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 報  告

 2023年度第1回研究会 

 

テーマ:「ナノカーボン・二次元材料と量子エレクトロニクス」
開催日時:2023年10月3日(火)13:30〜16:50(懇親会17:00〜)
場所・形式:ハイブリッド形式(東京大学生産技術研究所An棟4階An401/402号室+オンライン)

 

本研究会ではグラフェン,カーボンナノチューブなどのナノカーボン材料および層状構造をもつ六方晶窒化ホウ素の量子エレクトロニクス応用をテーマにして開催された.グラフェン,カーボンナノチューブなどのナノカーボン材料はダイヤモンドとは異なり,炭素原子のsp2混成軌道から形成されている.そのためグラフェンは金属でありカーボンナノチューブは金属または半導体の性質を示す.これらのナノカーボン材料は可視光から赤外の波長における光検出器や発光素子と相性が良く,ダイヤモンドとは異なる分野において活躍する炭素材料である.研究会では4名の招待講演者からナノカーボン材料における最先端の物性研究の成果を紹介いただいた.

NTT物性科学基礎研究所の熊田倫雄博士の「グラフェンテラヘルツエレクトロニクス」の講演では,パルス光とオンチップ光スイッチを組み合わせることによる,グラフェンの光熱電効果を時間分解測定した結果について紹介された.グラフェンの光熱電効果が220GHzという高速動作が可能であることを示された.グラフェンは可視光からテラヘルツまでの非常に広い波長範囲の光吸収をもつことから,グラフェン光検出器は高速かつ高帯域の光検出器応用の可能性があることを意味している.
 東京大学の佐々木健人博士からは「六方晶窒化ホウ素中の欠陥を用いた局所磁場計測」という題目で講演いただいた.ダイヤモンド中の窒素─空孔中心は,以前から量子センサや単一光子光源としての応用が期待されているが,層状物質である六方晶窒化ホウ素(hBN)中の欠陥が類似の特性を示すことが近年の研究でわかりつつある.佐々木氏はこの点に早くから注目し,hBNの量子センサの性能評価を行ってきた.ダイヤモンドと異なりhBNは非常に平坦な表面が得られるため,量子センシングにおいて高い空間分解能を実現できる可能性が示された.現在の課題として,発光強度の増大の必要性についても言及された.

理化学研究所の加藤雄一郎博士には,「カーボンナノチューブの励起子物理と共振器量子電気力学効果」について講演いただいた.一次元構造をもつカーボンナノチューブでは,その次元性の効果により励起子の束縛エネルギーが非常に大きくなること,強い励起子発光が得られることについてわかりやすく説明していただいた.さらに,カーボンナノチューブからの単一光子発光の実現や共振器を用いた発光強度の増大について説明され,カーボンナノチューブの近赤外光デバイス応用の可能性が示唆された.

日本原子力研究開発機構の保田 諭博士からは,「グラフェンを介した水素同位体イオンの量子トンネル効果と水素同位体分離技術への応用」について講演いただいた.電気化学デバイスを利用し,単原子層グラフェン膜を用いて水素(H)とその同位体である重水素(D)を分離する非常にユニークな研究が行われている.これまでの重水素の製造法は,HとDを分ける能力であるH/D分離能が低いためコストが高く,新しい動作原理によるH/D分離方法の開発が望まれていた.本研究では,単原子層グラフェンが高いH/D分離能を示し,さらにその起源が量子トンネル効果過程において重水素イオンよりも水素イオンのほうがグラフェン膜を透過する確率が高いことに起因することを示された.ナノカーボンの応用可能性を広げる結果であり,多くの質問があった.

本研究会はハイブリッドで行われ,現地参加とオンラインを合わせて約20名の参加があった.研究会中は非常に活発な議論が行われ,講演者が休憩時間や懇親会中にもずっと質問を受けて議論している様子が印象的であった.

守谷  頼,町田 友樹(東京大学生産技術研究所)

 

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