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 研究会だより

 平成19年度第3回研究会報告 

 

 平成20年3月4日(火),東京大学駒場リサーチキャンパス総合研究実験棟(A棟)4F中セミナー室にて,「平成19年度第3回研究会」が開催された.今回のテーマは「バイオ・電子デバイス」である.気相合成ダイヤモンドを利用した電気化学センサ,バイオセンサ,電気化学電極について,基礎と応用,開発の現状,そして将来の展望について議論することを目的に企画されたものである.3月3日の桃の節句も過ぎ,日を追って暖かさを加える頃,4名の講師を含め37名の出席者を集めて開催された.

筆者にとってダイヤモンドのセンサ・バイオ応用は,化学的な機能と物理的な機能の両方の特性を利用する,というイメージである.バイオ分野の用語と大きな分子に不慣れということもあり,多少とっつきにくい印象がある.これを少しでも払拭できればという期待がある.バイオセンシングという競合技術も多い領域において,ダイヤモンドを材料として最先端の研究開発を進める講師の皆さんの熱い思いや苦労話などもお聞きできることを楽しみに,今回の研究会に参加した.

はじめに,慶應義塾大学の栄長泰明氏により,「ダイヤモンド電極による電気化学センサの展開」と題する講演がなされた.ホウ素を高濃度にドープした導電性ダイヤモンド薄膜の広い電位窓の特性を活かすことにより,高感度なセンサとして利用可能であること,従来のセンサと比較してノイズが低いなどの利点,さらに検討されている応用についての話があった.広い電位窓を活かした高感度検出の例として,水中の残留塩素の測定が議論された.これに続いて,ダイヤモンド電極に対して不活性な物質に感度をもたせるため,金属元素をイオン注入により添加し,触媒機能を付加する例の紹介があった.ここではイリジウムイオン添加によるヒ素,および銅イオン添加によるグルコースの測定が議論された.電位窓は広いが触媒機能がないというダイヤモンドの性質を,さまざまな元素の添加により補い,選択性を出すことが可能であるということが興味深い.さらに,f50ミクロンのタングステンワイヤにダイヤモンド成膜して作製した電極を使用し,脳内物質ドーパミンをin vivo検出した例が報告された(今号,pp.2-8参照).

次に「Diamond For Biosensor Application」と題し,産総研ダイヤモンド研究センターのChristoph E.Nebel氏に講演いただいた.バンド構造および電気特性に基づいたダイヤモンドのバイオセンサとしての特長と,バイオ分野での利用可能性,市場規模などの説明があった.それに続き,原子レベルの表面平坦性を有するCVD ホモエピタキシャルダイヤモンド表面をアミノ基,フェニル基で化学修飾することにより,電気化学的な機能を高め,バイオセンサとして機能させることが可能であることが議論された.続いて,ダイヤモンド表面に微細加工によってナノ構造を導入することにより,センサの表面積を増加し,さらにDNAのセンシングに特化した構造を作製することによって,DNAに対する感度を高めた例が紹介された.ダイヤモンドのナノ加工性をフルに利用することによって,ピコモル領域にまで感度を高めることに成功しており,ダイヤモンドならではのたいへんユニークな手法であると感じた.コンピュータグラフィックスを用いた,たいへん美しく印象的な講演であった.

休憩をはさんで研究会後半に移る.最初は「FundamentalAspects of Electron Transfer at Boron-Doped Diamond Electrodes」と題し,首都大学東京のDonald A.Tryk氏に講演いただいた.ホウ素ドープダイヤモンド電極は,微量分析や化学反応電極としての働きの基礎となる電子移行過程を探求するうえでもたいへん興味深い物質である.そして,反応系を簡単な等価回路で置き換えることにより,モデルシステムを評価することが可能であることが示された.さらに,ダイヤモンド電極表面の水素終端であるか酸素終端の違いが,電子移行過程に決定的な影響を及ぼすことについて,両終端における表面電気二重層形成をモデルとする仮説が提案された.複雑そうに見えるダイヤモンド電極表面での反応が,簡単な電気二重層でおおよそ理解できることがたいへん興味深かった.また具体的にドーパミンを例として,水素終端および酸素終端ダイヤモンド電極による生体分子のセンシングに対する差異が議論された.

最後に「フッ素ガス電解合成用ダイヤモンド電極」と題し,東洋炭素株式会社の初代善夫氏による講演があった.現在半導体部品製造工程ではCF4などのエッチングガスが使用されているが,地球温暖化係数がゼロであるF2ガスの使用が望まれている.このためオンサイトフッ素ガス供給装置が必要となっているが,フッ素ガス発生反応の電位が2.8Vと高いため,従来の金属電極に代わるダイヤモンド電極の開発と実用化を進めている.フッ素電解用電極基材としてカーボン基材を使用し,これにホウ素ドープダイヤモンドを熱フィラメントCVD法により被覆し,電極としての評価を行った.その結果,ホウ素ドープダイヤモンドは表面がいったんフッ素化されると安定化し,耐フッ素ガス性に優れていること,また炭素電極の10倍の高電流密度運転が可能であり,長期的にも電極性能の劣化がほとんどない,などの優れた性能が紹介された.ダイヤモンド被膜に多少のピンホールがあっても,電解反応により生成されるテフロンがピンホールを埋め,カーボン電極基板を保護するという,実用上たいへん好ましい特性があることが印象的であった.

以上のように,気相合成ダイヤモンドを利用したダイヤモンド電気化学センサ,バイオセンサ,電気化学電極について,基礎的な解説からまもなく実用となる開発の現状まで,たいへん有意義な議論ができた.講演後の懇親会も25名の参加を得て,講師を交えて活発なディスカッションが続いた.気相合成ダイヤモンドの比較的新しい応用分野であるが,皆さんの関心が高いことを感じた.最後に,今回講演をいただきました4名の先生方に厚くお礼申し上げます.

長谷川雅考(産業技術総合研究所 ナノチューブ応用研究センター)

 

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