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 報  告

 第35回ダイヤモンドシンポジウム 

 

第35回ダイヤモンドシンポジウムが2021年11月17日(水)〜19日(金)の3日間にわたりZoomを利用してオンライン開催された.昨年度の企画案を継続して,慶應義塾大学矢上キャンパスで11月に開催する予定としていたが,新型コロナウイルス感染拡大の治まる様子がなく,6月の学術委員会にて検討の結果,開催期間は変更せずに前回と同じくオンライン開催とすることになった.前回は口頭発表のみであったが,オンライン会議ソフトのブレイクアウトルーム機能を利用したポスター発表も設定することとした.ブレイクアウトルーム機能の使いやすさから,前回利用したMicrosoftTeamsに換えてZoomを選択した.ただし,当日の講演状況が十分に想定できないことから,ポスター賞の設定は見送った.講演件数は口頭発表37件,ポスター発表19件であり,参加者は119名であった.なお,講演賞には23件(当日キャンセル1件を含む)の応募があった.

合成・キャラクタリゼーションに関連して,小倉政彦(産業技術総合研究所)らは,Tb基板上リンドープダイヤモンドへのイオン注入によるホウ素ドーピングにより作製したpn接合の電気特性を調べ,整流性を達成していることを発表した.注入エネルギー400keV,ドーズ量1015cm−2で1450℃のアニールの条件を試している.今後C-V特性の周波数依存性の解析を行う予定とのことである.小林和樹(金沢大学)らは基板の転位の引継ぎがないラテラル成長による高品質ダイヤモンド結晶技術を応用し,高濃度ホウ素ドープされたダイヤモンドのラテラル成長においても高結晶品質が保てることを発表した.ハイパワーマイクロプラズマ成長技術を用い,B/Cが1.5%までは平坦な表面であることを確認したが,B/Cが3%になるとエッチングモードになることを報告した.太田康介(早稲田大学)らは,ダイヤモンド基板の大口径化を目指したヘテロエピタキシャル基板として,Ptより安価なRu(111)基板を検証した.Ru(111)基板に先端放電型マイクロ波プラズマCVD法でダイヤモンドを2段階エピタキシャル成長させ,初期核形成から600nmクラスのサイズのダイヤモンドナノ粒子の成長を確認した.萩原大智(電通通信大学)らは,Si基板上へのホウ素ドープされたダイヤモンド孤立粒子の成長を試み,EDSにより高濃度ホウ素ドープを確認し,I-V特性の評価およびタングステンプローブによるポイントコンタクトでオーミック接合を確認した.今後は試料の単結晶化を狙うとのことである.吉川太朗((株)ダイセル)らは爆轟法にて生成したナノダイヤモンド粒子によるパターニング制御を発表した.ナノダイヤモンド粒子を水素終端し,Si基板にはレジストでパターニングされたOH修飾領域を形成することで,静電引力によりナノダイヤモンド粒子が基板上に配列する.ナノダイヤモンド粒子にはSiVセンタを含有させることもでき,ナノ粒子パターニングによる量子デバイス応用への発展が期待される.

