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 研究会だより

 平成21年度第1回研究会報告 

 

平成21年11月5日(木),東京大学生産技術研究所にて「高圧合成したダイヤモンド関連物質の特性」と題して平成21年度第1回研究会が開催された.今回は,高圧合成法により得られるダイヤモンド関連物質の中でも,焼結助剤を含まない高強度の焼結体の合成とその特性,あるいはダイヤモンド超微粒子の合成についての講演がなされた.研究会のトピックスとして高圧法に特化した話題を取り上げるのは久しぶりと思われるが,今回の研究会では超硬質材料としての特性発現に着目したことから,提供された話題は切削工具などの機械加工分野への応用研究の紹介が中心となった.このため工具関連の研究会として前年度第1回「硬質材料の最新動向」に次ぐものとなり,4名の講師を含め計約35名の参加者を得た.以下にこの研究会での講演内容の概要を報告する.

はじめに,「高強度ダイヤモンドナノ粒子焼結体の合成とレーザー加工特性」と題して,愛媛大学地球深部ダイナミックス研究センターの大藤弘明氏より,高圧高温下でグラファイトからの直接変換により得られるナノ多結晶ダイヤモンド焼結体(NPD)の合成と,その諸特性についての講演がなされた.NPDの合成については,平成20年の第1回研究会「硬質材料の最新動向」において住友電工の角谷氏の「高強度ナノ多結晶ダイヤモンドの開発」で紹介されているが,今回はこれをパルスレーザにより加工(切断)する際の挙動を中心とした報告がなされた.3種類のパルスレーザ(近赤外ナノ秒,近紫外ナノ秒,フェムト秒)による切断面の加工表面粗さの差異などを,加工面近傍の高分解電子顕微鏡観察をもとにその切断メカニズム(レーザアブレーション)の考察から議論した.ダイヤモン単結晶のレーザ加工技術は近年活発に応用が進んでいるが,高強度の焼結体への適用を進めるうえでも,その詳細な理解は重要と考えられる.NPDは機械加工工具のみならず,超高圧発生のためのアンビル材としての応用も期待されている.今回の講演ではその開発の契機となった,愛媛大学地球物理学科で進められてきた川井型高圧合成装置による黒鉛からのダイヤモンドへの直接転換実験と,その合成装置の大型化による合成試料の大型化の取組みについても紹介された.

次に「ダイヤモンドをどこまで微細化できるか?」と題して,トーメイダイヤの細見 暁氏より高圧合成ダイヤモンドの粉砕によるダイヤモンド超微粒子の合成についての講演がなされた.ナノサイズの超微粒ダイヤモンドとしては旧ソ連で開発された高性能爆薬の不完全燃焼による,いわゆるデトネーションダイヤモンドが知られている.これは5〜10nmのダイヤモンド一次粒子が,乾燥状態では数百nmオーダに二次粒子として凝集している.これに対して,高圧合成ダイヤモンドを粉砕することにより,nmレベルの超微粒子が乾燥状態でも一次粒子として得られる.X線回折によると,両者では際だった差異が見られ,単結晶を粉砕して得られた超微粒子は初期の高結晶性を維持していることなどが明示された.粉砕の方法は鋼球による衝撃粉砕であり,その後の洗浄,精製,分球などの地道な作業により超微粒子の回収と評価がなされている.超微粒子の扱いでは表面状態の理解が重要であるが,酸処理工程による酸化状態が,水素雰囲気での加熱により水素終端状態となることが赤外分光法により評価された.この挙動は単結晶によるものと同様であるが,TEM観察では超微粒子表面には非晶質ないし層状の乱れた構造が観察されている.高圧合成の観点では,このような超微粒子の焼結性が興味深い.高強度の焼結体とするうえでは粒子表面の清浄化が重要であるが,粉砕法により得られた超微粒子は衝撃合成法によるものと異なり,一次粒子としての分散が可能で,表面の水素終端化処理が可能であるなど,その特性が興味深い.

研究会の後半部では,はじめに「PCDフライス工具による超精密・微細加工」と題して中部大学の鈴木浩文氏より,精密・微細な仕上げ加工を必要とする光学部品の成形金型の高効率加工を実現するための,高圧合成により得られる多結晶ダイヤモンド(PCD)マイクロフライス工具の開発についての講演がなされた.円柱状のPCD軸(φ2mm)のエッジに20個の切欠きを設けたマイクロフライスを試作し,マイクロガラスレンズ成形用の非球面金型,フレネルレンズ金型の切削加工の結果などが紹介された.従来の金型の表面仕上げではダイヤモンドホイールによる研削加工がなされてきたが,PCD製のフライス工具により0.1μmPV以下の形状精度と20nmRz以下の表面粗さなど,超硬製非球面金型において実用レベルの鏡面切削が可能であることが示された.今後,高圧合成法の技術開発が更に進めば,工具素材となるPCDやPCBN(多結晶cBN)の特性が改良されることにより,さらに高精度加工や工具寿命が向上することが期待されるなど,これら高品位焼結体の実用化研究に向けた今後の展開が楽しみである.

引き続き「ダイヤモンド及びcBN工具による鏡面加工を利用した逐次断面観察による三次元内部構造観察システム」と題して,理化学研究所の横田秀夫氏により,工業材料の内部構造を観察するための精密切削技術を導入した三次元内部構造顕微鏡システムについての講演がなされた.工業材料をはじめとする構造物の内部観察には高輝度放射光を用いたX線CTなどの手法が開発されているが,鉄鋼材料や重元素からなる材料はX線の吸収が大きいために,詳細な内部構造の評価は困難である.そこで,横田氏らは精密縦型フライスと光学顕微鏡を組み合わせた切削-観察システムを構築し,切削面を逐次観察した大量の画像データを統合・解析して,被削材内部の三次元構造(介在物,き裂の形態,分布など)の観察を可能にしている.この際,切削工程において重要なのが,画像解析に耐える良好な鏡面加工を行うことであり,被削材に応じて単結晶ダイヤモンド,PCDやPCBNを使い分けた精密切削プロセスの確立が重要な研究課題となっている.単結晶ダイヤモンドを用いた精密切削によるアルミニウム鋳造品の内部欠陥(鋳巣)の様子や,振動切削法によるPCDを用いた鉄鋼材料の内部観察結果な)NEW DIAMOND 50どが紹介された.さらに精密切削工程に関する最近の取組みとして,新たに開発された超微粒のバインダレスcBN焼結体による鉄系材料(ステンレス鋼など)の精密切削の結果(PV=50〜100nm)などが紹介された.切削による逐次観察なので非破壊検査というわけにはいかないが,構造材料の信頼性確保の観点からも重要な取組みであり,高品位の高強度焼結体開発の先端的な応用の場として興味深い対象と考えられる.

講演会の後には懇親会が開かれ,多くの講演会出席者が残られて意見交換や議論が続けられた.工具に着目した前回の研究会(平成20年度第1回研究会)と同様,実際の応用が進んでいる研究分野における最先端の取組みや現状の問題点,将来展望などについての有意義な討論がなされた.講師の任をご快諾いただいた諸先生方に厚くお礼を申し上げます.

谷口 尚(物質・材料研究機構)

 

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