平成26年10月3日(金)13:00より,東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「平成26年度第2回研究会」が開催された.テーマは「ニューダイヤモンドを取り巻く超精密加工の最新動向」とされ,超精密加工分野において重要な工具材料であるダイヤモンドおよびcBNの開発動向,新たな加工手法や工具応用事例,難加工材である硬ぜい材料の超精密切削などが話題の中心となった.講師を含めて33名の参加者があった.
超精密加工は工具材料および工具,加工機,被加工物,加工手法・条件などを高度化して達成される総合技術である.したがって,超精密加工に携わる技術・学術は多岐にわたっている.今回はダイヤモンド・cBNとの関連で,超精密加工分野における最新の工具・加工機・加工事例を概観し,学術的取扱いにも焦点を当て,現状や今後の展開を探るために企画された.この分野に開発者,研究者として携わる4名の講師により話題提供がなされた研究会の内容を以下に簡単にまとめる.
前半部の最初の講演は,住友電気工業株式会社アドバンストマテリアル研究所の角谷 均氏による「高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド・cBNの特徴と精密・微細加工への応用」であった.単結晶ダイヤモンドは超精密切削では最も重要な工具材料であるが,被削材の高硬度・高強度化に伴い,へき開による刃先のチッピングや,摩耗特性の異方性による偏摩耗が問題となっている.講師らは超高圧下での黒鉛の直接変換によりへき開や偏摩耗の生じないナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)を開発しており,その超精密・微細加工用工具材料としての評価を行っている.NPDの合成法をはじめ,単結晶・焼結体に勝る高硬度・高温強度などの特性が紹介されたのちに,ZnSフレネルレンズやZnSe回折素子の加工例や,超硬合金が高精度に切削できることを示した.合わせて高硬度のナノ多結晶cBNについて触れ,焼入れ鋼に研磨面と同等の鏡面が切削により得られたことから,精密微細加工用用途に高いポテンシャルを有するとした.
次に並木精密宝石株式会社NJC技術研究所の大山幸希氏が「超難加工材料の高能率加工へのブレークスルー」と題し,SiC,GaNさらにダイヤモンドの高能率加工への取組みについて講演を行った.まず同社の事業内容の紹介から始まり,主力製品であったレコード針の加工技術についてビデオを交えながら説明がなされた.そして,固定砥粒による加工ではダイヤモンド表層にダメージが含まれるとし,仕上げ加工としてCMPの可能性を追っている.HPHT単結晶(100)研磨面に対してシリカ系,セリア系,特殊酸化剤系のスラリーを用いてCMPを行った結果,特殊酸化剤系スラリーでは表面の傷が消失するものの長時間を要することから,プラズマCVMとのハイブリッド法を考案したとのことである.CMP/P-CVM融合装置を試作し,加工実験をした結果,加工レートとともに表面粗さも改善されているとのことであった.メカニズムの解明が今後の課題とされた.
休憩をはさんでの後半部は,まず株式会社牧野フライス製作所の影山 貴氏により「高精密マシニングセンタによるダイヤモンド焼結体工具の応用事例」と題する講演がなされた.金型に要求される面品位や精度は非常に高くなっており,それを短納期で達成しなければならないため,加工機であるマシニングセンタの高精度化,高速化が進み,工具,加工技術も進化している.その事例として微細精密加工用マシニングセンタとダイヤモンド焼結体(PCD)工具による超硬合金および鋼材の仕上げ加工が主題とされた.開発されたマシニングセンタは,長時間の連続運転でも数mの微小切込みを維持し,高速送り指令に対する追従性に優れる性能を有している.超硬合金に対して,ダイヤモンド電着砥石による荒加工および中仕上げ加工,PCD工具による仕上げ加工の高能率プロセスが紹介された.このプロセスの応用として,超硬合金コーティングボールエンドミルによる荒加工,cBNボールエンドミルによる中仕上げ加工,R1mmのPCDボールエンドミルによる仕上げ加工により,ステンレス鋼や高速度工具鋼で約10nmRaの表面粗さを達成し,特定条件ではダイヤモンドの摩耗がなかったことから,ダイヤモンド工具では難しいとされた鋼材に対して研磨不要の工程として有望であることを示した.
最後に,慶應義塾大学の閻 紀旺教授が「半導体・光学結晶の超精密切削加工」と題し,シリコン,ゲルマニウムなど典型的な硬ぜい材料である半導体,光学結晶に対する延性モード切削加工技術の問題点と解決策に関する知見を整理して紹介した.クラック発生の原因となる引張応力を抑制するための方法として,切取り厚さの微小化,切れ刃断面形状の最適化,被削材結晶方位の選択の有効性が具体的な研究結果をもとにまとめられた.また,バイト摩耗を低減する技術として,大曲率半径の輪郭形状を有するバイトの適用や,ロータリーバイトに代わる揺動切削法を提案して,寿命向上とともに鏡面が得られたことが示された.さらに加工変質層形成の問題について触れ,単結晶Siの延性モード加工で数百nmのアモルファス層や転位層が形成されるとの例示がなされた.そして,今後の課題としてさらなる工具開発の重要性が強調された.講演後の懇親会には講演会出席者の2/3である22名が参加し,講師とさらに意見交換したり,出席者同士の談話に興じた.今回は最新の工具材料開発状況や加工事例が数多く話題として提示されるとともに,関連する学術的な取組みが系統立ててまとめられ,充実した内容であった.講演をいただきました講師の皆様に厚くお礼申し上げます.
平田 敦(東京工業大学)
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