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 報  告

 平成30年度第3回研究会 

 

平成31年3月1日(金)13:30より,東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「平成30年度第3回研究会」が開催された.テーマは「ダイヤモンド・cBN工具による難削材切削加工の基礎と応用」とされた.これまで研究会で話題提供される講演内容は主にテーマに関連する最近の研究開発動向であったが,今回は前半部にチュートリアルを採り入れ,材料と加工技術それぞれの観点から難削材切削加工を基礎的にまとめた講演が設定された.そして,この分野における新たな開発展開や応用事例をトピックスとして後半部が構成され,計4名の講師により話題提供がなされた.それらの内容を以下にまとめる.
 前半部最初の講演は,広島大学特任教授の山根八洲男氏による「材料特性から見た被削性」であった.まず,切削加工は非常に多くの入力と,それに対応した多くの出力を伴う加工であることが示された.そして,超硬工具を標準工具,低炭素硫黄快削鋼B1112を基準材として,定量的な比較に利用されている被削性指数が紹介され,その問題点が指摘された.そのうえで,被削性の評価基準である切削抵抗,工具寿命,仕上げ面品位および寸法精度,切りくず処理性,切削温度,凝着性に関連する材料特性として硬さ,引張強さ,伸び,熱特性値を抽出し,これらを軸とするレーダチャートを提案した.レーダチャートの形状から材料の難削性がある程度推測でき,熟練技術者であればそれに応じた切削条件設定などが可能とのことであった.さらに,このチャートを複合材料に当てはめた場合についても触れた.
 2番目に東京電機大学特別専任教授の帯川利之氏から「難削材切削加工の基礎」と題し,加工技術からの対応策,特に常識に当てはまらない事例について,基本的な視点から説明がなされた.通常,多くの難削材加工では切削条件を一般の材料より緩和して適切な切削条件とする対策がなされている.これに対し,切削条件を緩和しすぎるとかえって切削状態が悪化するため,想定以上の切削速度を維持する場合,すなわち切削速度を下げてはいけない加工事例が提示された.工具摩耗は凝着,熱的損傷,機械的損傷の関係で決まり,そのため摩耗が最小になる最適切削温度が存在すると理解されるとした.さらに,コーテッド超硬合金工具,高圧クーラントの利用が難削材切削加工に有効であることを指摘した.
 休憩をはさんでの後半部最初の講演は,オーエスジー株式会社の稲吉宏文氏による「CFRPの切削加工用ダイヤモンド被覆工具について」であった.CFRPの被削性は非常に悪く,デラミネーションやアンカットファイバと呼ばれる特有の問題も生じる.そこで,CFRP用切削工具にはシャープな切れ刃,シャープさを維持する耐摩耗性,低抵抗,抵抗分散形状,耐チッピング性,切りくず排出性が求められることを示し,工具材質にはPCD,ダイヤモンドコーティング・電着が必須になっているとした.そして,工具形状の最適化が重要であるとし,さまざまな形状のエンドミルが紹介された.質疑応答では,切れ刃がどのくらい鋭利であるかが,カーボンファイバの切断状態との関係で議論となった.
 最後に,住友電工ハードメタル株式会社の久木野暁氏が「ダイヤモンド・cBN工具による難削材加工について」と題し,多種多様な難削材の高速・高精度切削を可能にする新たな硬質材料であるダイヤモンド・cBN焼結体,およびそれらの特性を活用した切削工具,切削事例を採り上げ,話題提供した.バインダレスの多結晶ダイヤモンド焼結体,cBN焼結体を用いた工具により,超硬合金,ねずみ鋳鉄,CoCr合金,Ti合金,Ni基合金の仕上げ切削加工において長寿命化,高速化が可能になるとの事例が豊富に紹介された.
 今回の研究会には講師を含めて42名の出席があり,研究会後の懇親会には26名が参加して講師を交えた出席者どうしの歓談や意見交換が行われた.難削材切削加工の分野では,新たな工具材料,工具形状,工作物材料,加工技術の出現が絡み合って,常に進展や模索が続いている.特にダイヤモンド,cBNの役割は大きく,その動向を探る研究会を再度企画できればと考えている.話題提供いただきました講師の皆様には厚く御礼申し上げます.

平田  敦(東京工業大学)

 

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