■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ 平成22年度第3回研究会 ■■■ |
平成23年1月28日(金),東京工業大学大岡山キャンパスにて,「ダイヤモンドの摩擦・摩耗現象とその応用」と題した平成22年度第3回研究会が開催された.この研究会は,近年再び注目を浴びているダイヤモンド工具について,ダイヤモンドの特性と製品開発の最近の状況などを紹介することにより,今後のますますの発展を期待して企画,開催されたものである.近年,ダイヤモンドはCFRPの需要の伸びとともに,その加工用工具として注目が高まる一方,プレス用金型などの新しい分野への広がりも期待されている.それらを背景に,4名の講師を招き,ダイヤモンド工具に関わる基礎的な挙動から,最先端の研究や開発の動向について講演いただいた.40名を超える多くの参加者の中,活発な質疑応答もなされ,ダイヤモンド工具に対する期待の大きさを改めて感じた.この研究会での講演内容を以下に簡単に紹介する. 最初に,オーエスジー株式会社の羽生博之氏により,「CFRPの切削加工用ダイヤモンド被覆工具について」と題した講演がなされた.同社は航空機で使用割合が伸びているCFRPの加工用工具として,ドリルやルータなどの開発,生産を行っており,世界的にも大きなシェアを有する.講演では,CFRPの加工について,動画も交えながら加工時の問題点や対策についての説明がなされた.CFRPの切削加工においては,例えばドリル加工では穴の出口でデラミネーションと呼ばれるはく離の発生が問題となるが,スラスト成分を分散させることでこの抑制が可能となることを示した.工具形状の選定では,これがポイントであり,ドリルに限らずトリミング用ルータでも刃型形状の工夫がなされているとのことである.それらの商品群の紹介を含めた解説がなされた. 次に,住友電工ハードメタル株式会社の小林豊氏により,「焼結ダイヤモンド切削工具について」という題目で講演がなされた.同社は,高圧焼結技術において世界トップの技術開発力を有し,数々の優れた製品を世に送り出している.講演では,焼結ダイヤモンドの性能について,ダイヤモンド粒径および金属結合相量との関係を解説した.同社の製品である「DA1000」は微粒ダイヤモンドと金属結合相で構成されるが,耐摩耗性と抗折強度のバランスに優れ,アルミニウム合金の切削などで優れた性能を示すことを示した.さらに最近ではバインダレスのダイヤモンド焼結体の開発に取り組んでおり,グラファイトからの直接変換により焼結している,とのことである.焼結は15GPa以上の高圧で2000°Cという,通常のダイヤモンド焼結体の焼結条件(例えば,5GPaで1300°C)よりも高い圧力と温度の条件が必要で,平均50nmという非常に微細なダイヤモンド粒子で構成される.超硬合金やアルミニウム合金の切削でも従来品よりも優位な結果が得られているとのことであり,今後の応用先の展開が期待できるものであった. 後半の最初は,豊橋技術科学大学の上村正雄氏により,「ダイヤモンドバイトの摩耗に対する金属の触媒作用」と題した講演が行われた.ダイヤモンドの摩耗現象においては,金属の触媒作用が大きく影響すると考えられている.講演では,過去に報告されているダイヤモンドの摩耗現象を整理し,それを化学的なアプローチにより考察した結果を示した.ダイヤモンドの黒鉛化には酸素の挙動が関与しており,金属酸化物から脱離した酸素ラジカルがダイヤモンド表面の水素と反応することで,ダイヤモンド表面から水素を脱離させ,これが黒鉛化のきっかけとなることを示した.このことから,金属の触媒作用とは,金属酸化物からの酸素ラジカルの発生のしやすさであり,さらに摩耗現象においては,鉄やニッケルの場合には水素が脱離したダイヤモンド表面からの炭素の金属側への拡散によるものと結論づけた. 最後の講演は,湘南工科大学の片岡征二氏により,「ダイヤモンド膜のドライプレス金型への適用」と題して行われた.金属のプレス加工では,現状は潤滑油を大量に使用しており,地球環境を考えた場合には大きな問題となっており,プレスのドライ化は大きなテーマの一つである.講演では,ダイヤモンド膜を利用したプレスのドライ化について解説された.ダイヤモンドは摩擦係数の小さい材料であり,表面を平滑にすればDLC膜よりも摩擦係数が低く,ドライ化の大きな可能性を示唆するものである,とのことである.実際にステンレス鋼のドライ深絞り加工の試験結果では,潤滑油ありの現状のプレス方法に比べても遜色のないものであった.一昔前には夢物語であったドライプレスが,現実のものとなりつつあり,今後の発展が期待できるという内容であった. 講演の後には懇親会が開かれ,約20名強の出席者によりさらに意見交換や情報交換がなされた.工具関係の研究会には毎回多くの参加者があり,産業界のみならず大学などの研究機関からも注目が高いことがうかがえる.今回の講演もいずれも興味深いものであり,講師の先生方には深く感謝する次第である.
高岡 秀充(三菱マテリアル) |