■■■ 研究会だより ■■■ |
■■■ 平成18年度第2回研究会報告 ■■■
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平成18年9月28日,平成18年度ニューダイヤモンドフォーラム第2回研究会が,(独)産業技術総合研究所臨海・副都心センターにおいて,「ワイドバンドギャップ材料による紫外線直接発光および受光デバイス」というテーマで開催された.今回は,光デバイス応用に特化した内容で,特に発光に関しては窒化物に材料を絞っており,ニューダイヤモンドフォーラムとしては希少なテーマ設定であるように感じられたが,質疑時間を大幅に超過するほど活発な議論が行われた.また,参加者も多く,この分野への関心の高さが感じられた. 前半2件は,窒化物材料の発光に関する講演であった.まず,NTT物性科学基礎研究所の谷保芳考氏らから,「窒化アルミニウム・遠紫外発光ダイオード」と題して,窒化アルミニウム(AlN)の結晶成長および発光ダイオード作製に関する講演があった.有機金属気相成長(MOPVD)法によるAlN の成長において,1200 °C の成膜温度とガス導入方法の改善により,発光の効率に大きく影響を及ぼす貫通転位を従来より2桁以上低減することに成功し,さらに,残留酸素や炭素も低減できることを述べた.Si 添加によるn形不純物制御では,高濃度添加では自己補償により低抵抗化が難しく,添加量の制御が重要であることを説明した.一方,p 形不純物制御に関しては,800 °C 以上のアニールにより水素脱離を行い,不純物であるMg を電気的に活性化することで,p 形伝導が得られることを報告した.発光ダイオードに関しては,pin 接合構造により電流注入による210 nm の発光を観測していた.さらに,n 形AlN/ アンドープAlN/ 金属(MIS)構造デバイスとの発光強度を比較し,pin 構造に比べ,発光効率が1 桁程度低く,pin 構造のp 層のホール注入効率の重要性を説明した.しかし,ダイオードの電流- 電圧特性では,p 層の抵抗成分に起因した電流飽和が観測され,今後はp 層の改善に期待したい. 物質・材料研究機構の渡邊賢司氏は,「六方晶窒化ホウ素のバンド端近傍における発光特性―その奇妙な振舞いと可能性―」と題して,バンド端近傍の発光の特色を説明した.まず,215 nm のバンド端発光が1000°C 以上の高温で消光し始めることを見いだし,大きな束縛エネルギーを反映した自由励起子よる特徴として考察した.さらに,今回,興味深い特徴として,積層方向の秩序を崩すことで,バンド端発光の波長が215 nm から227 nm に変化することを報告した.これは,積層欠陥に捉えられた束縛励起子によるものと説明した.現状では,不純物制御やダイオードによる発光デバイス作製は難しいと思われるが,デバイス応用の一例として,ダイヤモンド電子源と組み合わせた電子線励例として,ダイヤモンド電子源と組み合わせた電子線励起発光デバイスの紹介があった. 後半3 件は,ダイヤモンドを用いた受光デバイス応用関連であった.大阪大学の伊藤利道氏から,「高品質CVD ダイヤモンドを用いて作製した高感度紫外線・軟X 線検出器」と題して,報告があった.アンドープホモエピタキシャル膜上にくし形電極を形成して作製したデバイスの紫外線やX 線照射時の信号電流の電圧依存性も確認し,照射時の電流が暗電流に比べ6 桁以上であった.ダイヤモンドを用いた高感度デバイスへの期待がうかがえた. 「高配向性ダイヤモンド薄膜を用いた高強度紫外線ランプの直接および連続測定」と題して,神戸製鋼所の林和志氏からの発表があった.高配向性ダイヤモンド薄膜にくし形Pt電極を形成して作製されたセンサを用いて紫外線の測定を行っていた.センサの出力は,照射量に対して直線的に増加し,センサの動作電圧に対する依存性も計測していた.キセノンエキシマランプを用いた真空紫外線測定では,700時間の連続測定後でも,センサの劣化や感度低下が認められなかったことや,熱にも安定であることを述べた.また,低圧水銀ランプを用いた場合には,従来測定が困難であった185 nm 線の出力を選択的に測定できることを明らかにした.紫外線を用いる製造プロセスのモニタリングとして,安定で正確な測定ができるセンサが産業界では望まれており,低コスト化などが実用化への課題のように思われる. 物質・材料研究機構の小出康夫氏は,「熱安定ダイヤモンド紫外線フォトダイオード」と題して,講演した.上記2講演とは異なり,ホウ素添加p 形ダイヤモンドを用いて,ショットキー型およびMSM型フォトダイオードを試作していた.熱的に安定なWC やHfN をショットキー電極に用い,光電流を評価し,デバイスの特性は,膜中のホウ素濃度に著しく依存し,特に応答性に関しては,1015 cm− 3 以下の濃度制御が必要であることを説明した.また,ショットキー型デバイス作製では,熱処理により受光感度が増加することを明らかにし,可視光ブラインド比は6 桁以上であった.一方,MSM型デバイスでは,早い応答時間であり,可視光ブラインド比は8 桁以上であることを報告した.MSM 型デバイスは,作製工程数も少なく,興味深い結果であった. 全体を通して,欠陥および不純物の低減など,材料の高品質化がデバイス特性および基礎特性の改善には必要不可欠であることを再確認させられた.また,光デバイスに限らずワイドバンドギャップ半導体デバイスは,多くの競合材料があり,材料の特徴を十二分に発揮することが実用化への大きな鍵であると思われる. 山田 貴壽(産業技術総合研究所) |