さらに吉鷹直也(大阪大学)らは,大面積単結晶ダイヤモンドの高速研磨方法を発表した.ダイヤモンド基板と石英を接触させてプラズマ下で反対方向に回転させることによる摩擦研磨を行い,機械研磨よりも少ない欠陥濃度をRamanスペクトルから確認した.プラズマによる研磨への効果を解析し,プラズマ発生によるダイヤモンド表面におけるグラファイト化が研磨レート向上の要因とした.市川公善(物質・材料研究機構)らはダイヤモンドエピタキシャル成長中の転位の伝搬を評価し,結晶成長の結晶学的方位に依存して,転位が成長方向に平行に伝搬するかあるいは屈折して伝搬することを明らかにした.また,Ramanイメージングによる転位のトモグラフィーの作成を行い,転位は滑り転位であると同定した.大曲新矢(産業技術総合研究所)らは,多光子吸収フォトルミネセンスによるBand-A発光のイメージングを行った.チタン・サファイアフェムト秒レーザによる多光子吸収電子励起からの発光を用いたため高い空間分解能を達成し,レーザをスキャンしながら転位の三次元トモグラフィーを取ることができた.磯谷順一(筑波大学)らは,高圧高温処理にて窒素が取り込まれたダイヤモンド結晶のESRイメージングにより,成長セクタ(面方位は〈113〉,〈110〉など)に依存した窒素取込み量の1ppm以下の違いを評価した.また,得られた結果をUVイメージングの結果とも比較している.沖川侑揮(産業技術総合研究所)らは,ダイヤモンド素子への電子ドーピングを,カリウム添加したグラフェン層をダイヤモンド表面へ転写することで達成した.電子ドーピングの空間依存性を,ソース・ドレーン間に電圧を印加して発生する電子線吸収電流を電子線の照射位置ごとに測定することで評価した.その結果,ソース・ドレーン電界印加したことから,n形ドープには空間依存性がありネイティブなp形領域と共存していることがわかった.中島秀朗(産業技術総合研究所)らは,カーボンナノホーン(針状のカーボンナノチューブ)がウニのようになった状態の試料の表面化学修飾を行い,SEM-EDSによる評価で修飾された官能基の窒素の空間分布を特定した.空間分解能10nmを達成し,カーボンナノホーンの針状構造の突き出ている部分への官能基の修飾を確認した一方で,針状構造が集まった根本の領域では修飾が起きていないことも見いだした.

化学・バイオ分野の発表では,長谷部伸一(東京電機大学)らは,高周波プラズマCVD法による窒素含有DLC(N-DLC)薄膜の成膜とその電気化学特性について報告した.CH4とN2を原料として,総流量に対するN2の比率を変えたN-DLC薄膜をFTO基板上に成膜した.N-DLCは0.1MのNaOH中で2.1Vの電位窓を示し,また,N2流量が大きいサンプルにおいて酸素還元電流が減少することがわかった.XPSによる評価などから,sp2/sp3構造や表面官能基の違いにより,酸素還元活性が変化したものと考察した.ヌルルシャキラビンティジャメル(東京電機大学)らは,プラズマ発光スペクトルの機械学習による解析を用いた生体適合性N-DLCの成膜について報告した.24ウェルプレート上にさまざまな条件でN-DLC薄膜を成膜し,薄膜上での細胞増殖と成膜時の発光スペクトルとの相関を決定木学習により検討した.その結果,スペクトル中のH(β)およびNピークに着目することで,N-DLC膜の細胞増殖活性の分類が可能であることが示された.西川正浩((株)ダイセル)らは,ホウ素中性子捕捉療法の薬剤への応用を目的とした表面修飾ナノダイヤモンドの作製を報告した.爆轟法ナノダイヤモンド表面をポリグリセロールで修飾し,アミノ基に変換後,対応するアルデヒドの還元アミノ化によりフェニルボロン酸部位を導入した.最適条件で調製した薬剤を投与したマウスでは,腫瘍組織において高いホウ素濃度が維持され,中性子照射により腫瘍の成長を抑制できることが確かめられた.野本玲於奈(早稲田大学)らは,高温でのpH測定を可能とするダイヤモンド電解質溶液ゲートFET(SGFET)センサについて報告した.ステンレス鋼容器と酸素終端ダイヤモンドSGFETを組み合わせた場合,あるドレーン電流値におけるゲート電圧がpHに対して直線的に変化することから,pHセンサとして機能することが確かめられた.この組合せにより,80℃の高温でも幅広いpH範囲で動作可能な全固体ガラスレスpHセンサを構築できることが示された.米田真央(慶應義塾大学)らは,ダイヤモンド電極の眼内での薬物濃度測定への応用に関して報告した.眼内での緑内障点眼薬チモロールマレイン酸(TMA)の薬物濃度を針状のダイヤモンドマイクロ電極で測定することを目的として検討を行った.その結果,適切な前電解電位ステップを用いることにより,豚眼房水中に含まれるTMA濃度の検量線を得ることができた.この手法により,薬物濃度のリアルタイム計測への応用が期待される.

