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 平成25年度第1回研究会 

 

平成25年6月27日(木)13:30より,東京大学駒場リサーチキャンパス(生産技術研究所)にて「平成25年度第1回研究会」が開かれた.テーマは「次世代パワーデバイス開発の現状と展望」であり,ワイドギャップ半導体であるダイヤモンド,SiC,GaN系パワーデバイスの開発と現状,今後に期待される適応分野での研究動向が話題の中心とされた.ダイヤモンドの講演は国研より2件,SiCおよびGaNの講演は企業から1件ずつの組合せで行われ,講師4名を含めて総勢46名の参加者があった.以下に研究会での講演内容を簡単にまとめる.

まず前半部ではダイヤモンドデバイスに関して,物質・材料研究機構の寺地徳之氏から「ダイヤモンド高耐圧ダイオードの現状と課題」という題目にて講演が行われた.寺地氏らは,ダイヤモンドSBD(Schottky Barrier Diode)の高耐圧化を目指し,ホモエピタキシャルダイヤモンドの成長装置開発やSBDの逆方向特性のリーク電流の起源を解明する研究を中心として行っている.講演では,まずショットキー接合や電流輸送特性理論など,当該研究に不可欠な半導体基礎理論を聴衆にわかりやすく説明をした.続いて,現状のダイヤモンドSBDの研究課題を以下の四つ,(1)高逆電圧印加時に逆方向電流が顕在化すること,(2)ダイヤモンド本来の値よりも低い電界で絶縁破壊電界が観測されること,(3)ショットキー障壁高さや理想因子に代表される界面特性パラメータに関し,その制御性と熱的耐性が不十分であること,(4)オン抵抗が大きいことに大別し,これらの原因起源は複雑多岐にわたっていることを,横型および縦型SBD構造による特性の比較,表面化学結合手によるリーク電流特性の評価,AuやAlショットキー電極によるSBD特性の比較,CLによるキラー欠陥の評価など,さまざまな実験により明らかにした.そして最後に,結晶の高品質化とドーピング制御,ダイオード構造の最適化,デバイス作製プロセスの改善を同時に行う必要があることを提示し,今後の展開に必要な検討事項を明確に示した.

続いて産業技術総合研究所の梅沢 仁氏から「高温動作ダイヤモンドパワーデバイス」という題目にて講演が行われた.梅沢氏らは,ダイヤモンドSBDの高耐圧・高温動作・高出力化を目指し,ダイヤモンド基板の大型化からホモエピタキシャル成長,不純物ドーピングによる伝導性制御,デバイス構造の最適化と幅広い研究を行っている.講演では,まずパワーデバイスの必要性とその応用例を紹介し,SBDのオン抵抗と耐圧のトレードオフ関係を明確にした.続いて,高耐圧化のために非カーバイド化金属であるIr,Ru,Ptをショットキー電極に用いることが有用であることを示し,これら金属を用いて試作したダイヤモンドSBDの高温動作時の順・逆方向特性の評価結果を紹介した.Ruをショットキー電極として用いたダイヤモンドSBDは,400°C,1500時間その諸特性の変化がなく,高温動作時でのダイヤモンドデバイスのポテンシャルの高さを証明する結果であった.また大電流化のためにデバイスサイズを大きくすると,デバイス特性が急激に劣化してしまうことを紹介し,結晶欠陥密度の低減が不可欠であることを明瞭化した.最後にこれまで構築してきた結晶欠陥評価技術を駆使し,結晶成長やデバイスプロセスにフィードバックすることでほかの半導体を凌駕する特性を引き出せることを提示し,今後の展望へとつなげた.

休憩後の後半部ではSiCに話題を変え,三菱電機(株)の三浦成久氏から「SiCパワーデバイス開発の現状と展望」という題目にて講演が行われた.三浦氏らは,4H-SiC-SBDおよび4H-SiCMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)の実用化研究を遂行している.講演冒頭にてSi-IGBT(Insulated GateBipolar Transistor)と4H-SiC-SBDを用いたハイブリッドモジュールが鉄道(東京メトロ)に応用された記事の紹介をし,大電力応用の第一歩を踏み出していることを強調した.続いて4H-SiCSBDの研究により,デバイス特性に悪影響を及ぼすキラー欠陥が,3Cのポリタイプの混入によるものであったことを明らかとした.また4H-SiC-MOSFETでは,Siと比較して高温のプロセス,不純物の活性化アニール(〜1700°C),エピタキシャル成長(〜1500°C),酸化・窒化処理(〜1300°C)が要求され,装置開発が不可欠であったことを紹介し,低オン抵抗を得るために,セルピッチ10.m程度のユニットセルを多数並列配置した構造を用いチャネル幅密度を増加させることで対応したことを説明した.現状では,チップ面積9mm角のデバイスにおいて300Aという大電流が得られており,その際の実行オン抵抗は4mΩcm2,アバランシェ電圧は1.3kVを呈していた.最後にオン抵抗としきい値のトレードオフ関係を解説し,ゲート工程における窒化処理後のウェット酸化処理による高しきい値化の検討結果の紹介をした.

続いてGaNに話題を変え,パナソニック(株)の上田哲三氏から「GaNパワーデバイス開発とその応用」という題目にて講演が行われた.上田氏らは,Si基板上のAlGaN/GaN-HEMT(High-Electron Mobility Transistor)の実用化研究を遂行している.講演冒頭にて6インチSi基板上のGaN系HEMTデバイス写真を紹介し,面内の均一性と2000cm2(/V・s)を超える高い移動度が得られていることを,さらに動作電圧1000V以下であれば,実用化に全く問題がない特性が得られていることを強調した.パワーデバイス分野では,ノーマリオフ動作が強く求められており,p形AlGaN層をAlGaN層上に設けることで,ゲート下部のチャネル層を空乏化し,ノーマリオフ動作を実現していた.またオン状態においてゲートより正孔が注入された際に伝導度変調により電子が生成され,これによりドレーン電流が増加するため,ノーマリオフ動作を保ちつつ大電流・低オン抵抗動作を実現していた.このデバイスはGaN-GIT(Gate Injenction Transistor)との名前にて報告をしており,高速・大電流スイッチングデバイスとして紹介した.またGaN系HEMTデバイス特有の問題である電流コラプスもデバイスプロセスおよび構造により改善していた.最後にインバータ回路によるDC-DCコンバータやLLCコンバータの特性を示し,GaN系HEMTデバイスのポテンシャルの高さを示した.

講演会終了後,出席者の半数以上の出席のもと,懇親会にて講師を交えての意見交換や談話がなされた.ダイヤモンド,SiC,GaN系デバイスの諸特性はそれぞれ一長一短であり,良特徴を上手く利用することで,パワーデバイス市場を席巻できることを確信できる講演であった.最後に,講演をしていただきました講師の皆様に厚く御礼申し上げます.

 

井村 将隆(物質・材料研究機構)

 

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