カレンダーに戻る

 報  告

 2021年度第1回研究会 

 

2021年度第1回研究会が2021年9月3日(金)13:30より,Microsoft Teamsを利用してオンライン開催された.最初のコロナウイルス感染拡大の影響で2019年度第3回が延期されてから研究会は開催されなかったため,約2年ぶりとなった.テーマは「ダイヤモンド系工具による高精度・超精密加工」であり,2019年度第3回研究会として3件の講演で構成された企画を引き継いだものである.ただし,開催時期が変更になったことから講演依頼先についても調整する必要が生じ,今回のプログラムとなった.以下に講演内容をまとめる.

はじめに東京大学の臼杵年氏からチュートリアル的な講演として,「難削材料切削時のコーティング工具の損傷機構とその対策について」と題した話題提供がなされた.切削工具に関する俯瞰的な視点からの課題として,PVDコーティング技術の基礎から切削時のコーティング損傷機構,そして最新の損傷低減対策に関する内容であった.コーティング損傷機構として,TiNコーティング工具によるNi基超耐熱合金(Inconel718)とTi合金(Ti-6Al-4V)の連続切削において,TEMやEBSDを用いてTiN膜と凝着層を詳細に評価した結果が紹介された.Inconel718において凝着層はTiN膜との親和性が低いため,膜の塑性変形による微細破壊が進むのに対して,Ti-6Al-4Vの場合,凝着層組織の結晶粒はInconel718加工時に比べて1桁ほど小さくTiN膜との親和性が高いため,凝着層内で生じたクラックが膜へ伝搬し大きな破壊を伴う進行となる,異なる現象が示された.また,上記損傷現象の理解をもとに断続切削における損傷対策として,応力計算を用いた最大せん断応力発生位置予測により,厚み1μm程度の薄膜が有効であることを実証結果とともに示した.最後に,Ti-6Al-4Vに対する工具摩耗低減対策として,凝着層組織の結晶粒微細化を防ぐ目的とした工具逃げ面からのエアブローの効果とともに最新の取組み状況が紹介された.

次は「ダイヤモンド系工具による金型鋼の高精度・微細加工」と題した,名古屋大学の社本英二氏の講演であった.金型鋼の高精度・微細加工に対するダイヤモンド切削の新たな可能性として金型材や加工技術からの取組み,そして最新の研究内容に関した話題提供がなされた.金型鋼のダイヤモンド系工具を用いた切削加工の実現例として,超音波振動切削加工法の原理とともに振動方向による加工の特徴が紹介された.工具へ切削方向の超音波振動を付加することにより工具刃先は間欠的に被削材と離れるため,切削時に生じる鋼の活性な新生面は空気に暴露され,この新生面にはダイヤモンド工具の鋼への拡散摩耗を抑制するための保護層が生じる結果,工具の激しい摩耗を抑えた鏡面加工を可能としている.また超音波楕円振動切削加工法を用いることによって,さらなる高品位な仕上げ面と工具欠損抑制の両立が可能となり,平面加工だけに及ばずマシニングセンタへ適用することにより,研磨工程を用いた仕上げ面(約50nmRz)と同等の鏡面仕上げが自由曲面加工においても可能なことが示された.おわりに,高速高精度なレーザ加工法により鋭利化したCVDダイヤモンド工具を用いた超音波楕円振動切削においても鏡面加工は実現可能であり,ダイヤモンド切削の金型鋼加工適用への可能性の高さが示された.

最後に(株)IMUZAKの澤村一実氏から「バイオミメティクスと超精密微細加工技術及び最新動向」と題する講演がなされた.社会的課題解決に向けて,ダイヤモンド工具を用いた超微細加工技術を適用した事例が話題の中心であった.生物特有の構造や優れた機能を模倣するバイオミメティクスの紹介とともに,その実現手段として超微細加工技術を適用している中からダイヤモンド工具を用いた微細加工技術における構造模倣例が示された.紹介された加工技術は,2番目の講演で取り上げられた超音波振動切削加工法であり,樹脂やガラス材などの表面に対しサブミクロンオーダの凹凸加工が実現できるものであった.例として,モニタなどへの映り込み低減や自動運転用センサカバーの赤外線領域の透過率を向上させる曲面への構造として注目されているモスアイ構造をめっき上へ形成して無反射を発現した加工事例,スマートフォン用カメラのゴーストフレア対策を目的とした非球面上への微細加工事例,そしてLiDAR向けセンサのカバーレンズの水滴付着や曇り防止を目的とした表面への親水特性付与の微細加工事例が紹介された.

コロナ禍の最中,講師含めて39名の参加が得られた.快く講演を引き受けていただいた講師の方々には,この場を借りて厚くお礼を申し上げます.

矢野 雅大(三菱マテリアル株式会社)

平田  敦(東京工業大学)

 

▲ Top ▲