DLC関連では,ムハマドアズミ アリフ(東京電機大学)らはシリコン基板上のa-C:H膜とa-C膜を対象に,500kPaの圧力負荷における膜構造変化について,中性子反射率法を用いて評価した結果を報告した.水素終端が多く,膜内部に酸素を含有しないa-C:H膜の構造変化はわずか表面層のみであるが,水素終端が少なく,膜内部に酸素を含有するa-C膜では膜表面層から内部にかけて構造変化を確認している.関連して,高田歩(東京電機大学)らは,DLC膜の圧力下における構造変化に基板依存性があることを示唆した.中村優翔(東京電機大学)らは,医療機器への適用を想定し,SUS304基板上に厚さ0.5〜1.5μmのDLC膜を作製した.オートクレーブによる加熱滅菌試験,塩酸による浸漬試験を30サイクル繰り返して,膜厚によらず耐久性を確認している.一方,ウレタンゴムによる模擬生体摩擦試験を行い,膜が厚くなるにつれて摩擦係数が低下することを示した.神田匠(長岡技術科学大学)らは,C-N結合を多く含む窒化炭素膜は高硬度になると予想されていることから,プラズマCVDでDLC膜を合成したときに成膜速度の高いC6H6に着目し,原料導入量およびマイクロ波出力を変化させて窒素含有量,化学結合状態を調査した.高窒素含有率となる成膜条件を見いだし,膜表面より内部のほうが窒素含有率が高いことを示した.金野雄志(東京工業大学)らはDLC膜の作製にも用いられるアークプラズマガンを利用して,水素フリー浸炭層の形成を目的とした直イオン浸炭技術を検討している.投入電力および照射回数の増加とともに拡散する炭素の濃度も高くなること,表層付近で硬化していること,浸炭層は水素フリーであることを明らかにしている.

量子・電子デバイス関連では,木村晃介(群馬大学)らは多量子ビット化を目指した研究で,窒素を8個含有するフタロシアニンイオンをダイヤモンド中にイオン注入することで,発光輝点当たりに1〜4個のNVセンタが存在した発光点を形成した.さらなる数の増加とともに,今回得られた複数のNVセンタ間の双極子相互作用の評価に期待したい.上田真由(早稲田大学)らは,(111)ダイヤモンド基板上に高濃度に窒素と酸素を添加しながらダイヤモンド成長を行うことで,窒素濃度が5×1020cm−3と高濃度な薄膜の成長に成功した.真栄力(物質・材料研究機構)らはNVセンタの磁気センサ応用において,NVセンタの負電荷割合が置換窒素濃度と空孔濃度の割合で決まると述べた.また,その負電荷割合を窒素と点欠陥からなる平衡方程式で説明した.春山盛善(産業技術総合研究所)らは,ダイヤモンド表面近傍に形成されたNVセンタの負電荷安定性が,ダイヤモンド表面上にグラフェンを堆積させることで高まることを見いだした.講演ではこの現象を鏡像力効果で説明をしたが,NVセンタの深さ位置が不明確であることや,酸素終端n形ダイヤモンド表面が上方に4eVもバンド湾曲していることから,鏡像力効果の寄与が小さいのでは,との指摘があった.
 荒井慧悟ら(東京工業大学)は高感度センシングデバイス化におけるNVセンタの利点を議論した.NVセンタは高感度化や高空間分解能化に優れているだけではなく,高温や高圧などの極限環境下でもデバイス動作する点にも利点があることを述べた.石川豊史(産業技術総合研究所)らはNVセンタを用いた核磁気共鳴測定において,測定対象を固定化するための素子構造を提案した.ダイヤモンド基板表面に直径が数ミクロンのマイクロ流路を加工し,そこに窒素ドープ膜を成長することで流路につくった対象物を固定する穴の内輪にNVセンタを形成した.NMR信号を得るには,測定対象とNVセンタの距離を縮めることが今後の課題となりそうである.富岡寛凱(東京工業大学)らは,連続光励起CE(continuously excited:CE)-Ramsey測定法を用いることで,センサ感度向上を図った.さらにDC計測時における磁気感度へ結晶ひずみが与える影響を低減するために,本研究ではDouble Quantum法(S=−1と+1の2準位系を用いる方法)を採用して緩和時間T2*を長尺化し,高感度化を図った.藤原正規(京都大学)らは爆轟法で生成されたナノダイヤモンド中のSiVセンタに注目し,温度センシングでの感度評価を行った.温度と波長は0.01nm/Kの相関を示した.SiVセンタは構造対称性が高いために結晶ひずみの影響を受けにくいが,ナノダイヤモンドの低い結晶性のためか,SiVのZPL波長には1nm程度のばらつきがあるとのことであった.実際に温度測定を行う際には,分散したナノダイヤモンドの個々のSiV-ZPLを事前に知っておく必要があると思われる.

