■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ 平成24年度第3回研究会 ■■■ |
平成24年度第3回研究会は,「ダイヤモンド・ナノ炭素の環境・エネルギー応用」と題して,平成25年1月24日(木)東京大学生産技術研究所にて参加者28名を得て開催された.前半は,ダイヤモンド電極の環境浄化への応用について,後半ではナノ炭素材料の電気化学エネルギーデバイス応用に関する講演をしていただいた. 最初に,宇都宮大学大学院工学研究科教授の吉原佐知雄氏に「ダイヤモンド電極の基礎と応用」と題してご講演いただいた.はじめに導電性ボロンドープダイヤモンド電極の作製法や基礎電気化学特性についての解説をしていただき,その後,さまざまな電気化学応用について,研究成果の紹介をしていただいた.研究テーマは多岐にわたり,3,6-ジヒドロキシフェナントレン,アドレナリン,ナプロキセンなどのダイヤモンド電極を用いた電気化学分析,ダイヤモンド水晶振動子マイクロバランス電極の作製,ダイヤモンド電極を用いたオゾン水製造システム,ボロンドープp形ダイヤモンド電極における「ダイヤモンド写真現象」などについて紹介していただいた.また,環境浄化のテーマとして,内分泌かく乱物質である17.-エストラジオールの電解酸化分解に関する研究について解説をしていただいた.ダイヤモンド電極を用いた有機物分解では,電極上での直接電気分解のほか,高電位印加により生じる活性種(ヒドロキシラジカル,ペルオキソ二硫酸イオンなど)を介した間接的な酸化反応によるアシストがあり,白金電極やグラッシーカーボン電極よりも効率的な電解酸化分解処理をすることができることが説明された. 引き続き,「導電性ダイヤモンド電極を用いた環境浄化」と題して,神奈川科学技術アカデミーの落合剛氏にご講演いただいた.ダイヤモンド電極による電気分解あるいはそれに光触媒をハイブリッドさせたシステムを用いた難分解物質の電解処理,河川水の電解殺菌処理について紹介していただいた.難分解性物質である有機フッ化物の一つであるパーフルオロオクタン酸(PFOA)は,ダイヤモンド電極により効果的に電気分解処理をすることができた.そのメカニズムとして,フッ化炭素鎖中の炭素が1個ずつ二酸化炭素として脱離していくモデルが示され,興味深かった.ダイヤモンド電極を用いた電解ユニットと光触媒ユニットを組み合わせたハイブリッド水処理システムでは,河川水質で全国ワースト3にあげられている鶴見川の河川水を飲用可能なレベルまで大腸菌を殺菌できることが示された.最後に,医療への応用として,直径0.5mmのダイヤモンドマイクロ電極にイオン交換膜リボンと対極である白金線を巻き付けた小型のオゾン生成用電極の作製について紹介していただいた.このような局所的に電解オゾンを生成できる装置ができれば,歯科医療における根管治療に役立てることができると説明があった. 休憩をはさんで,筑波大学数理物質系教授の中村潤児氏に「ナノ炭素の表面化学と触媒応用」と題してご講演いただいた.固体高分子形燃料電池のカソード触媒として,各種ナノカーボン材料に白金を分散させ,触媒活性を評価した結果,カーボンナノチューブやグラフェン上の白金の活性が高いことがわかり,担体炭素が白金の酸素還元活性に積極的に関与していることが示唆された.これを確かめるために,高配向性熱分解グラファイト(HOPG)上に白金を担持したモデル触媒を作製し,その電子状態の解析を行った.走査トンネル分光(STS)などの手法を用いた研究の結果,Ptのd軌道とCの.軌道との相互作用による化学結合が形成され,PtからCへの電子移動が起きていることがわかったと説明があった.また,窒素ドープ炭素に関しても,STSなどによる検討の結果,ピリジン型窒素は塩基点,グラファイト型窒素が酸点となっていることが示された.安価なカーボンをうまく利用すれば貴金属である白金の触媒活性を高めることができるという考え方が非常に興味深かった. 最後に,日本ケミコン株式会社技術本部基礎研究センターの武田積洋氏に,「チタン酸リチウム/カーボン系ナノコンポジットを電極材料に用いたナノハイブリッドキャパシタ」と題して御講演いただいた.まずはじめに,二次電池などとの比較しながら,電気二重層キャパシタ(EDLC)の構造,原理や特徴について解説があった.EDLCにも用途に応じて,さまざまな性能,特徴のものが製造されているとの説明があった.その後,正極に活性炭,負極にチタン酸リチウム(LTO)担持カーボンを用いたハイブリッドキャパシタについて解説していただいた.LTOをナノ粒子化して,担体カーボンとしてカーボンナノファイバを用いることにより,良好なイオンパスと電子パスが構築され,高性能なナノハイブリッドキャパシタ(NHC)を作製できたとのことであった.NHCは通常のEDLCと同等の出力性能を維持しつつ,エネルギー密度を3倍に高めることができており,自動車分野をはじめとして新しい蓄電デバイスとして活用できるとのことであった. 講演会では質疑応答も活発になされて大いに盛会となったが,その後の懇親会も17名の参加者を得て,意見交換や議論が続けられた.最後に,講演をご快諾いただいた講師の先生方に厚く御礼申し上げます.
近藤 剛史(東京理科大学) |