■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ 平成24年度第18回技術調査講演会 ■■■ |
平成25年1月31日(水),早稲田大学西早稲田キャンパスにおいて,「DLCの標準化に向けた活動」というテーマで第18回の技術調査講演会が開催された.ニューダイヤモンドフォーラムで受託した調査事業の報告として例年行っているものであり,本年度は長岡技術科学大学副学長・教授の斎藤秀俊氏による「工業のためのDLC標準化に向けての最終段階」,東京電機大学教授の平栗健二氏による「DLCの生体特性とバイオ応用」という題目でご講演いただいた.これらの講演内容を以下に簡単に紹介する. 最初の斎藤氏によるご講演では,DLCの国際標準化の策定にあたり,標準化と規格化の定義に始まり,その意義や狙い,他国との関係,これまでの提案の内容と今後の提案についてわかりやすく解説いただいた.国際標準機構では,国際標準化の意義は,商取引の障壁を取り払い,無用なコストを低減させ,消費者には安心で効率的で環境にやさしい製品を保証すること,によりもたらされる利益があることとしている.つまり,国際標準化によって,生産者や利用者にもたらされる利益とは何か,そのために標準化と規格化はどうあるべきかを考える必要がある.そこで具体的にどんな利益が想定できるのか,実際に起こっている事例をもとに説明した.事例ではDLCにさまざまな種類があるために,間違った適用とそれによる誤解の発生,分析にかかる高額な費用とそのためのコスト増,などの問題をあげた.国際標準化はこのような問題を解消し,無用なコストを低減して国内外のDLCの発展を促すものであるべきである.そこで,問題となるのが国際標準化で定義すべきDLCの分類方法である.DLCの種類を議論するうえで,sp2/sp3比と含有水素量がしばしば登場する.感覚的にわかりやすく,DLCの性能を説明するときにも理解しやすい.しかし,sp2/sp3比を求めるには放射光によるNEXAFSでの測定が必要であり,水素含有量にしても静電加速器を備えたERDAという装置が必要である.学術的にはいずれも重要な装置であるが,工業的に一般に導入できるようなものではなく,仮に導入したとしても取扱いなどは専門的であり,コストは膨大となる.このような測定値で標準化が行われると,その測定が可能な企業には有利であるが,その他大勢の企業においてはISO認証を得ることが困難になってしまう.そこで,簡便でかつ有効なDLCの分類手法として,光学的解析による方法が検討されている.種々のDLCをエリプソメータで解析し,屈折率nと消衰係数kで整理すると,sp2/sp3比‐含有水素量との相関が確認され,さらに未結合手密度といった測定困難であるが重要な因子をも反映している可能性がある.これらの点でn-k分類法は簡便でありながら,より有効な分類であると考えられる.現時点で,この分類法はTC107国際会議にNWIP(新規規格案)提案最中であり,議論は始まっていない.現状ではドイツは単独での提案を画策しており,sp2/sp3比,含有水素量による分類を基本にすると考えられ,今後の国際会議での審議をどのように進めるかが今後の課題となる. 次の平栗氏によるご講演では,バイオマテリアルとしてのDLC,その生体適合性とDLCの特性との関係,および国際標準化に向けた取組みについて解説いただいた.まず,生体材料としてのDLCは,潤滑特性を利用した人工関節,タンパク質が吸着しにくいことを利用したインプラント材や血液接触材,平滑で汚れが付きにくいことを利用した手術器具などに用いられている.具体的な性能として,抗血栓性と耐溶血性のデータなどが紹介され,DLCの生体材料としての有効性を改めて確認した.次に,生体適合性に関してDLCを規格化するうえで,細胞増殖という点で種々のDLCを評価した結果について解説した.DLC分類において,sp2(/sp2+sp3)比,水素含有量,密度の点で整理し,細胞増殖(細胞親和性)を評価したところ,密度とsp2比のグループ分けがある程度有効であることがわかった.しかし,細胞増殖という特性を考えると,膜の最表面での現象であるため,バルクの特性よりも表面の状態が重要と考えられる.そこで,膜の最表面の情報が得られるX線光電子分光による分析を行ったところ,C=O結合の強度と細胞増殖に強い相関が示された.今後もこのような評価を積み重ね,指標づくりをする予定である.また,用途に応じたDLCを得るためには,成膜装置や成膜条件を適正に選択することが重要となるが,適用すべきDLCがどれなのかがわからないために,応用が進みにくいという問題がある.この問題に対し,誰でも簡単に装置や条件などの選定が可能となるニューラルネットワークの概念を利用した,プログラムについて,その紹介がなされた. 本講演会当日にはASTEC2013でDLC標準化に関する別の講演会が開催されたこともあり,参加者は18名と少なめではあったが,講演後には活発で有意義な質疑応答がなされた.上述のようにDLCの国際標準化は生産者と利用者の双方に利益があるものとすべきであり,DLCの産業を特定国の特定企業の独占市場にさせない国際標準の制定が望まれる.ご講演いただいた斎藤先生,平栗先生には有効性の高いDLCの国際標準化という目標を達成すべく,今後のますますのご活躍を祈念する次第である. 高岡 秀充(三菱マテリアル) |