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 研究会だより

 平成19年度第2回研究会報告 

 

平成19年10月30日(火),東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「平成19年度第2回研究会」が開催された.テーマは「ダイヤモンド・cBN工具の発展への取組み」であった.気相合成・単結晶・焼結ダイヤモンドおよびcBNに加え,ダイヤモンドライクカーボンを利用した工具の開発過程や現状,そして将来展望について,工具メーカ側とユーザ側の両視点から概観された.

この研究会で工具が取り上げられたのは非常に久しぶりで,ほぼ10年ぶりであると思われる.気相合成ダイヤモンドの応用が早期になされた分野の一つが工具であり,すでにある規模の市場を得た産業となっているが,ここ10年以上は他分野の陰に回って地道な技術開発が行われてきた,といったところであろう.そして実際に,単結晶ダイヤモンド工具はその原料を天然から高圧合成ダイヤモンドに転換して高機能化され,最近はダイヤモンドコーティング工具がカーボンファイバ複合強化材の加工に利用されるなど,工具技術の着実な進展が目につくようになってきている.そこで,ダイヤモンド・cBN工具技術の発展への取組みについて,過去を振り返りながら現状を捉え未来を展望するため,この分野に携わるメーカ4社に話を伺うことにした.10月末の秋も深まる時期,4名の講師を含めて総計60名という多くの出席者を集めた標記研究会での講演内容を以下にまとめる.

前半の部はじめは,株式会社不二越の神田一隆氏より「気相合成ダイヤモンドの各種加工工具への応用」と題した講演がなされた.講師と著者は,最近,CVDダイヤモンドに関連した解説("NEWDIAMOND"No.87,p.46参照)を著す機会があり,講演をお願いした次第である.同社は1991年にCVDダイヤモンドコーティング工具の市販を開始した,この分野では最も長い歴史を有している企業の一つである.CVDダイヤモンド切削工具の対象材料をアルミニウム合金,銅合金,マグネシウム合金,そして各種複合材料と絞り,インサートチップ,ドリル,エンドミルへのダイヤモンド膜の適用について,豊富な切削実験結果を示しながら膜付着力・平滑性などの観点からダイヤモンドコーティング工具開発の経緯が説明された.そして,最近の取組みとして塑性加工用金型およびマイクロ加工用チップについて紹介がなされた.工具だけでなく各種機械を製造しているメーカだけあり,競合する他工具と関連させ,CVDダイヤモンド工具の性能・特徴を把握して適用分野を明確に線引きしていたことが印象的であった.

次に,株式会社アライドマテリアルの小畠一志氏が「最近のダイヤモンド切削工具」と題し,単結晶ダイヤモンドを材料とした切削工具を中心に講演を行った.単結晶ダイヤモンド切削工具の歴史は長いが,近年は測長システムや微動機構の超精密技術が進歩し,機械加工によるナノマイクロフォーミング加工(nm精度でのmm形状の加工)にとって必要不可欠になっている.切れ刃成形性の観点から高圧合成単結晶ダイヤモンドが現在のところ最適材料であること,切れ刃形状(輪郭度)・切れ刃稜の丸みとも50nm程度のナノメートルオーダで仕上げられることが示された.そして,ナノマイクロフォーミングツールとして,幅15mmのエンドミルやR30mmのボールエンドミル,切れ刃幅5mmの溝入れバイトの作製例に関して,それらを用いた加工事例とともに紹介がなされた.

休憩のあと後半部の最初の講演はプログラムの入換えに伴い,オーエスジー株式会社の羽生博之氏による「ダイヤモンド・cBN工具の新たな展開」であった.最近の新加工材料の出現,工具形状への新たな要求,加工機械の発展に伴い,従来にはなかった工具の製造技術が必要になっているとのことである.ダイヤモンド工具に関し,焼結体では難削複合材に対応する工具,単結晶では極小径ドリル・エンドミル,そしてCVD膜では微結晶コーティング工具の開発状況が述べられた.合わせて,耐溶着性を生かしたダイヤモンドライクカーボン工具や焼入れ鋼の高能率加工のできる小径cBNボールエンドミルの実用化について解説がなされた.

最後に,日産自動車株式会社の太田稔氏が「ダイヤモンド・cBN工具による自動車部品加工技術の展望」と題し,ダイヤモンド・cBN工具のユーザの立場から講演した.自動車部品製造はダイヤモンド・cBN工具の主要なアプリケーション分野であるが,そこでの使用状況,具体的な適用部品から,ダイヤモンド・cBN工具を用いた最新加工技術,そしてこれら工具への期待にわたって総括された.世界的に見ると自動車の普及拡大は今後も見込まれ,自動車と工具の生産高推移は同様の傾向にあることから,自動車産業はダイヤモンド・cBN工具の市場拡大が期待できる分野の一つとの判断が示された.そして,自動車業界では高能率加工を実現する加工技術の開発が着実に進められており,その中でダイヤモンド・cBN工具の役割が大きいことが指摘された.今後使用されるエンジン材料の変化予測で非鉄合金の割合が増えることから,ダイヤモンド・cBN工具の利用がさらに進むとされる一方で,電気・燃料電池自動車の普及動向によってはその分野への適応性を見越して準備しておくことも必要とのことであった.

講演の後,懇親会が開かれ,講演会出席者の半数以上,31名により講師4名を交えて意見交換や議論が続けられた.出席者の多さから,工具への関心は依然として高いこと,そして一見成熟しているような分野でも着実な進展がなされていることを再認識させられた有意義な研究会であった.最後に,講演を快諾いただいた講師の先生方に厚くお礼申し上げます.

平田 敦(東京工業大学)

 

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