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 報  告

 平成30年度第2回研究会 

 

平成30年10月1日(月)13:00より,東京大学駒場リサーチキャンパスにて「平成30年度第2回研究会」が開催された.本研究会のテーマは「二次元ナノマテリアルの最新動向」である.二次元ナノマテリアルとは,グラフェンをはじめとした原子レベルの厚みしかもたない層状物質を指す.これら層状物質の各層はファンデルワールス力という弱い力で結合しているため,簡単に単原子層まではく離することが可能である.さらにファンデルワールス力によりさまざまな二次元ナノマテリアルを積層する「ファンデルワールスヘテロ構造」という新たな概念が生み出され,世界中で研究される熱い分野となっている.本研究会では,種類が増え続けている二次元ナノマテリアルの動向に関して,主に結晶成長とヘテロ界面特性の観点から議論がなされた.

最初の講演は,東京工業大学の笹川崇男氏による「二次元ナノマテリアルの研究に向けた層状物質の単結晶・物性開拓」である.50種類はあろうかという多種多様な二次元ナノマテリアルを昇華法・化学的気相輸送法・溶融法・Bridgman法・溶媒法・溶媒移動浮遊帯域法などさまざまな手法を駆使し,単結晶試料の作製に成功している.その中で特に注目すべき二次元ナノマテリアルの一つは黒リンである.直接遷移型バンドギャップをもつ半導体はトランジスタ機能や光機能をもつデバイス材料として重要である.黒リンはグラフェンと単層遷移金属ダイカルコゲナイドがもつ物性を補完する位置にあり,応用に向けた研究が盛んに行われている.2008年に超高圧を必要としない合成方法が開発され,黒リン研究が加速した.笹川氏は鉱化剤組成および温度プロファイルなどの条件を最適化した気相輸送法によって,非常に純度が高い結晶の育成に成功している.二つ目はトポロジカル物質である.今世紀になって,トポロジー効果に相対論効果も加え,当初理論の一次元や二次元から自然に存在する三次元のバルク物質に対象を移すことにより,トポロジー物質の研究は大きく発展した.笹川氏は高絶縁性トポロジカル絶縁体(Sn- BiSbTe2S)の単結晶材料を活用して,トポロジカル表面電子状態の上面と下面を独立にキャリヤ制御することに成功している.基板上で垂直方向に非対称性を生じたトポロジカル絶縁体が上下面で異なる表面状態をもつという本質的な現象を指摘した,基礎科学的にも応用上も重要な成果であるといえる.

2番目の講演は,首都大学東京の宮田耕充氏による「原子層ヘテロ構造の成長と機能開拓」である.原子層ヘテロ構造は,異なる原子層がファンデルワールス力で「積層したヘテロ構造」と共有結合を介して「面内で接合したヘテロ構造」の2種類に大きく分類される.面内で接合したヘテロ構造は転写法ではなく直接成長によって2種類のヘテロ構造を合成することにより実現し,界面への不純物の混入やしわ・バブルの形成などを制御しやすいため,高品質かつ大面積な試料を作製できる可能性をもつ.宮田氏はCVD合成により単層グラフェンとhBNの面内ヘテロ構造,MoS2/WS2といった遷移金属ダイカルコゲナイドの面内ヘテロ構造の合成に成功している.また,驚くべきことにグラファイトやhBN基板上に成長させた遷移金属ダイカルコゲナイド原子層が,基板上でスライド可能であることを発見している.遷移金属ダイカルコゲナイド原子層を金属の針で接触させた場合に別の場所にスライドでき,異なる遷移金属ダイカルコゲナイド原子層のグレイン端での接触,積層構造の作製,単一結晶の分割,局所ひずみの導入,架橋構造の作製が実証されている.このようなスライド可能な原子層の実証は,摩擦や吸着現象の基礎的な理解,新奇二次元ヘテロ構造の作製や積層結晶方位の連続的制御などへの応用が期待される.

3番目の講演は,筑波大学の岡田晋氏による「層状物質ヘテロ構造の物性」である.複数の原子層物質からなる面内ならびに層間のヘテロ構造それぞれについて,その電子物性について計算物質科学による理論計算によって得られた知見をご紹介いただいた.グラフェンとhBNの面内ヘテロ構造の境界の安定性について,境界の形成エネルギーを計算すると8°のカイラル境界がエネルギー的に再安定になることがわかった.またグラフェン/hBN層間ヘテロ構造において,グラフェンの電子構造が層間の相互作用により,ディラック点で100meV弱のギャップが形成されることがわかった.これらの結果は二次元ナノマテリアルのヘテロ構造を設計するうえで重要な知見であるといえる.

なお,最後に予定していた東京理科大学の山本貴博氏の講演は,残念ながら体調不良ということで見送られた.一刻も早い快復とさらなるご活躍を願っている.

講演後には懇親会が行われ,出席者どうしの有意義な意見交換がなされた.二次元ナノマテリアルの分野は世界的に見ても盛り上がっており,このような研究会が開かれたことは非常に有意義であったと考えている.講演をお引き受けいただきました講師の皆様には厚く御礼申し上げる.

町田 友樹(東京大学生産技術研究所)

 

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