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 研究会だより

 平成22年度第1回研究会報告 

 

平成22年度第1回研究会は,「ナノカーボン材料による電気化学・バイオセンシング応用の最新動向」と題して,平成22年6月15日(火)東京大学生産技術研究所にて参加者36名を得て開催された.前半は,導電性DLC薄膜・スパッタナノカーボン薄膜といった新規カーボン薄膜材料とその電気化学応用について,後半ではグラフェン・カーボンナノチューブ(CNT)のバイオセンシング応用などに関する講演をしていただいた.

はじめに,山口大学大学院理工学研究科の本多謙介氏に「不純物ドープDLC薄膜の開発と電気化学応用」と題してご講演いただいた.不純物ドープDLC薄膜は,含窒素炭化水素を原料として,プラズマCVD法で作製することができ,シリコンウェーハ基板上に,数nm程度のラフネスの平滑な薄膜として得ることができる.成膜条件により半導体から半金属まで導電性を制御できることが説明された.窒素ドープ量の多いDLC電極は,ダイヤモンド電極(3.5V)を超える電位窓(4.6V)を有することが示され,非常に貴な酸化還元電位をもつ反応種の電気化学分析や高起電圧レドックスフロー電池などへの応用が期待される.さらには,DLC電極の表面改質による電気化学特性の変化やナノ構造化DLCの作製と電気化学スイッチングイオン透過フィルタへの応用などについて解説された.DLC電極は,ダイヤモンド電極に類似した優れた電極特性を示すことに加えて,低温・短時間であらゆる基板材料に大面積で成膜することができる.したがって,不純物ドープDLC薄膜は,高機能電気化学デバイスに応用可能な実用的な材料として有用であると考えられる.

引き続き,「生体分子の電気化学センシングへ向けたスパッタナノカーボン薄膜の開発」と題して,産業技術総合研究所の丹羽修氏にご講演いただいた.スパッタナノカーボン薄膜は,カーボンターゲットを用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ法により低温プロセスにてさまざまな基板上に作製され,ナノオーダ以下の粗さの平滑な膜として得られる.ECRカーボン膜は,その平坦性と安定性から,電気化学活性種の検出における分子の吸着が少なく,安定な測定が可能であることが示された.ECRカーボン膜電極を利用した生体分子の電気化学検出の例として,オリゴヌクレオチドの直接検出,DNAのメチル化修飾の非標識検出,酸化ストレスマーカーである8-ヒドロキシデオキシグアニン(8-OHdG)の高感度検出などが紹介され,従来材料に対する優位性が示された.また,ナノ構造化ECRカーボン電極における酵素からの直接電子移動,金属ナノ微粒子分散ECRカーボン電極の高い電極触媒活性など他材料との効果的な複合化の例が説明された.新規材料であるECRカーボン電極の利用は,その優れた特性から電気化学バイオセンサという手法自体の守備範囲の拡大に寄与すると考えられる.

休憩をはさんで,大阪大学産業科学研究所の松本和彦氏に「カーボンナノチューブとグラフェンを用いたバイオセンサー」と題してご講演いただいた.講演の前半では,グラフェンを用いた初のバイオセンサの例が紹介された.電解質溶液を介して参照電極をトップゲートとし,グラフェンをチャネル,電気二重層を絶縁膜とするFET型のグラフェンセンサでは,コンダクタンス変化から溶液のpHを測定できることが示された.さらに,タンパク質であるウシ血清アルブミン(BSA)のグラフェンへの吸着によりコンダクタンス変化が誘起されるため,これを利用して約100pMまで測定可能であることが説明された.後半では,CNTをチャネルとするFETによるバイオセンサに関して,確率共鳴素子による信号増幅について解説された.確率共鳴による相関関数増大のためには,多数本のCNTを方向制御して成長させることによる多チャネル素子の作製が必要である.酸化シリコン基板に人工ステップを設けることで成長方向制御が可能であることが示されたが,その際,ステップの凹部ではなく,凸部の稜に沿って成長するという興味深い結果が紹介された.

最後に,東京理科大学理学部の矢島博文氏に,「CNTの導電性複合材料・電子デバイス開発への応用」と題してご講演いただいた.単層CNT(SWNT)のアルコールCVD合成中に自由電子レーザを照射することによる半導体SWNTの選択合成,および波長可変光パラメトリック発振パルスレーザを用いた金属SWNTの選択分離が可能であることが紹介された.また,CNTの分散技術についての解説では,生体高分子であるカルボキシメチルセルロース(CMC)がCNTを孤立分散させることのできる優れた分散剤として機能することが紹介された.CMCにより分散させたCNTを用いて単電子トランジスタ(SET)を作製し,40K以下で動作することが確認された.二層CNT(DWNT)を用いて作製したFETでは,BSA添加によるドレーン電流の変化が確認され,バイオセンサへの応用が可能であることが示された.さらに,CNTのエラストマーへの複合化技術に関して解説があった.CNTの合成や分散技術といった基礎研究から,電子デバイス・複合材料・バイオセンサといった応用まで幅広い内容を紹介していただき,CNTに関する最近の技術を俯瞰することができた.

講演会では質疑応答も活発になされて大いに盛会となったが,その後の懇親会も24名の参加者を得て,意見交換や議論が続けられた.最後に,講演をご快諾いただいた講師の先生方に厚く御礼申し上げます.

近藤剛史(東京理科大学)

 

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