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 報  告

 平成27年度第2回研究会 

 

平成27年10月9日(金)13:20より,東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「平成27年度第2回研究会」が開催された.テーマは「DLCコーティング:機械・工具への適用動向と課題」であった.DLCに関しては,平成21年度に「DLC機械応用の進展」と題して開かれた研究会以来,7年ぶりに主題として取り上げられた.DLCは摩擦低減や表面保護膜として重要なコーティング材料になって利用が広がりつつあり,自動車部品など新たな応用事例,コーティング装置の進展,はく離をはじめとする評価および試験法が話題の中心とされた.この分野で開発者・研究者として活発に携わる5名の講師により話題提供がなされた研究会の内容を以下にまとめる.

前半部最初は,神奈川県産業技術センターの加納眞氏による講演,「DLCコーティングのエンジン摺動部品適用技術の進展」であった.自動車の燃費改善を目的にエンジン部品へのDLCコーティング適用が急激に増加していることを背景に,その歴史的進展,現在の動向についてCrNやTiNの硬質コーティングと比較しながら解説がなされた.適用難易度は工具,レースエンジン,量産エンジンの順に高くなるため,バルブリフタの実用化には長い開発期間を経たとのことである.さらに,将来展望としてアルミニウム合金製ピストン,ピストンリングへのDLC適用の取組みが紹介された.付着力の改善にタングステン微粒子をピーニングして分散層を形成する手法を提案し,その効果が示された.

次に株式会社神戸製鋼所の廣田悟史氏から「神戸製鋼所におけるPVD事業とDLCコーティング技術」と題し,同社で従来から取り組んできたアンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法に加えて,新たに開発したAC放電プラズマCVD装置とカーボンアーク蒸発源の紹介がなされた.AC放電方式は,チャンバをアノードとせず,基材同士に交流電圧を印加する方法であり,UBMS法に比べて最大5倍の成膜速度を達成しながら,UBMSによるDLC膜と同等の硬さを得ている.また,カーボンアーク蒸着源は棒状ターゲットの先端のみにアーク放電が発生するように磁界設計されたものであり,フィルタ構造なしで良好な膜厚分布や表面粗さを達成できることが確認されたとのことである.

休憩をはさんでの後半部では,まず産業技術総合研究所の大花継頼氏により「繰り返し摺動によるDLC膜のはく離の評価について」と題する講演がなされた.スクラッチ試験やロックウェル試験により膜の密着性が広く評価されているなか,繰返し荷重が負荷されるしゅう動部における密着性に対して往復動によるしゅう動試験で取り組んでいる.振動摩擦摩耗試験機(SRV)を用いて,ステップ的に荷重を増加させることではく離に至る限界荷重を評価する方法が紹介された.摩擦挙動は一定ではなく,摩耗粉の噛かみ込みなど偶発的な要因が影響すること,相手材・雰囲気・ストロークなどの摩擦条件によっても挙動が変わることを示唆し,はく離評価試験の標準とするためにはさらなるデータの蓄積が必要であると指摘した.

次に,日本アイ・ティ・エフ株式会社の辻岡正憲氏が「DLCコーティングの工具・金型への応用とその動向」と題し,自動車部品や機械部品のしゅう動部表面処理,工具や金型の表面処理としてDLCの適用が急速に広がりつつある現状を踏まえ,最近の動向について講演した.特に,高硬度,低摩擦,凝着防止性などの特長を生かして水素フリーのta-Cが,アルミニウム合金をはじめとする軟質金属に用いられる切削工具や金型の表面処理材として幅広く適用されている現状が紹介された.展望として,切削工具についてはいかにダイヤモンド工具に匹敵する性能を発現させられるか,金型についてはnmオーダの表面制御技術および樹脂成形金型などに対する超離型性・超撥水性DLC処理技術を実現できるかが重要との指摘がなされた.

最後にナノテック株式会社の平塚傑工氏から「DLCに関するISO規格提案の現状と今後の動向」と題して,DLC薄膜の信頼性確保のための評価・品質管理技術,さまざまな特性と密接に関連する微細構造を基礎とした分類法に関するISO規格を提案する活動について報告がなされた.同氏はNDFのDLC規格化委員会の委員であり,DLCに関するISO規格について規格作成から提案の実務まで主導的な役割を果たしている.提案規格として摩擦摩耗試験法,分類,光学特性試験法の3種類が現在取り扱われており,おのおのの内容,提案段階について説明がなされた.国際規格は世界共通の指標となるため,ユーザとメーカが同一の視点でDLCを活用する土台となり,この分野の発展に貢献できることが強調された.また,制定規格管理や業界発展に寄与する役割を担う団体となるDLC工業会の設立に向けた動きについて触れた.

講演後には33名の講演会出席者の約2/3である21名が参加して,引き続き講師との意見交換や出席者同士の情報交換の場として懇親会が開かれた.最新のDLCコーティング適用動向や事例が数多く話題としてあがるとともに,DLC応用に重要な評価に関連する取組み,国際規格提案など幅広く情報提供がなされた.

講演をいただきました講師の皆様に厚くお礼申し上げます.

平田  敦(東京工業大学)

 

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