■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ 平成25年度第2回研究会 ■■■ |
平成25年9月27日(金),東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「ダイヤモンド系工具と新材料」と題した平成25年度第2回研究会が開催された.ここ数年の間,年3回開かれる研究会のうち1回は機械・工具関連のテーマで企画されており,今回は「ダイヤモンド工具と新材料」をテーマに,新材料へのダイヤモンド系工具の応用展開を探るため,工具開発側からエンドユーザまでの企業から4件の話題が提供された.総計33名の参加者のあったこの研究会での講演内容を以下に簡単に報告する. 前半の部では工具開発に関連する講演が2件あり,はじめは株式会社東京精密の藤田 隆氏より「PCDブレードによる新しいダイシング加工技術」と題した講演がなされた.硬ぜい材料のダイシング加工においてレーザダイシング,プラズマダイシングのような新たな方法が導入されているが,機械加工によるダイシング技術を高度化するため新規にPCDブレードを開発し,安定した延性モードにおける高精度加工を目指している.PCDブレードでは加工形態の点だけでなく,座屈剛性,熱伝導性,ブレード幅,切れ刃自生などの点において優位な特長があることが示された.そして加工事例としてLow-k材,CFRP,単結晶SiC基板,超硬合金などへの高精度溝入れが可能であることが紹介された.今後はチタンなどの金属材料への応用も検討するとのことである. 次に,ユニオンツール株式会社の大ア英樹氏が「UDCシリーズによる超硬合金加工」と題し,昨年から市販されている超硬合金の切削加工が可能なダイヤモンドコーティング工具に関する講演を行った.超硬合金の加工は従来では放電加工,ダイヤモンド砥石による研削が一般的であり,超硬合金型を作製するには直彫り加工による三次元加工を進展させる必要がある.その際には工具に一層の高能率化,長寿命化が要求される.そこでダイヤモンド膜の密着性を向上させ,合成条件の調整により膜微細組織を制御して硬度とじん性を高めたコーティング工具を開発したことが紹介された.密着性向上についてはブラストテストにより他社製品との比較を行って確認し,加工中にエアブローで切りくずを排出することが寿命を高めるのに効果的なことが報告された.さらに,高硬度なバインダレス超硬合金のエンドミル加工,コーティングドリルによる止まり穴100個の連続加工などの事例が示された. 休憩を挟んでの後半の部ではダイヤモンド系工具のユーザ側からの話題提供があり,最初はキヤノン株式会社の小堺 隆氏による講演「光学部品金型とダイヤモンド工具」であった.光学部品成形用金型を製作するのにダイヤモンド工具は必須であり,特にプラスチック光学部品では非球面・自由曲面の平滑性,回折格子の複雑形状の表面性状が同時に求められるようになった変遷が概観された.部品製作の要となる型の加工法として旋削,フライカット,ミーリングが紹介され,用いられる工具の種類と合わせて各種加工法での課題が示された.単結晶ダイヤモンド工具では,古くから指摘されていたことであるが,適切な結晶方位の選択,易摩耗方位での誤差回避がポイントであることが強調され,今後のダイヤモンド工具に期待される特性が述べられた. 最後に,株式会社ジャムコの浅利和美氏が「エアバスA380CFRPフロアクロスビームの開発とダイヤモンド工具の使用」と題し,同社が供給しているCFRP製はり(梁)の開発経緯およびその機械加工に使用されている工具についての紹介をした.全長約7mに及ぶフロアビームには全長カット,フランジカット,トリムカット,軽減孔あけの加工が専用加工機によって施される.はじめはダイヤモンドコーティングエンドミルを用いた乾式加工で行われていたが,その後フランジカット以外はろう付けタイプのサーキュラブレード,ホールソーへと使用工具を変更し,加工時間の短縮を実現したことが示された.今後もエンドミル加工を減らす努力を続けるとのことである 講演の後には懇親会が開かれ,講演会出席者のうち19名の方々が残り,講師全員を交えて意見交換や談話が続けられた.今回は企業のみへ話題提供を依頼したが,このような機会はなかなか得られないので続けてほしいとの感想を耳にし,主催側としても有益な助言をいただいた.最後に,講演を快諾いただいた講師の方々に厚くお礼申し上げます.
平田 敦(東京工業大学) |