■■■ 報 告 ■■■ |
■■■ 平成28年度第2回研究会 ■■■ |
平成28年11月4日(金)13:30より,東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「平成28年度第2回研究会」が開催された.今回のテーマは「トライボロジー50周年─ニューダイヤモンド・ナノカーボンとの接点─」とされた.“トライボロジー”は相対運動を行いながら相互作用を及ぼし合う表面およびそれに関連する実際問題の科学技術として定義されているが,この用語が提唱されたのが1966年にまとめられたジョスト報告においてであることから,2016年で50周年ということになる.CVDダイヤモンド膜の初期の応用は切削工具材料へのコーティングであったが,そこではまさに高温高荷重下で接触,相対運動する工具刃先と工作物の相互作用は重要なトライボロジーの問題であった.その後もDLC膜,窒化炭素膜,近年ではナノカーボンも加わって潤滑性,耐摩耗性が評価されており,トライボロジーとは密接な関わりをもち続けている.そこで,この分野における新たな応用展開や評価の取組み,研究の進展をトピックスとして,4名の講師により講演がなされた.それらの内容を以下にまとめる. 前半部最初の講演は,アプライドダイヤモンドの武田修一氏による「ナノダイヤモンド応用の新しい提案“FrictionalManagementD3X”」であった.まず,ダイヤモンドの工業的トライボロジー応用を妨げている要因として,粒子形態に由来する切れ刃作用,膜における耐破壊信頼性の保証,加工技術および加工品質の確保,原価に見合った機能発現技術の4点を指摘した.それらを克服する方法として,ナノダイヤモンド,独自加工・分散技術,エマルション技術のコラボレーションを提案した.高濃度にナノダイヤモンドを含有させた油滴を界面活性剤で覆って水中に分散させた水中油型エマルションを開発し,その潤滑性能や耐アブレージョン性を試験した結果を示した.さらに,今後の応用分野拡大に向けた展開について触れた. 2番目に産業技術総合研究所の石原正統氏から「DLCコーティングにおける産業技術連携推進会議の取組み」と題し,公設試験研究機関(公設試)相互,および公設試と産業技術総合研究所との連携で,中小企業に対する技術支援を目的として,ラウンドロビンテストを通じてDLC評価法の検討を進めている事業について紹介がなされた.まず平成24年度にはCVD法,PBII法,スパッタ法,CVA法で作製されたDLC膜を対象として,ナノインデンテーション硬さについては成膜方式でおおよそグループ分けできたこと,摩擦摩耗試験では同一条件にもかかわらず試験機関で摩擦係数にばらつきが生じたことが示された.そして,今年度には,DLC膜の摩擦摩耗試験に関する規格ISO18535の発行を受け,これまで得られた結果を生かしつつ当該規格に準拠したDLC膜およびCrN膜のラウンドロビンテストを実施するとのことである.参加機関は約15であり,DLC技術の進歩に寄与する活動として期待される. 休憩をはさんでの後半部最初の講演は,電気通信大学の佐々木成朗氏による「カーボンファミリーのナノトライボロジー」であった.講師らのグループでは摩擦を制御する材料やシステムを数値的・理論的に開発する研究が進められている.そのなかでカーボンファミリーのナノトライボロジーに着目し,ナノスケール摩擦の素過程の理解を目指した研究例として,グラフェンをスライドさせる方向によって格子の整合性に差が生じるため摩擦力の異方性が現れること,グラフェンを垂直方向にはく離する力に水平方向の摩擦力の情報が含まれていること,フラーレン分子をグラフェン層間に封入した構造で摩擦力が極めて小さくなることなどを紹介した.最後に,名古屋大学の梅原徳次氏が「カーボン系硬質膜の低摩擦現象発現時の摩擦面その場観察」と題し,反射分光分析法に基づく摩擦面その場観察・分析装置およびDLC膜,CNx膜の摩擦時の構造変化を評価した結果について解説した.摩擦面の構造変化層は超低摩擦をもたらすとしてその生成メカニズムや構造を詳細に調べることが必要であるが,数〜数十nmと薄く,さらに摩擦に伴って構造が随時変化するため,その場での評価法が求められてきた.講師らはカーボン系薄膜に対して,反射分光法を適用した結果,構造変化層極表面の光学特性変化から,屈折率,消衰係数,膜厚の検出,さらにそれらから摩擦係数の推定が可能となることを示した. 講演後には36名の講演会出席者の2/3である24名が参加しての懇親会が開かれ,出席者同士の歓談や講師との意見交換が行われた.トライボロジーにおけるニューダイヤモンド・ナノカーボンの役割は大きく,話題も豊富である.いずれ違った形でトライボロジーとカーボン材料の関連を探る研究会を企画できればと考えている.講演をお引き受けいただきました講師の皆様には厚く御礼申し上げます. 平田 敦(東京工業大学) |