■■■ セミナー報告 ■■■ |
■■■ 平成20年度第1回セミナー ■■■
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2008年10月17日にニューダイヤモンドフォーラム主催平成20年度第1回セミナーが産業技術総合研究所臨海副都心センターで開催された.「DLC基礎講座,DLCのすべて―成膜装置から評価,応用まで―をテーマとし,8名の講師による講演とDLCの作製・評価装置メーカである(株)栗田製作所,(株)堀場製作所,(株)フィッシャー・インストルメンツによる機器紹介が行われた.会場には満席に近い56名の出席があり,大変盛況であった.以下に本セミナーの講演の概要を述べる. まず,DLC膜を製品化している日本アイ・ティ・エフ(株)の中東孝浩氏より「広がるDLCの用途」という題目で講演があった.AisenbergによるDLC膜の命名から実際の産業界の要望や用途など,多岐にわたる講演であった.特に産業界でのDLC膜適用の拡大の裏に,有害化学物質規制があることが述べられた.RoHS指令,REACH規則,PFOS規制などによって規制対象物質が加工やしゅう動で使用できなくなり,代替材料としてDLC膜が無潤滑しゅう動や無潤滑切削などへ応用され,適用量が上昇傾向にあることが示された. DLC膜の最大の応用用途である機械分野に関する講演が名古屋大学の大竹尚登氏により行われ,ボルト締結部でのフレッチング摩耗抑制にDLC膜の低摩擦係数の利用が効果的であることが述べられた.さらに機械用途へのDLC膜の適用によるCO2排出量の低減効果についても講演され,LCA分析をもとにした計算の結果,アルミニウム合金の切削関連工具へのリコートを含めたDLCの適用によりCO2排出量が約10万tから約2万tへ低減できる可能性が示された.また,東京工業大学の平田敦氏よりトライボロジーおよび硬さ評価法に関する講演もなされ,DLC膜のしゅう動時の相手材への膜移着による問題点やその移着膜自体の観察例が少ないことが述べられた.また,これらDLC膜の摩擦摩耗の原因が原子レベルでの凝着である可能性が高いことも示された. 近年の医用応用に関する話題として「メディカルを支えるDLC」が東京電機大学の平栗健二氏より講演された.生体内でのDLC膜の安定性評価を中心に講演が行われ,細胞成長の安定化のための表面処理技術の紹介が行われた.歯科用材料として用いるNi/Ti系合金からの体内へのNi溶出抑制のため,合金表面へDLC膜をコーティングすると,Ni溶出を大幅に低減できることが示された.さらにウィスター系ラットに対してDLC膜を適用した医用部材を置体し,留置試験を3か月行った結果,DLC膜が安定留置されることが示された. 東邦大学の長谷部光泉氏より「DLC表面構造の基礎」という題目でDLC膜の適用による医用部材表面への血液吸着の抑制効果について述べられた.血管内の血栓抑制のため,ステント表面にDLCコートすることで通常のステントより血栓発生を抑制でき,さらにフッ素をDLC膜内に添加することで血栓の原因となる血小板の付着を大幅に低減できることが示され,本ステントの動物実験が進行中であることも示された. 学術的観点より,兵庫県立大学の神田一浩氏により「DLCの内部構造の基礎」という題目で,DLCの構造評価技術についての講演があった.吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)によるsp2/sp3比率や弾性反跳分析(ERDA)による水素含有比率の評価,X線反射率(XRR)法による密度測定を中心に構造分析技術に関する解説が行われ,複数の機関のさまざまなDLC膜を評価した結果をもとに,各特性因子と構造の関係性について講演がなされた.また,DLC膜作製に多く用いられるプラズマ中の膜前駆体の分析技術に関して長岡技術科学大学の伊藤治彦氏より講演があった.プラズマの発光分光技術や発光を捉えることができない場合に用いるレーザ誘起蛍光分光(LIF)の適用事例などが紹介された. 最後に「DLCを使いこなすための基礎」という総括的講演が長岡技術科学大学の斎藤秀俊氏からされた.“DLC”という名前ながら,ダイヤモンドの特性や構造から大きくかけ離れたDLCが多いことが示され,基準策定の重要性が述べられた.そのDLCを標準化するためのリサーチクラスタによる総合的なDLC評価結果や今後どのように進められるかについて講演があった. 今回のセミナーは“基礎講座”としているが先端的なものも含まれ,現在のDLCの適用状況や今後のトレンドまで幅広いものであった.講師陣はいずれも先端的なDLC研究者であり,一堂に会した本セミナーは貴重なものであった.参加者の数からも今後のDLCの適用分野や適用量は上昇すると考えられ,DLCに対する期待の大きさも感じられた.その一方で,どんな構造・特性であっても“DLC”の名称を使用する現状では,応用における問題点が普及とともに増加することが考えられ,総括的講演で話題にあがった構造・特性双方からの標準化は永続的なDLC発展・普及のために不可欠であり,今後このようなセミナーやシンポジウムでは“DLC標準化”の議論が不可欠であろう.今回のようなDLC普及や応用分野拡大のための基礎的セミナー開催とともに,産業運用上での混乱を避けるためにもDLC基準策定の議論の場が必要であろう. 赤坂 大樹(長岡技術科学大学) |