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 報  告

 平成23年度第17回技術調査講演会 

 

平成23年2月6日(月),早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて,「DLC国際標準化の進展状況」と題して第17回の技術調査講演会が開催された.ニューダイヤモンドフォーラムで受託した調査事業の報告として例年行っているものであり,本調査活動の中心となってご活躍の長岡技術科学大学副学長の斎藤秀俊氏を招き,表題の状況についてご講演いただいた.この講演内容を以下に簡単に紹介する.

最初に国際標準化のもつ意味,国際組織の編成,国際標準発行までに必要な具体的な手順とその期間などについて,概略が述べられた.DLCの国際標準化が必要と考える背景については,「DLCは,カーボンを主成分とするアモルファスな硬質皮膜であり,低摩擦,耐摩耗性,耐食性,生体親和性などの優れた機械的特性,化学的特性を有するため,金型や切削工具ばかりでなく,自動車部品,電子部品,生活用品など幅広い産業分野において実用化が進んでいる.DLCは多種類の製造手法で作製可能であり,多様な組成や構造,物性を有するものが存在する.これがDLCの応用分野を広げている反面,利用する側が適切なDLCを選択することを困難にしている.さらにDLCの諸特性を簡便に評価できる手法が不明であることも,製造条件の最適化等の障害となっている」とのことであり,目的はDLCの技術を国際的に発展させること,といえる.

次に,国際標準化を提案するうえで必要なデータの収集に関し,平成22年度までに得られたラウンドロビンテスト結果の解説がなされた.これまでもいろいろな講演やワークショップにて,DLCの各種物性の測定結果に基づいた分類案の提案がなされてきたが,今回はより簡便に評価する手法による分類の提案について解説された.具体的にはエリプソメトリーによる屈折率と消衰係数の関係によるDLCのTYPE分類の可能性を示した.これまで,ERDAによる水素含有量の測定値とNEXAFSによるsp2/sp3比によってDLCの分類案が提案されてきたが,どちらの手法も測定が非常に困難であり,かつ専門性を有することから,より簡便な方法が望ましい.このエリプソメトリーによる測定は,成膜の現場での経験則に基づく評価により近いといえる.すなわち,現場では成膜された膜のツヤと透明感で膜の良し悪しが判断できることが多い,ということらしいが,ツヤは屈折率と相関があり,透明感は消衰係数で表されるためである.また,膜の硬さに関しては,ナノインデンテーション法による測定が想定されていたが,装置メーカーによる装置の性能差が懸念されていた.しかし,今回の評価の結果,メーカーによる差はほとんどない,という結論が得られたようである.

また,特許の出願状況についても言及があった.DLCに該当する出願は2002年から2004年頃に公開されたものが年間約180件と多く,現在はやや減少する傾向で年間100件程度となっている.現時点での特許出願において注意すべき点として,請求項におけるDLCに対する表記,とのことである.具体的には,DLCに該当する膜の表記としては,DLCを始めとして,硬質炭素膜,アモルファス炭素膜,硬質炭素系潤滑膜などさまざまなものがあり,国際標準における定義によっては,問題になる場合もあるかもしれない,とのことである.現段階では,例えば硬質炭素膜と記載し,俗称としてDLCという表記も入れておくのが良いのでは,とのことである.講演では,登録となった特許に関して,その査定となったポイントがどこにあるのか,についても解説がなされた.また,権利主張が困難な膜の製法特許についても国際標準化で守ることができる可能性がある,とのことである.

最後に,今後の国際標準化の計画について述べた.まず,平成23年度のNP提案(NewWorkItemProposal)では,硬さと摩耗試験に関する提案を行う,とのことである.そして,来年度にエリプソメトリーによる測定についてのNP提案を行い,sp2/sp3比に関する最終的な決定の後に,DLCの分類案をNP提案する計画とのことである.経産省が計画当初の想定した予定よりも2年ほど前倒しで進めることとなり,関係者の尽力の賜物と言える.とは言え,これからが標準化に向けた正念場であり,国際標準化機構内の委員会において,同意を取り付け,国際標準発行にこぎ着けることができるかどうかは,各国の専門家との国際的な協力体制が必要であり,今後の進め方次第である.懸念されていたドイツとの関係も,現時点では協力関係にあり,足並みがそろっているとのことである.

本講演会の参加者は25名と若干少なめではあったが,講演後には活発な質疑応答がなされ,国際標準化に対する関心の高さがうかがえた.国際標準化は二番手,三番手に参入の余地を与えるものであり,特許以外の観点では第一人者の優位性を下げることも懸念される.しかしながら,同時に技術レベルの底上げとDLCそのものの発展を促すものであり,今後の技術開発を優位に進めるうえでも日本主導の国際標準の制定が望まれる.ご講演いただいた斎藤先生にはDLCの国際標準化という目標を達成すべく,今後のますますのご活躍を祈念する次第である.

 

高岡 秀充(三菱マテリアル)

 

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