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 報  告

 平成25年度第19回技術調査講演会 

 

平成26年2月3日(月),東京大学駒場リサーチキャンパスにおいて,「DLCの標準化に向けた活動」というテーマで第19回技術調査講演会が開催された.ニューダイヤモンドフォーラムで受託した調査事業の報告として例年行っており,本年度はナノテック株式会社のシュピンドラー千恵子氏による「DLC国際標準化,いよいよ始動」,同社の平塚傑工氏による「DLC評価試験技術の国際標準化」,そして長岡技術科学大学副学長・教授の斎藤秀俊氏による「DLC国際標準事業の最新動向」という題目でご講演いただいた.これらの講演内容を以下に簡単に紹介する.

シュピンドラー氏のご講演ではDLC標準化事業における国際会議でのこれまでの提案,他国との討議内容について報告いただいた.日本は2012年2月のISO/TC107会議でDLCに関する第1号のNWIP(新規規格化提案)として摩擦摩耗試験法を提案した.この案は2012年12月の投票で承認され,日本はこれを足掛かりにDLC分類規格を提案する目論見であったが,ドイツは「NWIP案に賛成したのだから分類案はドイツに譲ってほしい」と交渉してきた.しかし,そこは譲れず,協議の末に両国それぞれが提案することとした.ドイツ案はsp2/sp3比,水素含有量,密度などの測定によって分類を定義するものだが,それらの測定は大掛かりで実用的といえない.対する日本案は,ドイツ案を尊重しつつ,より簡便な光学特性評価を利用したものとした.日独両国は2013年3月の済州島でのISO/TC107会議において,それぞれの分類案を発表した.そして現在,ISO中央事務局より「エキスパート間で協議して,一つのNPにまとめるか,二つのNPとして投票に持ち込むこと」との見解を受け,2014年1月にドイツのISO/TC国内委員と討議し,光学特性評価法は第3号NWIPとし,分類規格は3月初旬の国際会議で日本とドイツの2か国で共同提案することで合意したところである.今のところ,日本はDLCの国際標準化をほぼ思惑どおりに進めてきているが,日本の国際標準化に対する体制は立ち遅れているようである.標準化成功のためには国際ルールに則り,そのための活動体制,エキスパート体制,継続的体制を整えておく必要があるが,今の日本はいずれも十分でない.技術があっても交渉力や提案力がなければ標準化の成功は難しく,理想とするDLCの国際標準化を実現させるためにも,体制構築が必要とのことである.

平塚氏のご講演では,DLC評価試験技術を国際標準化という視点で説明いただいた.対象とした評価技術は,硬さ試験,摩擦摩耗試験,そして光学特性評価試験の三つである.まず,DLCの硬さ評価については,ナノインデンテーション法が適用されるが,硬さ試験機の機種差は見られず,測定値の信頼性が高いことが確認され,分類方法の補完的な測定として有効であることが示された.摩擦摩耗試験については,前述のとおり,ボールオンディスク法を利用したDLCの摩擦摩耗試験をNWIPとして発表し,2012年12月に正式に承認された.今後はDLCの摩擦摩耗の品質管理の規格として利用できるよう整備するとのことである.最後の光学特性評価試験については,DLCの光学特性が膜特性と相関があることを見いだし,ここ数年で開発されたものである.分光エリプソメトリー法による屈折率nと消衰係数kはDLCの成膜方法,皮膜硬さ,sp2/sp3比を反映したDLCの分類を可能にし,DLC膜の膜厚と膜質を同時に非破壊で品質管理できる方法として利用できることが示唆されている.今後はこれを第3号のNWIP提案として準備するとのことである.

最後の斎藤氏によるご講演では,DLCの国際標準化のあるべき姿の説明がなされた.ドイツのDLC分類は学術的なものであり,研究の立場では有用であるが,製造の現場では利用が困難であることが課題であり,さらに炭素原子の未結合手やクラスタサイズはDLCの特性に影響を与えるはずであるが,それが包含されないことも問題となる可能性がある.一方,日本が進めている光学特性を用いた分類方法は,ドイツ案に比べるとはるかに簡便に測定できるが,分光エリプソメトリーの解析には熟練が必要とされる.そのため,製造現場においては,より簡便な品質管理方法が望まれる可能性がある.実際,DLCの製造現場では担当者が製品を見れば,いつもどおりの膜ができているかどうかがわかる,といわれる.その根拠が科学的に証明されれば,目視による検査も可能になると考えられる.そこで,種々の膜の色度測定によってa*b*色度図を作成し,膜硬さとの関連を調べてみると相関性があることが示された.ただし,製法などが異なる膜同士で比べることは難しい可能性があり,さらに詳しい研究が必要な段階にある.そのような状況において,今後のDLCの発展のために我が国がとるべき対応として,NEXAFSやERDAといった高額で大掛かりな装置を備えた構造評価機構の設立,解析が困難な分光エリプソメトリー,XRRなどが利用可能な評価センターの設立,目視によって性能評価する方法の確立,などを目指す構想が紹介された.現在,この検討のためのDLC標準化特別委員会が設置され,メンバーは随時募集中とのことである.本講演会の参加者は29名で,講演後には有意義な質疑応答がなされた.上述のようにDLCの国際標準化は製造現場にとって簡便でかつ有用なものが望まれる.ご講演いただいたシュピンドラー氏,平塚氏そして斎藤氏には有効性の高いDLCの国際標準化という目標を達成すべく,今後のますますのご活躍を祈念する次第である.

高岡 秀充(宇宙航空研究開発機構)

 

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