンタの電子スピンによる磁気センサにおいて感度とダイナミックレンジを両立するための交流磁界を用いた測定モードの提案についての報告がなされた.また,藤原正澄(大阪市立大学)らからはナノダイヤモンドODMRの温度特性を利用した生体細胞内の温度分布測定について,石綿整(東京工業大学)らからは細胞表面の脂質を模してダイヤモンド上に形成された層状脂質分子列の相転移のナノスケールNMRによる観測についての報告がなされた.このセッションの最後には河野慎ら(NTT)が,ダイヤモンド中に形成された鉄ナノ粒子の直径に依存した磁気異方性と保磁力について報告した.
 2日目の午前は電子デバイスに関する講演がなされた.笹間陽介(物質・材料研究機構)らは,電界効果トランジスタの移動度をhBN基板上の水素終端ダイヤモンドにて測定し,SiO2,Al2O3などの基板に比べて高いことを報告し,キャリヤ散乱の主な原因は荷電不純物と特定した.太田康介ら(早稲田大学)は,トレンチ構造をもったダイヤモンドMOSFET構造で従来を上回る大電流を報告し,窒素ドープ層よりもボロンドープ層とチャネル層との接触面積を増やしてより電流量を増大させるのが今後の目的とした.山口卓宏(北海道大学)らは,過酷な条件下でのデバイスを目的に,ダイヤモンドFETをAl2O3などでキャップしたデバイスを作製し,X線照射後のI-V特性変化においてX線照射が荷電不純物の飽和を起こし電流量の一時的増大が見られることを報告した.浅井風雅ら(早稲田大学)は,大電流FETを目的にゲート幅最大1mmのダイヤモンドMOSFETを作製し,高濃度Bドーピングにより電流量1.03A/mmを達成した.一方,周波数特性には低下が見られたが,今後チャネルをマルチ並列構造にすることで対応することを検討するとのことである.佐藤弘隆(早稲田大学)らは,海中通信デバイス応用のため,イオン溶液を介してチャネル層にゲート電界を印加するタイプのFETの動作特性を評価した.実際には絶縁性チューブ内にNaCl溶液を満たして実験を行い,周波数に対して信号伝達モードが異なるモデルで周波数特性を解析した.
 2日目の午後は化学・バイオ分野の発表が行われた.内山和樹(慶應義塾大学)らは,電気化学応用を目指したホウ素ドープSiC薄膜の作製について報告した.ホウ素濃度の異なるSiC薄膜を作製して比較した結果,高濃度(1022cm−3)にホウ素をドープしたSiCは,K3[Fe(CN)6]に対し可逆なサイクリックボルタモグラムを示し,良好な電気化学特性を示すことが確かめられた.ファウズィア カマリナ(東京電機大学)らは,中性子反射率測定による窒素含有DLC(NDLC)の構造評価を行い,その細胞親和性との関係を報告した.NDLCでは表面層の散乱長密度が大きくなっていることから,窒素が多く存在していることが示唆された.また,それに伴う酸素官能基形成が細胞増殖性に影響を与えていると考察した.加賀洋行(東京電機大学)らは,Cu含有DLC(Cu-DLC)を作製し,その抗菌性およびオートクレーブによる滅菌処理に対する耐久性について報告した.ターゲットや成膜条件を変えることによりCu濃度の異なるDLCを作製した.いずれのCu-DLCも良好な抗菌性を示し,滅菌処理に対して安定であることが示された.外間進悟(大阪大学)らは,蛍光性ナノダイヤモンドをポリドーパミンで被覆した粒子(FNDPDA)を作製し,その熱伝導計測への応用について報告した.FND-PDAへの光照射により発熱と温度計測を行うことができ,それを利用して熱伝導率を計測できることが示された.さらにこの方法により細胞内の熱伝導率を計測し,水とは異なる熱伝導率であることが示された.トゥリアナ ユニタ(慶應義塾大学)らは,ボロンドープダイヤモンド(BDD)電極を用いた硫化水素(H2S)の電気化学検出について報告した.pHの異なる水溶液中のH2SのBDD電極上でのサイクリックボルタンメトリーを測定し,その解析から反応機構を考察した.また,他の電極材料と比較してBDD電極においてH2Sの高感度な定量分析が可能であることが示された.
