■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ 平成23年度第3回研究会 ■■■ |
平成24年1月30日(月)13:30より,東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「平成23年度第3回研究会」が開催された.テーマは「切削工具におけるダイヤモンド・cBNへの期待」であり,切削工具分野におけるダイヤモンドおよびcBNの役割,製品開発の現状,今後期待される適用例などが話題の中心となった.講師を含めて総計46名の参加者があった. ダイヤモンドおよびcBNが工具材料として重要な地位を占めているのは言をまたず,近々では平成19年度第2回研究会でもテーマとして取り上げられた.そこで,今回は工具のなかでも切削工具に焦点を当て,ダイヤモンドやcBNのどのような特性や機能が切削工具として期待されているのかに関連して,現状の使用例,製品開発の事例を概観し,効果的な適用条件,今後の展開などを探るためにこの研究会が企画された.この分野に開発者,研究者として携わる4名の講師により話題提供がなされた研究会の様子を以下に簡単にまとめる. 前半部の最初の講演は,株式会社アライドマテリアルダイヤ営業統括部の小畠一志氏による「ダイヤモンド切削工具による精密加工の新展開」であった.オプトエレクトロニクス関連製品の発展に伴い,光学部品表面形状の微細化,複雑化が進み,光学部品用金型加工の分野では「超微細加工」,「自由曲線,総型形状の一発加工」,「高硬度・硬脆材料の切削加工」の三つの要求がある.そして,これらに対応するために開発された刃幅900nmの矩形切れ刃や楕円・放物線・凸R凹Rなどのナノプロファイル切れ刃を有するダイヤモンドバイト,およびナノ多結晶ダイヤモンド超精密切削バイトが加工事例とともに紹介された.今後は開発技術をエンドミルなどの切削工具へも適用して,微細三次元形状加工におけるダイヤモンド切削工具の新たな価値や用途を生み出せる可能性があるとした. 次に,川崎重工株式会社航空宇宙カンパニー生産本部の田村純一氏が「航空機材料における切削加工の現状」と題し,航空機構造部材の特徴と切削加工技術の概要について講演を行った.機体構造に対しては軽量化・耐腐食性向上・高強度化のための設計・生産技術開発が強く求められており,CFRPの適用が進んでいる.このCFRPのトリム加工にはダイヤモンドコーティングエンドミルが,孔あけ加工にはPCDとダイヤモンドコーティングのドリルが使用され,切削抵抗や過熱,加工コストの低減に役立つようになった現状が示された.しかし,組立作業時に存在するCFRPとチタン合金の通し孔あけ加工では,CFRPとチタン合金の両方に適するコーティング工具がないため,寿命が短くても超硬合金ノンコート工具を使用せざるを得ず,高コストな状態が続いていることから新たな技術開発の必要性が指摘された. 休憩をはさんでの後半部はダイヤモンドからcBNへ話題を変え,まず芝浦工業大学デザイン工学部の安齋正博教授による「cBN工具の金型への応用」と題する講演がなされた.現在求められている迅速な金型づくりを切削で実現する場合,特に60HRC以上の焼入れ鋼が被削材となると超硬工具では限界があり,cBN工具を採用する必要があることが指摘された.しかし,cBN工具が鋼材加工に幅広く使用されていない主な理由として,チッピングが発生しやすいとされていることを取り上げた.これに対して,具体的な研究成果をもとに,切削速度を中心に最適な加工条件を選択することによりチッピングなどの欠損が低減でき,耐摩耗性の向上がなされるとし,cBN工具を使用するうえで加工条件設定の重要性が強調された.そして,切込みが大きくない仕上げ条件下での高硬度鋼材のボールエンドミル加工では,今後のcBN工具の実用化が大いに期待できるとの考えが示された. 最後に,京セラ株式会社機械工具技術開発部の松澤正人氏が「切削工具用cBN材料とその特性について」と題し,高硬度材料の加工に対して採用の進むハードターニングにおいて中心的な役割を担う工具材料であるcBN焼結体の基本特性と切削工具への展開について講演を行った.まず,cBN焼結体の損傷に関して,その形態としてcBN粒子そのものの摩耗ではなく脱粒や結合層の摩耗が主要因であることに着目する必要があること,セラミックコーティングの適用による耐酸化性の向上の有効性などが指摘された.そして,焼入れ鋼や鉄系焼結合金のような高硬度材の高速加工や断続切削への要求に対応するために開発された「HybridGrain構造」および「CellFiber構造」の2種類のcBN工具材料の紹介がなされ,生産効率の向上,省エネルギー・資源に貢献することへの期待が示された. 講演後の懇親会では,講演会出席者の半数である23名により講師を交えての意見交換や談話がなされた.毎回のことであるが,テーマが機械応用関連の研究会には多数の出席者があり,改めてこの分野への関心の高さがうかがえた.最後に,講演をいただきました講師の皆様に厚くお礼申し上げます.
平田 敦(東京工業大学) |