カレンダーに戻る

 報  告

 平成27年度第3回研究会 

 

平成27年度の第3回研究会は,平成28年1月22日(金)に東京大学生産技術研究所にて行われた.参加者数は35名であった.本研究会は,「分光解析技術の基礎と応用」と題してこの分野の第一線で活躍されている4名の研究者をお招きしての開催となった.

秋田大学の山口 誠は,「カーボン材料の深紫外ラマン散乱測定」と題して,ラマン分光の原理から波長350nm以下の深紫外光を利用したラマン分光装置の特徴とそれを利用して取り組んでいる実験結果を紹介した.深紫外ラマンスペクトルの優位性としてDLCの評価において可視領域のブロードな蛍光成分を除去できる点をあげ,特に水素フリーのテトラヘドラルアモルファスカーボン膜においてDピークが非共鳴となることから,sp3起因のTピークが観測されsp3結合に関する情報が得られることを示した.

一方で,深紫外光照射による試料の損傷にも注意する必要があることも述べた.DLC膜測定時の深紫外光照射損傷の影響だけでなく,FIB加工後のダイヤモンド基板の深紫外光での評価から,深紫外光照射によって加工層(非晶質層)がエッチングされている可能性を実験的に示した.これらの結果は深紫外光の照射は構造評価法としては課題があることを示しているが,逆に深紫外光のエッチング効果を利用するとラマン測定・解析に新たな可能性を付与することにもつながると述べた.

兵庫県立大学の神田一浩は,「軟X線吸収分光法を用いた炭素材料の局所構造解析」と題して,分光法の原理と測定方法および最近の研究成果について紹介した.吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)測定法の特徴は炭素系薄膜に関して空準位を利用してsp2混成軌道に由来するピークを分離して観測できることであり,高精度・高確度の検出手段であることを紹介した.

また,DLC膜のNEXAFSスペクトルからのsp2/sp3比の決定法について紹介し,NEXAFSから求めたsp2比がDLC膜の硬さと相関性があることから製膜条件の最適化に有効であることを述べた.この評価法はDLCの規格化のための有力な手法であることを示している.また,近年広がりを見せているヘテロ元素含有DLC膜の評価についても紹介し,分析・評価法としての優位性を強調した.

東京大学の石川 亮は,「ADF-STEM法による単原子ドーパントの解析」と題して,走査透過電子顕微鏡法を用いた原子レベルイメージングを中心に電子エネルギー損失分光法やカソードルミネセンスなどの分光解析について紹介した.立方晶系窒化ホウ素やウルツ鉱型窒化アルミニウムに発光起源となる不純物元素ドーピングすることで光電子デバイスの実現が期待できるが,その欠陥構造やドーピングメカニズムの解明が課題とされてきた.

これらの課題に対し,局所解析・観察法を適用することで原子種とその位置を可視化できることを紹介した.観察実験とは独立に行った第一原理計算の結果は観察データと良い一致を示していることを示した.また,最新の分析手法では単原子ドーパントの局所構造だけでなく原子数のカウントや大収束角を用いた深さ分解能の向上など,画像解析は三次元的な情報が得られるレベルにまで進化していることを紹介した.

長岡技術科学大学の斎藤秀俊は「エリプソメトリーによるDLC膜構造解析の最前線」と題して,その基本原理とこれまでに得られている研究成果について紹介した.DLC膜については現在ISOの規格化が進められているが,視覚的に判断できる分類法の提案を行っており,その分類にはエリプソメトリーが最適であることを紹介した.DLC膜の屈折率すなわち“つや”とヤング率との間の相関性から,屈折率を測定することで膜の分類を試みるものである.測定が簡便であることから現場レベルでの応用が期待される有効な手法であることを紹介した.

本研究会は第一線で活躍している研究者を招聘して,これから分光解析を予定しているビギナーからスペシャリストまでを幅広く対象として企画された.各講演において多くの質疑応答がなされ,各種分光解析の基礎から応用,そして将来展開までをも学ぶ良い機会となったと思う.今後も会員のニーズや最新の情報を精査してより有意義な研究会を企画したい.

最後に,ご講演をいただきました講師の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.

葛巻  徹(東海大学)

 

▲ Top ▲