 3日目午前前半は機械・工具分野の講演で始まった.山城崇徳(東京工業大学)らは,軟質金属材料へのDLCコーティングの応用に関して,セグメント構造DLC膜を銅合金KMS9-HT上に作製した.往復しゅう動試験でのトライボロジー特性評価の結果,SUJ2上のDLC膜は一部に摩滅やはく離が見られたのに対し,銅合金基材上のDLC膜には摩滅やはく離は認められず,DLC膜の耐久性向上が確認された.川合功太郎(東京工業大学)らは,FCVA法によるta-C膜の三次元構造物への成膜応用を目的として,傾斜角85度,深さ30mmの凸型形状側面における成膜位置深さに対する印加電圧の膜特性に与える影響に関して報告した.印加電圧が−100から−400Vの範囲において,成膜深さ位置が膜質と膜厚へ与える影響は異なり,印加電圧が小さいほど膜質は均一に,大きいほど膜厚は均一になる傾向を明らかにした.長内公哉ら(弘前大学)からは,水素を含むDLCの熱的安定性向上策として,ポストアニールがN添加水素化DLC膜の諸特性に与える影響に関して報告された.真空下におけるアニール温度を変化させた結果,アニール温度の増加に伴うバンドギャップの減少や,アニール温度420℃以上における内部応力の減少傾向を確認し,内部応力と臨界荷重との関連の可能性を示唆した.堀川翔平(日本工業大学)らは,高圧合成Tb型ダイヤモンド基板上にチャンバフレーム法,熱フィラメント法で成膜したダイヤモンド膜の機械的特性に関して,高圧合成Ua型ダイヤモンドに比べ同等以上の機械的特性を有することを示した.特にチャンバフレーム法合成ダイヤモンドでは,高い圧縮応力が内在する箇所では周囲に比べて高い破壊応力を示したことから,不純物の減少や残留圧縮応力が膜内のクラック発生を抑制することにより機械的特性を向上させている可能性を示唆した.
 3日目午前後半は再び電子デバイス関連の講演であった.
 嶋岡毅紘(物質・材料研究機構)らは,同位体元素からのβ線を利用した発電素子の作製と性能評価を報告した.ダイヤモンド本来のギャップに近い開放電圧や高いフィリングファクタを達成する発電素子を,擬似縦型pn接合素子にて実現している.前田拓哉(沖縄工業高等専門学校)らは単結晶ダイヤモンドSAWデバイスをミニマムファブのRFエッチング装置を利用した工程で作製して評価した.ダイヤモンド基板上AlN高配向成膜条件などの最適化がなされ,今後はQ値の向上を課題とした.稲葉優文(九州大学)らは,パワーデバイス用途を狙い,発熱体と放熱部位を密着させるフレキシブルな放熱シートの作製について,ダイヤモンド微粒子をアクリル樹脂中に交流電界で整列させる方法を報告した.渡邊幸志(産業技術総合研究所)らは,既存の製造工程では製造の難しいダイヤモンドデバイスに向けてミニマルファブによるダイヤモンドショットキー障壁デバイス(SBD)作製と性能評価について報告した.ミニマルファブにおいて,機械的化学的研磨による表面部位欠陥除去が性能向上の重要な因子となっていることが考察された.
 最後のセッションではナノカーボン分野の4件の発表が行われた.沖川侑揮(産業技術総合研究所)らはCVD成長したグラフェンを高温高圧合成hBNに転写したファンデルワールス接合を作製し,グラフェンの電気伝導特性を評価した.抵抗値の温度依存性を解析することで,キャリヤ散乱に対する不純物,グラフェンLAフォノン,hBNフォノンの寄与を比較して,hBN膜厚が薄い場合は特に荷電不純物による散乱が支配的であるとの結果を報告した.山田貴壽(産業技術総合研究所)らは水酸化カリウム水溶液を用いて作製したカリウム添加多層グラフェンに対して,XRD,ラマン分光法,XPSにより評価を行い,カリウムが多層グラフェン層間に挿入された構造であることを示唆する結果を報告した.中島秀朗ら(産業技術総合研究所)は高空間分解SEMEDSによるナノ炭素材料の表面状態に関する元素組成分析を行った.CNTバンドル構造の表面官能基に関するイメージング評価を報告した.吉里樹人ら(東京工業大学)はダイナミックアニーリングプロセスによるhBNナノシート合成手法を報告した.グラフェンおよびhBNは二次元結晶およびファンデルワールス接合の研究分野で中心的なマテリアルであり,高品質結晶をさまざまな手法で作製する技術が展開されていることは非常に興味深く今後の発展が期待される.

宮本 良之(産業技術総合研究所)
近藤 剛史(東京理科大学)
矢野 雅大(三菱マテリアル)
町田 友樹(東京大学)
平田  敦(東京工業大学)

 

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