廖梅勇(物質・材料研究機構)らは,ダイヤモンドMEMS構造を用いた磁気センサ特性を示した.ダイヤモンドカンチレバー上に耐熱性に優れた磁性体薄膜を堆積することでセンサを作製した.10nT/Hzの高感度と500℃に昇温しても磁気感度がある点が本センサの特長であると述べた.高橋輝(早稲田大学)らは,水素終端FETのチャネル電流を高めるにはソースとドレーンのコンタクト抵抗の低減が不可欠と述べ,そのために高濃度ボロンドープ層を電極と水素終端pチャネル層の間に形成した.高濃度ボロンドープ層の抵抗率が64Ω/□と非常に小さく,ボロンドープ層挿入による抵抗値の増大はなかった.一方,コンタクト抵抗低減には効果があることから,高濃度ボロンドープ層の挿入がFETの高出力化につながると結論した.高濃度ボロンドープ層が{111}面上にのみ成長可能なため(001)結晶への適用がしにくいことと,金属マスクを用いた選択成長が必要なため金属マスク堆積による水素終端チャネル表面の劣化が課題と思われる.桝村匡史(北海道大学)らは水素終端FETのX線耐性を調べた.X線照射により生成されるオゾンが水素終端チャネルを損傷しないように,チャネル表面はアルミナで覆われた構造となっている.チャネル伝導度はX線照射量により徐々に低減しており,講演者はアルミナ中に固定電荷が新たに形成されたことによると推測した.直接的な証拠を調べることが今後の課題といえる.出口祐靖(北海道大学)らは,上記のX線耐性FETを多数作製し,相互コンダクタンスのばらつき評価を行った.現状では50%程度のばらつきが見られているが,このような評価を行い,素子作製法の見直すことで再現性が向上してくるものと感じた.太田康介(早稲田大学)らは,トレンチをもつ縦型MOSFETの特性評価をした.V型のゲート構造をもつ縦型水素終端FETを作製した.コンタクト抵抗を低減することでドレーン電流の増加を進め,最終的に553mA/mmを得た.張潤銘(早稲田大学)らは,水素終端FETにおけるキャリヤ密度の向上を目的に,電気陰性度の差による自発分極の値を理論計算で求めた.特異な面方位である{115}においては,自発分極に対してC-H密度が向上し,キャリヤ密度向上につながる可能性があることを示した.若林千幸(早稲田大学)らは,高濃度ボロンドープ層を用いたSQUIDを作製した.ステップ構造をもつSQUIDであり,線幅を15μmから5μmへと小さくすることで,Vppを向上させることに成功した.ただし,3μm以下に微細化していくと超伝導転移が3段階になり,エッチングダメージが新たな転位を引き起こしたのかもしれないと考察した.稲葉優文(九州大学)らは,NO2(1日平均値0.04〜0.06ppm)の検出を目的として,CNT/SnO2ハイブリッドセンサを作製した.ハイブリッド化によりセンサ感度が向上したが,経時変化も見られた.長期間のNO2評価に用いるには経時変化が少ないセンサの作製が必要であろう.

近藤 剛史(東京理科大学)
寺地 徳之(物質・材料研究機構)
宮本 良之(産業技術総合研究所)
平田  敦(東京工業大学)

 

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