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 報  告

 平成26年度第3回研究会 

 

平成26年度第3回研究会は,「ダイヤモンド電極:基礎・応用研究の最新動向」と題して,平成27年1月16日(金)東京大学生産技術研究所にて参加者39名を得て開催された.前半は,ダイヤモンド電極の基礎研究に関する講演,後半はダイヤモンド電極の新しい応用・用途に関する講演をしていただいた.

今回の講師の先生方は,4名とも慶應義塾大学理工学部の栄長泰明氏が研究代表者を務めるCREST(JST)のグループメンバであることから,講演に先立ち,栄長氏よりCRESTでの研究成果の説明と,今後CRESTからACCELへと研究プロジェクトが発展することになったことが紹介された.

続いて,慶應義塾大学理工学部の渡辺剛志氏に「ホウ素とsp2不純物炭素によるダイヤモンド電極の特性制御」と題してご講演いただいた.はじめに,ダイヤモンド電極の基礎的な特性について解説をしていただいた後,ダイヤモンド電極におけるホウ素濃度とsp2不純物炭素に注目して,用途に応じたダイヤモンド電極のデザインを試みるという研究目的について説明していただいた.ホウ素濃度が高いもの,低いものとsp2不純物炭素を含むもの,ほとんど含まないものを組み合わせた4種類のダイヤモンド電極をつくり分け,これらの電極の基礎的な電気化学特性のほか,有機物分解やオゾン水生成に用いた場合の特性比較を紹介していただいた.有機物分解やオゾン水生成では水溶液中での高電位印加によるOHラジカル発生の効率が影響してくる.OHラジカルを積極的に利用する水処理などでは,ホウ素濃度の低い電極やsp2不純物炭素成分が少ないものが適しており,一方,OHラジカル発生が抑制されるホウ素濃度が高くsp2不純物炭素を含む電極は,オゾン生成に適していることなど,用途に応じた使い分けが重要であることが説明された.

引き続き,「ダイヤモンド電極の化学反応性の第一原理シミュレーション」と題して,物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の館山佳尚氏にご講演いただいた.ダイヤモンド電極/水界面における電子状態を,第一原理分子動力学(DFT-MD)シミュレーションを用いて解析し,その反応性の微視的メカニズムの解明に迫ることを目的としていることが説明された.まずは,ダイヤモンドの表面終端(H,O,OH終端)の安定性や,ホウ素ドーピングによる電子構造への影響およびダイヤモンド結晶中のホウ素の安定構造に関する結果が説明された.次に,ダイヤモンド電極/水界面の構造に関するシミュレーション結果や,ダイヤモンド電極上でのFe(CN)63−/4−の電子移動反応の表面終端による影響についての検討結果を説明していただいた.これまで実験的に知られているダイヤモンド電極の特徴について,計算によりメカニズムを明らかにし,原理から理解するというチャレンジは大変興味深い.今後の研究の進展により,さらに多くのことが解明されていくだろうという印象を抱いた.

休憩をはさんで,筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の斉藤 毅氏に「ダイヤモンド電極を活用した有機電解合成」と題してご講演いただいた.はじめに,有機電解合成という技術について,電気化学の中での位置づけや,一般的な試薬を用いた有機合成反応と比較して,低コストでクリーンなプロセスが実現できることなどについて,わかりやすく説明をしていただいた.続いて,有機電解合成に用いる電極材料としてのダイヤモンド電極の特徴について説明していただいた.最も特徴的な特性は,メタノール中で陽極(アノード)として用いた場合,メトキシラジカルが非常に多く発生することである.メトキシラジカルを介した反応による生成物が選択性良く得られ,実際にこのプロセスを含む天然物合成を行うことができたことが説明された.さらに,ダイヤモンド電極を用いたマイクロフローセルによる有機電解合成や陰極(カソード)としてダイヤモンド電極を用いた研究例についても紹介していただいた.

最後に,東京理科大学理工学部の中田一弥氏に,「ダイヤモンド電極を用いた電解還元による二酸化炭素の資源化」と題してご講演いただいた.はじめに,二酸化炭素排出の問題やその削減に関わる技術,および二酸化炭素の電解還元に関する研究の歴史的な流れについてわかりやすく解説していただいた.続いて,ダイヤモンド電極を用いた二酸化炭素の電解還元実験について説明していただいた.他のさまざまな電極材料を用いた場合と異なり,ダイヤモンド電極を用いた場合では,二酸化炭素の還元生成物としてホルムアルデヒドが非常に高効率(ファラデー効率70%以上)で得られることが説明された.ホルムアルデヒドが特異的に生成するメカニズムについてもわかりやすく説明された.また,電解質として海水を用いた実験例やナノダイヤモンド粒子を用いた二酸化炭素の光触媒的還元の研究についても紹介していただいた.斉藤氏の講演に引き続いて,ダイヤモンド電極を用いることで有用な生成物が特異的に得られたという研究成果であり,従来から認識されているダイヤモンド電極の特徴とは異なる観点での,新しい有用性が引き出されたものといえる.

講演会では質疑応答も活発になされて盛会となったが,その後の懇親会も23名の参加者を得て,意見交換や議論が続けられた.最後に,講演をご快諾いただいた講師の先生方に厚く御礼申し上げます.

近藤 剛史(東京理科大学)

 

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